第35話
三年生になった。
クラス替えはないので一見、一階層上に上がっただけで何の変わりもなさそうに見える私達のクラスだが、雰囲気が以前までと異なっていた。
学年内でカーストが大雑把だが、現れ始めたのだ。
基準は家の力、らしい。
その結果、気づいたときには私はその頂点に君臨していた。
三大資産家の一角である西四辻家の令嬢なのだから当然といっては当然なのだが。
廊下を歩く度にすれ違った知らない人から頭を下げられるのは元社畜の私にはムズ痒い。
それに今まで仲良くしていた人達にそんな態度をとられることもあり、精神的に来るものがあった。
中には取り巻きになろうとする人もいたが、それは全力で断った。
ただでさえ人間関係がめんどくさくなってきてるのに、更にややこしくなるのは絶対にゴメンだ!
ホント、今まで通り普通に接してくれる詩音が私の心のオアシスだよ……。
ていうか……小学生なのに人間関係が既に大人だった前世よりめんどくさいってどういうことだ、マジで。
金持ちすぎるのも考えものだな。
贅沢な悩みと知りながらも、深々とそう思わざるを得なかった。
勿論、急激な環境の変化は私だけではなく姉妹達の元にも訪れていたらしく。
「―――なんか最近周りの人の態度が変……なんだよね。かしこまってる感じがする」
真昼がこの話を切り出したのは、夕食後のティータイムのときだった。会談とやらでどこかへ向かっていった父を除く全員が揃っている。
朝日は、母の淹れてくれた紅茶のカップを優雅な手付きで傾けた。一口飲んでから、ため息を吐くように呟く。
「うん……それ私も。常葉ちゃんと翔子ちゃんはいつも通りなんだけど、他の人達との間が遠くなったっていうか……」
「そうなの? 私はいつも通りだけど」
「……友達がいない夜瑠には分からなくて当たり前だろうな」
「それは私に喧嘩売ってるの、夕?」
「いや、ちょっ……!?」
ボソッと聞こえないように呟いたはずなのに、しっかり拾われていた。
弁解する間もなくガタッと椅子を引いた夜瑠、今にも私に飛びかかろうとしたところで母がバンと手を叩いた。
「座りなさい?」
笑顔の母からは想像できないほどの低い声に、腰を上げかけていた夜瑠はビクッと体を揺らし、渋々と席に座り直した。
助かった……。
って、うわ、何か凄い恨みがましい目で見られている。
うん……見なかったことにしよう。
しつこく怖い目を向けてくる夜瑠をなるべく見ないように奮闘していると、対面に座っていた奏時がおもむろに口を開いた。
「まぁ、あんまり気にしないことだな。僕も一時期、同級生から距離を取られてた時期があったけど、案外すぐに落ち着いたから。きっと今回もすぐに落ち着くと思う」
「そうなのか?」
私にとっても渡りに船だったので会話に乗ると、奏時は真剣な表情から一変。一瞬だが、だらしなく表情を崩したのは、きっと私の見間違いだろう。むしろそうであってくれ。
「あぁ。だから夕立達は普段通り過ごしておけばいいと思うよ」
「そっかー……よかったぁ……」
「ずっとこのままだったらどうしよって思ってたけど……本当によかった」
元より友達が多かった朝日と真昼の二人はよほど不安だったのか大きく安堵の息を漏らす。
「ふぅん。よかったわね」
そんな二人を夜瑠は寂しそうな目で見ていた。
その目は、ボッチだった前世の私に似ていて、どこか親近感が湧いた。
「……友達作れるようにがんばろうな?私も協力するから」
「別に友達なんていらないわよ。結局のところ赤の他人じゃない。そんなのと馴れ馴れしくしようとなんて到底思えないわ」
あーいかん。これは完全に拗らせちゃってるわ……。
このパターンは何言っても反論されるやつ。ソースは前世の私。
さて、どうしたものか。
「ただいま……アフターディナーティーかい?」
反応に困っていると、父がちょうど良いタイミングで帰って来た。私は逃げ出すように父に駆け寄った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます