寄り添い合う力

  親友と喧嘩別れをし、自分に恋をしてくれた二人をも傷つけて、電車でかえっているとき、俺は偶然にも碇先生に出会った。


 ────「そうか、そんなことがあったんだな……」

  俺は碇先生に、個人名は挙げていないが、どのような状況下に置かれているかを伝えた。

「東条、君はさっき恋なんていいことはないと言っていたな?」

「はい、俺は恋のことをよく知りませんでした、でも今回の一件で、恋とは人の心を狂わせるものだと知ったんです」

「君は少し勘違いをしているみたいだな……」

「えっ?」

  先生は座席に腰をかけ直した後、俺のことを熱い眼差しで見ながら。

「これから俺の話をする。少し付き合ってくれないか」

「はぁ……」


 あれは、俺が高校三年の頃の話だ────


「碇さん、今日も一緒に帰れますか?」

「もちろんだ、玄関で待っていてくれ」

  俺はある女性と付き合っていた。俺の通う高校は県内一位の進学校だった。そこで、三年の春にその人から告白をされ、付き合うことになった。

「やっぱり夏は暑いですね」

「これが高校最後の夏なんだよな」

「ですね……」

 俺たちは互いに勉強に終われながらも、楽しい日々を過ごしていたんだ、そう、あの日までは……

「もうあの子と付き合うのは辞めなさい」

「なんでだよ母さん、別にいいだろ!俺の勝手だ!」

「あんたはもう、あんただけの体じゃないんだ。うちの家系はみんな名門大学を卒業しています。このまま遊んでいるようであれば、お父さんにお伝えしますからね」

「そんな……」

  俺は絶望した。こんなに親のことを嫌いになったのは初めてだった。

  俺は彼女に伝えた。もう、付き合えないと。

「そっか、勉強なら仕方ないよね……」

 彼女は意外にも受けいれた。俺はそれから、自暴自棄じぼうじきになり、前よりも勉強をしなくなった。

「あいつ、今頃恨んでるんだろうな」

  そんなことばかり考えていた。だか彼女はそんなちっぽけな人間ではなかったのだ。


「ただいま」

「おかえり、あのさ」

「なんだよ母さん」

「あんたに謝りたいことがあるの……」  

そう言って母はを後悔の念があるのか、震える手で差し出してきた。そしてこう言った。


「こんなに想ってくれる人なら、あなたの力になれるんだね」


 それは、彼女から送られてきた手紙の数々だった。一つ一つの手紙に

「勉強頑張ってね!」「行き詰まったらこれやってみて!」などの応援メッセージがずらりと書かれていたのだ。


 その時俺は初めて人の手紙で泣かされたよ。


  振ったのは俺なのに、ずっと応援し続けてくれたなんてな……

 その後、真っ先に彼女の家に行った。そして精一杯謝った。その人は、今俺の奥さんでもあるんだよ。



────話が終わった時には、俺の目からは涙がこぼれていた.......

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