第60話

 おかしい。予定ではもっとゴロゴロ出来る筈だったのに…。今年の夏は何かがおかしい…!



 朝一番にカレンダーをチェックした私は、愕然とした。


 気がつけば夏休みは残り一週間だった。









「てなわけで、残りはのんびり過ごしたいんだよ!」

「そんなの私に言われても困るんだけど…」


 夜瑠を部屋に呼び作戦タイム。

 題目は無論。どうやったらアウトドアの二人を抑えられるか…だ。


 私も夜瑠も押しに弱い。グイグイ来られると、つい押し負けてOKしてしまうところがある。

 実際、この夏休みのほとんどがそうだった。


 押し負けて仕方なく一緒に遊んだ結果がコレだ、と私はカレンダーを叩いた。


「夜瑠はゴロゴロしたくないのか? このままじゃ残りの一週間、雨が降らない限り運動漬けになるぞ」

「別にゴロゴロはしたくないわよ…。けどまぁ、もう運動はしたくないわね。でも実際どうするの…? あの二人を抑えるなんて無理じゃない?」


 夜瑠が何もかも諦めたような表情で苦笑する。


「部屋に鍵をかけるとか…」

「それやったけど合鍵で開けられたわよ」

「用事があるって言うとか…」

「夕が言っても信じてもらえないわよ」

「じゃあ隠れるとか…」

「それただ遊びが運動からかくれんぼに変わるだけじゃない。結局ゴロゴロ出来なくない?」

「どうすればいいんだよ!」

「だから私に聞かないでって。何か方法があるならとっくにやってるわよ。こういうのは諦めが肝心ってお母さんも言ってたわ。まぁ…でもーー」


 つまらなそうに前髪をクルクル指に巻きつけながら夜瑠は呟いた。


「一週間は無理だけど半分ならどうにかなるかもね」

「え、マジで!?」

「ええ。本当よ。本当だからちょっと離れて、近い!」


 絶望の中に差し込まれた一筋の光明。

 縋るように夜瑠に近づくと、シッシッと追い払われた。


「で、実際どんな方法なんだ」

「私が用事があるって言えばいいのよ。夕と違って信憑性があるから信じてもらえるわ」

「待て、一人だけ逃げる気か!?」

「それもいいかもね。ちょっと待ってなさい」


 そう言いながら夜瑠はちょっと待ってなさい、と一度退室する。

 再度戻ってきた時、その手には二つのウィッグがあった。


「夜瑠…まさか…」


 ここまでされれば流石に想像がつく。

 私の言葉に夜瑠は小さく頷いた。


「四日よ。四日だけ私が夕の代わりに二人を引き留めてあげるわ。三日は普通に過ごしなさい」

「それは有難いんだけど、あの二人に変装とか効くのか? 赤の他人ならともかくずっとに一緒にいる二人だぞ…」

「バレないわよ。多分。実際私は気付けないし。まさかウィッグ付けてまで入れ替わってるなんて思わないでしょうし」

「うーん…そういうものなのかな……」

「で、やるのやらないの? 私は別にやらなくてもいいわよ。もう色々と諦めてるしね」

「やる」


 挑発的に笑みを浮かべる夜瑠に、私は即答した。

 正直バレないとは思えないが、少しでも可能性があるならそれに縋りたかった。


「そう……じゃあ夕。私は朝日と真昼に用事があることを伝えてくるから、その間に私が着る服を用意しておいて」

「了解。ありがと、夜瑠」

「いいわよ、礼なんて」


 颯爽と部屋を立ち去る夜瑠の後ろ姿は、かつて無いほどカッコ良かった。









「ーーというわけで、予め話してた通り、夕は四日間私のフリをするから温かい目で見守ってあげて」

「完璧に夜ちゃんの予想通りの展開だね。少し楽しくなってきたかも。この後はこまめにちょっかいをかければいいんだっけ?」

「元々五日間くらいは自由にゴロゴロさせてあげようと思っていましたけど。こうなると凄くちょっかいをかけたくなりますね」

「程々にしてあげて」

「けど、まぁ夜ちゃんもよく自分のフリなんてさせるね。私だったら嫌だけどなー」

「…夕にどう思われてるか知りたかったから。自分になりきらせるのが一番手っ取り早いでしょ」

「ふーん」

「へぇー」

「な、何よ。そのニヤニヤ笑いは! やめなさい!」

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