第36話
それから二週間ちょっと。
奏時の言っていた通り、露骨に距離を取られることは既にほとんどなくなっていた。
……夜瑠を除いて。
元々、友人と呼べるような人がおらずクラス内で孤立しがちだった夜瑠は、今回の件もあって、より一層孤立していた。
奏時によると、上級生の間では桜小路とペア扱いされ【孤高の王子】【孤高の皇女】なんていう呼び名が広まっているようだ。
呼ばれている本人達は気にしていなかったが、【白雪王子】よりも地雷感がするし、大人になったら黒歴史になることは間違いないので、止めさせるように現生徒会執行部である奏時にお願いしてあるのだが、これもどうやら一筋縄にはいかないらしい。
詳細は教えてくれなかったのだが、現在呼び名の広め主と絶賛交戦中なのだとか。
何でも元凶を倒さなければ意味がないとか、だけど元凶がやけに強くて自分じゃ勝てそうにないとか、そんなことを言っていた。
ちなみにそのあだ名の広め主は奏時の友人らしいので、日に日にやつれていく兄の姿を見ながら私は夜瑠みたいに「友達なんていらない」とはまではいかないが「友達は慎重に選んだ方が良いな」ぐらいは思ったりした。
話は戻るが、今回その呼び名を止めたところで、またすぐに同じような意味を持つ呼び名が出回る可能性は高い、と私は考えている。
理由は明快で、結局のところ、夜瑠の態度とイメージがそう言った呼び名を産み出しているからだ。
そのような呼び名を付けられなくするためには夜瑠のイメージそのものを変える他ない。
そう、夜瑠の近づきがたい雰囲気を改善させる他ないのだ。
解決方法は見えている。
これもまた単純で、夜瑠に友達を作らせること。
夜瑠はあたかも何事にも動じないクールな令嬢ですよオーラを醸し出しているが、素はおっちょこちょいで、負けず嫌いで、構ってちゃんとまるで正反対の性格を備えている。
この内面を知る人が私たち家族の他に一人でも出来れば、あとはなし崩しで次々と友人が増え今までの雰囲気が改善されること間違いなし。
だけど、問題は―――。
「あの夜瑠にどうやって友達を作らせるか、なんだよな……」
友達なんていらない、と言うほどボッチを拗らせちゃってる夜瑠は自分の口からじゃ間違いなく「友達になって」なんて言わないだろうし……夜瑠に自分から近づいていく人なんてほとんどいないだろうし……仮にいたとしても夜瑠はプライド高いから一喝して追い払っちゃうだろうし……。
「やっぱ、私がやるしかないのか」
夜瑠と宵凪を知り合わせたように、入れ替わりをしてその間に何らかのイベントを起こせれば、きっかけは作れると思う。
髪型もウィッグを使えば何とかなるだろうし入れ替わろうと思えば全然可能だ。
しかも丁度再来週には恒例の遠足があるし、タイミング的にはバッチリだ。
でも―――。
私の脳裏に浮かんだのは、去年の夏休み。真昼が放った言葉だった。
『すぐに夕ちゃんに頼っちゃわないように髪型だけでも変えようって』
自立への一歩を決意した台詞。
ここで私から入れ替わりを提案するのは、彼女達の決意を踏みにじる行為になる。
「どうしたものか……」
さっきから考えてばかりだったからか、頭が若干痛くなってきたので大きく伸びをしてベッドに仰向けで転がる。
良い案が思い付かない。
頭が疲れたときは甘いものを食べればいい、と聞くが、もうすぐ夜ご飯なので間食を挟むわけにもいかない。
モヤモヤとした気持ちを抱きながらベッドの上をひたすらゴロゴロと転がっていると、コンコンとノックの音がした。
朝日?真昼?夜瑠?それとも奏時か?
「って……お父さん……?」
そんな想定をしてドアを開けたものだから、そこから父の顔が現れたときはすごく驚いた。
だが、その驚きは次の父の台詞で更に更新されることになる。
「夕立、悪いけど少し頼まれてくれないかい?―――」
少し苛立った表情で用件を語りだす父。
そして、それを聞いた私は
「……えええええ!?」
かん高い叫び声を上げていた。
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