女難の回避は紙一重

 皆さんはご存知ないだろうが、うちの学校の文化祭は、夏休みが開けてすぐ準備期間に入る。クラスで店などをしてワイワイするのだが、なにせ学校全体の行事なので、学年間の交流も深まる.......

 そして、放課後にも関わらず満面の笑みで目の前に佇んでいる一年生女子は、文化祭の事で俺に話しかけてきたらしい.......

 ポニーテールの可愛い女子だ。

「な、なんで文化祭の事を俺に聞くんだ?他に優しい先輩とかいるだろ、この死んだ魚のような目をしてる俺に聞かなくても.......」

「あっ、自覚があるようでなによりです!」

 このガキ.......!可愛い見た目してこんなこと言うのか!まぁしかし、こんな時に文化祭の事を聞くのは流石におかしい。トモキの言う通り注意して、と。

「んで、お前名前は?」

「八重桜さきです!」

 元気の良いやつだな.......流石に犯人と疑うのは思い込みすぎか。

「先輩、私.......」

「なんだ?」

「先輩と文化祭回っていいですか!?」

 な、なぬぅ!?やはりモテ期なのか?

「一応、誰からも誘われてない、だがな?流石に一年生女子と歩くのは.......」

「やっぱりそうですよね.......今回は諦めます.......えっと、あの、私のクラス、今日のホームルームでロミオとジュリエットに決まったんです。良かったら見に来てくださいね」

「お、おう.......」

そう言って彼女は、先程まで縛っていた髪を解いて、ゆっくりと歩いていった.......


 トモキは顔をしかめながらせっせと歩いていた。少し焦りながら物事を考える時、トモキには早歩きになるという癖がある。

「さて、どうやって卒業までにかなえを落とせるものだろうか.......」

 トモキはこう見えても戦略を考えることに優れている。時より感情的になることはあるが、彼の冷静な時の頭の回転は、彼のボードゲームの戦歴からも見て取れる。

 ちなみにヤマトはチェスでトモキに勝ったことがない。

「恋もボードゲームみたいだったらなぁ.......」

 トモキは空を見上げた。放課後から三十分ほど経った九月、空は丁度夕焼けが夜空に押し出されているようだった。オレンジと紺色が入り交じっている、境目は分からない.......

 「オセロははっきり白黒付けてくれるのにな.......オセロ?」

 トモキの脳裏にオセロの盤面が投影された。

 オセロは端を取ることで一気に逆転を狙える.......かなえ自身も知らないようなかなえの事を、俺が一手させれば.......!

「よし!かなえすら知らないところを沢山発見してやる!」

 また新たに決心した彼が、立ち止まり上を見ると、空は暗いながらも、綺麗な星空に変わっていた────


 ────トモキが恋の戦略を考えている時、ヤマトは電車の中だった。

 車内は混み合っていて、所狭しと人、人、誰かのバックを挟んでまた人である。

 少し遅れて乗車していた俺は、出入口で電車の開閉ボタンを押す係として、必然的にボランティア活動をしていた.......

 次、次なんだ。次でこのむさ苦しい箱から出れるんだ.......

 俺が降りる予定だった駅に着き、開くのボタンが光った。

 きたぁぁぁ!ポケットに入れていた手を、ボタンを押すために出そうとした時────

「すいませーん、ここに痴漢がいるんですけど」

「いやっ、俺はボタンを押そうとし」

 ピコンピコン!無慈悲な電子音は、俺の降りる駅を突き放したのだった.......

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