第47話
ダメだ。眠い。授業が全く頭に入らない。
私は襲い来る睡魔と接戦を繰り広げていた。まさか病み上がりがこんなにキツいとは思わなかった。眠たすぎる!
睡魔は中々に強敵で、さきほどから何度も意識を失いかけては、首がカクッと下がった振動で目覚めることを繰り返している。
だんだん目覚めるタイミングが遅くなってきてるあたり、そろそろ本寝してしまう可能性が高い。
それはまずい。
前世の私なら授業中だろうが眠いときは自由に寝ていたが、ここで忘れてはならないのは今の私の家はとんでもなく名家だということだ。
そんな名家の娘が授業中に寝てた。
噂になること間違いなしだ。
いや別に噂になるくらいならいいんだが……それが母にバレたら……考えるだけでも恐ろしいことになる。下手したら一人称がバレた時よりも長い時間説教地獄になるかもしれない。
せめて体さえ動かせれば眠気は多少とれるのだが、こういう日に限って体育などの授業はなくオール座学。体を動かすタイミングなどほとんどない。苛めにもほどがある。トイレに行くのは恥ずかしいから嫌だし……。
一体…どうす…れば……。
…………
……
……って、危なっ! また寝かけてた……くそ、孔明の罠か……! まだか、まだ授業は終わらないのか……っ!!?
時計を見れば丁度授業の半分、折り返しの数字を指していた。
まだ半分しか経ってないことに軽く絶望する。こういう時って理不尽なぐらいに時間の進みが遅い気がする。
と、とにかく、何か手を打たないとこのままじゃ寝てしまう。
息を止めてみるか?
「……っ…………」
……おお、これはイケるぞ!
かなり苦しくなるまで止めてみたら若干だけど眠気が薄れた。
……これを繰り返せば、授業中に寝てしまうことを防げる!
息止めを繰り返すこと数十分。ようやく待ち望んでいた昼休憩を告げるチャイムが鳴った。
「―――ではこれで授業を終わります」
「はぁ……はぁ……やっと終わった……」
先生が教室を出ていくや否や机に突っ伏せる。
真昼達には悪いけど今日の昼休みは寝る。飯より眠気優先だ。ここで寝とかないと午後の授業も地獄を見てしまうことになる。
「夕ちゃん、行かないの?」
動こうとしない私を不思議に思ったのだろう。真昼が声をかけてきた。
仕方なしに顔を上げる。
「悪いけど……眠いから今日は寝かせて……」
「え、けどご飯は?」
「今日は抜くよ……」
「ええ!? でも……」
「一食くらい抜いても大丈夫大丈夫…………もう限界……おやすみ……」
「あ、うん。おやすみ……」
何か言いたそうにしてる真昼には悪いが、私は強引に話を終わらせて再び机に突っ伏せた。
そして、そのまま目蓋を下ろすとよっぽど睡眠を取りたがっていたのか、私の意識はあっさりと落ちていった。
◇
「えぇー、今日夕来ないの!?」
いつも通り食堂に向かっている最中、そんな声が背後から耳に入ってきて、常葉は足を止めた。
振り返れば、今常葉の関心を惹いているあの四つ子がいた。もっとも今は三人のようだが。
三人は常葉の視線に気付いていないのか、そのまま会話を続ける。
「うん、とんでもなく眠いんだって。今は教室で寝てる」
「あー、確かに朝そんなこと言ってたね。病み上がりだから仕方ないよ」
「夕も眠気ぐらいで情けないわね。ま、いいわ。明日は眠いって言っても絶対に起こして連れてくるのよ、真昼」
「あはは……善処するよ」
(なるほど、別行動……ですか。もう少し後になると思っていましたが、早速チャンスが訪れたみたいですわね)
珍しいことに話によると夕立は今一人で教室にいるらしい。
この機を逃すわけにはいかない。
(眠っているみたいですけど、少し話すだけですから。少しくらいなら大目に見てもらえるでしょう)
常葉はゆっくりとUターンをするように来た道を戻り始めた。
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