第33話
さぁさぁやって来ました運動会。
雨降れば延期、延期が三回続けば中止だからあわよくば……何て言うささやかな願いを嘲笑うかのような雲一つない晴天。
時期はまだ九月なので、こうバカみたいに晴天だと非常に暑い。
涼風が吹いていて少し肌寒さを感じた去年の運動会が懐かしい。
熱中症で倒れるんじゃないかと疑問に思うほど汗が出てくる。
「こんな中、百メートルを走るのかよ……」
そんなものだから、意図せず愚痴が溢れ落ちていた。
「まぁまぁ、落ち着けよ。僕なんて今年はスウェーデンリレーの四百メートルだぞ?」
奏時が私が溢した台詞を拾い上げるが、正直感想に困る。わー、すごいとでも言えばいいのか?
ダメだダメだ、暑さにやられて思考が喧嘩っ早くなってる。
「……まさかの無視か。少しは興味持ってくれると嬉しいんだけどな」
奏時がそんなことを言うが、今は他人に構っている余裕などない。
暑さだけでも鬱陶しいのに、もうすぐ百メートル走リレーの時間なのだ。
百メートルまであと二競技しかない。そして、一競技は今終わった。
そろそろか。
汗を拭き顔を上げると同時にピンポンパンポンと選手を呼ぶ放送が流れた。
「あぁ……やだな。やりたくねぇ」
ぶっちゃけ、真昼が朝日と夜瑠とアンカーとして競争するから私はいらない気がする。うん、絶対いらない。
だけど、
「夕ちゃん! 一位でバトン、よろしくね!」
闘志をギラギラと燃やした真昼の目を見ていると、そんなこと口が裂けても断じて言えない。
「はぁ……」
誰にも聞こえない程度に小さく嘆息。
ここまで来たらやるしかない、と私は競争相手をそこで初めて見た。
「……マジで帰って良いかな」
驚愕よりも呆れが込み上げてくる。
何で、私は気づかなかったんだよ。
私の右に構えるは、御曹司こと桜小路 宵凪。
更にその奥、宵凪の右隣には天城院 常葉の姿が。二人はいつ知り合ったのか仲がよさそうに談笑していた。
「む?」
「あら?」
マジマジと見詰めすぎてしまったのだろうか。二人は談笑を止め、私へと視線を向けた。
そして、同時に首を傾げた。
「貴女、お姉さ……ゴホンゴホン。私の未来の妹……ごほんごほん。朝日さんの妹の夕立さんよね?」
「あなたは、夜瑠さんの姉の夕立さんですよね?」
「ハイ、そうですが」
天城院の不穏な言葉は聞かなかったことにして頷くと、二人は目を細めて私の顔をじろじろと覗き込んできた。
「「どこかで会ったか(しら)?」」
「いえいえ滅相もない!!!」
全力で首を横に振る。はい、だなんて言えねー。だって、バレたらコイツらが私に付きまとって来るってことだろ。ムリムリ。遠慮させてください。
しかし、双方この答えに納得が行かなかったのか、天城院は距離をグッと近づけ、宵凪は目をスッと更に細めた。
「え、あの?」
「けど、この匂い。やはり、どこかでお会いしたことが」
「ないです。朝日と同じシャンプーとか洗剤とか使ってるからじゃないですか?」
「それはないわ。私がお姉様の匂いをかぎ分けられないわけないじゃない。いい、お姉様の匂いはね―――」
何やら語り出す天城院。
あっはい。そうですか。だめです、この人。まごうことなく変人です。
若干引いてると、私の瞳を覗いていた宵凪が口を開いた。
「その瞳に指す光彩。やはり、どこかで……」
「ないです!」
「だが……」
「ねえって言ってんだろ!!」
おいおいまてまて。ここは変人しかいねぇのか。雰囲気とか言葉遣いで判別してるなら分かるけど、匂いと瞳の光の指し方で判別されたのは初めてだぞ。
間違いない。
私は確証した。
日本の三大資産家である天城院の二女と桜小路の長男は完全に、ストーカーに成り果ててる。
絶対にコイツらにバレるわけにはいかねぇ。
二人同時に付きまとわれたら、私死ぬわ。過労死しちゃうわ。
本気で隠し通す覚悟が出来た。
そのまま始まったリレーは一組が勝利した。桜小路も天城院も私に負けず劣らずで速かったが、トップでバトンを受け取れたこともあり、無事一位で真昼にバトンを渡すことが出来、そしてその勢いに乗ったまま真昼が一位でゴールした結果だ。
朝日と夜瑠は悔しげに唇を噛み、来年こそはと宣戦布告をされた。
え、まじ? 来年もやるの、これ?
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