第46話 別視点
「……ほら朝ちゃんあの時の……」
思いがけない質問に固まっていると、近くにいた翔ちゃんがぼそりと呟いた。どうやら翔ちゃんにも常葉ちゃんの囁きが聞こえてたみたいだ。
「……地獄耳でしてよ」
なにやら常葉ちゃんが呟いているが、おそらく独り言なので無視するとして……
翔ちゃんも知っている、ということは常葉ちゃんの勘違いではないらしい。
常葉ちゃんに壁ドンなんて私したことあったっけ……?
そういえば……
思い返してもそんな動作はした覚えは無かったが、心当たりが一つだけあった。
それは一年前、夕ちゃんに入れ替わってもらった時だ。
夕ちゃんは、常葉ちゃんとのいざこざを見事に終わらせた。けど、その過程を断固として話そうとしなかった。
聞く度に何度もうやむやにされて私もすっかりその事を忘れていたけど、もしかして常葉ちゃんや翔ちゃんが言う壁ドンってそのときに…………
これが本当だとしたらちょっと説教が必要かな。私にも非があるからちゃんと話してくれたら許したんだけど……仮に故意じゃなかったとしても話さないで隠し通そうとするのはいけないよね。
……何にせよ、後でゆっくり夕ちゃんとはお話するにしても今は認めておくべきかな。入れ替わりがバレたら夕ちゃんにも迷惑がかかるし。
「……うん、そうだよ」
「…………そうですか。ありがとうございます、お姉様」
「いいよ別に。それより常葉ちゃんも翔ちゃんも、そろそろ時間だし席についた方がいいんじゃないかな? 」
時計を指しながら言うと、二人は一瞬時計に眼を向け、周囲の様子を窺う。
そして私達三人以外全員席に座っていることを認めると、同時に頷いた。
「そうだね。じゃ、私は戻るね」
「私も戻らせていただきますわ」
嵐のように去っていく二人を見ながら、私も席に腰を下ろす。
いつもと同じ光景。
初めは迷惑極まりなかったけど、すっかり馴染んでしまった。
……当たり前すぎて忘れてたけど、常葉ちゃんが慕っているのは私じゃなくて夕ちゃんなんだよね。やっぱり夕ちゃんって凄いなぁ。
夕ちゃんの頼もしさを素直に実感する。と共に助けられてばかりの自分にどこか虚しさが湧いてきた。
全然長女らしくない。これじゃあ妹みたいだ。いっそのこと、夕ちゃんが長女だったらと何回思ったことか。
……って下を向いてたら駄目だよね。
そこまで考えて、慌てて首を横に振る。
今が駄目でも将来的に相応しくなればいい。
将来的に頼られる姉になればいい。
それだけの話。
幸い私はまだ小学生。挽回する時間は沢山ある。
まずは形から、かな。言葉遣いとか今まで気にしてなかったけど、そういうところからしっかりやっていこう。
そして、絶対に頼られる姉になってみせる。
「―――朝日さん、朝日さん!!!」
「………えっ? は、はい!」
「考え事もいいですが、授業の時くらいは集中しましょうね?」
「は……はい」
◇
一方その頃、天城院常葉は先程朝日と交わした言葉を回想していた。
質問から回答までの不可解な間。何やら考えるように幾度か泳いだ視線。
(残念ながら推測通りお姉様はあの時の彼女と違う可能性が高いですわね……)
だとすれば必然的に残るのは三人。
(と言っても夜瑠さんの可能性は限りなく薄いですけども)
自分の見立てでは宵凪が気にしている女子とあの時の彼女は同一人物であると思っている。
(まぁ、あくまで見立てですから確実性はないですが…………真昼さんと夕立さんの二人が揃っているクラスから訪れた方が効率がいいのは確かですわね。問題はいつコンタクトをとるか……ですか)
朝日の前でその質問を二人にぶつけるのは、自分が朝日を信用していないということに他ならない。
タイミングが重要だった。
(お姉様が居なくて、真昼さんと夕立さんに質問を投げ掛けることができるタイミング……全く思い付きませんが、いつか訪れるでしょう。そのときに私は……)
(二人目のお姉様をゲットしてみせます!!! ……私を見てくれない姉のことなんて知りませんわ)
一瞬、二個上の実姉の姿が脳裏にチラついたが、どうでもいいと一喝すると、常葉は意識を授業へと戻した。
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