第44話

 あのコスプレ。どうやら写真を撮られてたらしい。

 それを知ったのは食堂に向かった時だった。



 食堂には既に皆集まっていて、何やらワイワイと盛り上がっていた。


 そりゃ、盛り上がってたら「何が何が?」ってなるよね。


 興味本意で近づいていったら、私の存在に気づいた姉妹達から「可愛い」コールの嵐。見せつけられるコスプレ写真。半泣きの自分の姿がバッチリ写っていて…………もう泣きたくなった。


 元凶の母はニコニコと笑ってるし、父は苦笑いしてるし、奏時に限っては真っ赤な顔してこっちを向こうともしない。

 そんな状況で追撃と言わんばかりに姉妹達から猛烈な「もう一回着て着て」コール。


 無理です。着ません。二度と着ません! 羞恥で死んじゃいます……。



顔を合わせるのも恥ずかしいので食事を飲み込むような勢いで終えて、急いで部屋に戻ったのだが。


「……何で私の部屋に入ってくるんだ。写真で見たからいいだろ」

「違うわよ!」


 半眼を向けると、当然のように私の後ろに付いてきて部屋に侵入してきた姉妹達の一人。夜瑠から猛反論を食らった。


 何が違うんだ? 目的はそれじゃないのか?


 首をかしげると、真昼が苦笑を浮かべながら口を開いた。


「あのね、夕ちゃん。私たちは別に着替えてほしくて付いてきたわけじゃないよ?」

「? じゃあなんだ?」

「はぁ……本当に夕は抜けてるわね。約束通りお土産話を聞かせにきたのよ。私の貴重な時間を使ってあげるのだから感謝しなさい」


 夜瑠はぶっきらぼうにそう告げる。


 あー……。確かに、そんな話してたっけな。

 ……けど今、そんな気分じゃないんだよな。理由は言わずもがな。コスプレの所為です。


「ありがたいけど……後日でもいいか?」

「なっ!!?」

「……そこまで驚くことか?」


 口をポカンと開けて間抜け面を晒している夜瑠に思わずそう呟くと。


「ちょっと夕ちゃん!」

「耳かして!」

「ん?」


 朝日と真昼が私の両耳元に口を寄せ、交互に囁いた。


「夜瑠ちゃん、今はあんな態度だけど夕ちゃんとずっと喋りたがっていたの。ほら、最近夕ちゃん、熱であまり話すことがなかったじゃない?」

「だから夜瑠ちゃん、ゆっくり話せる今日が楽しみだったみたいで、遠足中もずっと夕ちゃんにどんな話をするか考えてみたい。お願い。聞いてあげて?」


 …………こんな話を聞かされて断れるやつがいるだろうか。いや、いない。少なくとも私には断ることなど出来ない。

 今でも穴があったら入りたいくらい顔を合わせるのは恥ずかしいが、それはまぁ、私が我慢すればいい話だ。


「……分かった。教えてくれてありがと朝日、真昼。 ゴメンゴメン夜瑠。やっぱり聞かせて!」

「!!! そ、そう。仕方ないわね! いいわよ。聞かせてあげるわ!」


 硬直から一転。パァァッと満面の笑みを見せる夜瑠。

 この日、私たちは母から「寝る時間」と説教されるまでの時間、盛大にトークに花を咲かせた。






 ◇





 同時刻。とある豪邸にて。

 月明かりが差し込む一室の窓際で一人の少女が顎に手を着き思考を巡らせていた。

 

(おかしい……何かがおかしいですわ……)


 少女が思い返していたのは、本日行われた学校行事での知り合いの男子の行動。

 前まではある一人の女子にベッタリだった彼は、本日含めここ最近その女子と一定の距離を取るようになっていた。


 彼は、自分の記憶によればかなりその女子に執着していたはずだ。

 その事実を知っていたからこそ初めは気のせいだと思っていた。だけど本日の彼の目線、行動でそれは思い違いではないと確信した。


 彼は、桜小路宵凪はその女子とは違う他の誰かに強い関心を持っている。


 普通ならただの心変わりだと考えるだろう。


 だけど、少女は違った。幼少期から彼を見てきた、自分が覚える価値のある人間だと思った者のことは徹底して調べあげる。行動パターンは勿論匂いや指紋といった小さなことまで……。だからこそ少女はひたすらに疑問に思った。


 あの執着心が強い彼が、一つのことに熱中すると他のことはほとんどなおざりにする彼が、あの女子と同じくらいの関心を他の誰かに向けるなんて。


(何かに気づいた? ……夜瑠さんはお姉様と同じ顔がそっくりな四つ子。……もしかして……宵凪さんは夜瑠さんと他の誰かを勘違いをしていた? いや……そんな単純なミスを宵凪さんが? ……なるほど。大体読めてきましたわ……。となると私もあの時の彼女が本当にお姉様なのか確かめる必要がありそうですわね)


 生憎とその関心の対象を見つけることが出来なかったのが残念で仕方がない。


「まぁ、でも自分の力で発見するのも悪くはありませんわね」


 少女は大きく伸びをすると、月に向かって手を伸ばし、何かを捕らえるようにかざしていた手をゆっくりと握り締めた。

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