第28話

 面倒事が解決して、数ヵ月が経過した。


 気温は高くなってきていて、蝉の声が五月蝿く鳴り響く。

 今年は例年に増して紫外線が強いらしく、毎日日焼け止めを塗ることを親に義務付けられている。


 季節はすっかり夏だ。


 夏休みまであと少し。そんなものだから、教室の話題は「休暇中どこへ行くのか」で盛り上がっていた。

 

「今年はハワイに行きますの」

「国外ですか……いいですね。私は避暑のため、北海道に行くことになってます」

「いいなぁ……。俺は今年はどこも行かないんだよね……。ま、お土産頼むよ!」

「仕方ないですね……。あっ、夕立さんはどこかに行く予定はありますか?」


 ぼんやりと船を漕ぎかけていたら、不意に話題を振られた。

 ハッと起き上がり、自分の夏休みの予定を告げる。


「私はインドネシアのバリ島に行く予定だな」


 そう。今年は観光目的での家族旅行をすることになっていた。

 豊かな自然や伝統芸能、ショッピング巡り……。また前世今世通して初めての海外旅行ということもあり、今からわくわくが止まらない。


「バリ島もいいですわね」

「来年の旅行の参考にしたいので、夏休みが終わったら感想を聞かせてくださいね」

「お土産よろしくね!」

「はは、気が向いたらな」


 その後、授業が始まるまでその話題で盛り上がった。

 結果、テンションが上がり、授業どころではなくなってしまったのは言うまでもない。


 疼く体を押さえながら、ひたすらに早く夏休みになれ。と何度も願った。



 おかしなことに、早く過ぎろと感じている時に限って時間はゆっくりと進んでいくもので、終業式までがとても長く感じた。

 実際には一週間そこらだったはずなのに、一月以上待った感覚がする。





 終業式の翌日。早朝から私たちはバリ島へとバカンスに旅立った。


 飛行機は、前世の修学旅行で北海道に行った時に一度だけ乗ったことがあるが、その時とは印象が大違いだった。

 ファーストクラスの座席は大勢の客で賑わっているエコノミーとは全然違った。優雅さがあるというか、何というか……。

 そんな雰囲気に呑み込まれたのか、いつもは騒がしい姉妹達も静かだった。


 バリ島へ着くとまず予約してあるホテルへと向かう。

 泊まる部屋は当然のように高級ホテルのスイートルームで、日本のホテルとは違う内装の装飾に少なからず驚いた。


 まだ昼過ぎということもあって、荷物を部屋にまとめた後、全身に念入りに日焼け止めを塗り、私たちはビーチへと突撃した。

 

 海に触れるや否や、海水を一舐めした夜瑠が目を輝かせる。


「辛っ! ホントに塩水なのね!」

「あっホントだ」

「辛い! けどすごい!」


 つられて朝日と真昼も大はしゃぎである。

 はしゃいでるところ悪いんだが、海水をそんなに舐めるのは衛生上良くない気が…。

 と思ってたら案の定、母の雷が落ちた。


 三人は今、砂浜の上で正座させられ説教を受けている。もう完全にバカ。


 私は三人を尻目に、腰の辺りまで海に入り、奏時とビーチバレーをして遊ぶ。

 

「パーカー脱がないのか?」

「泳ぐ気は更々ないからね」


 今の私は水着の上にパーカーを着ている状態だ。露骨に肌を見せる趣味はないし、泳ぐ気もないので脱ぐ意味が逆に分からない。


「まぁ……いずれ機会があるだろ……」

「ん? 何か言った?」

「いや、別に何も言ってないぞ」


 ミート、カット、トス。ミート、カット、トス。と永続的に対人を繰り返していると、説教から解放された三人がよろよろとこちらへやって来た。


「夕ちゃん、私たちも入れて!」

「いいけど……五人か。一人審判で2対2でやるか」

「じゃあ僕が審判をやろう」

「ああ任せる。チーム分けは……グッパーで決めようか。負けた方は旅行が終わるまで勝った方の言うことを聞く、でどうだ?」

「面白そう! 賛成賛成!」


 厳選なる振り分けの結果、チームは朝日&真昼、私&夜瑠に決まった。





「まーちゃん」

「オッケー、おりゃ!」

「ッ、 夜瑠!」

「む、無理無理! 早すぎだって……ひゃっ!」


 バシュッ。

 ボールが私たちのコートの近くの水面を叩き、近くにいた夜瑠の顔面に水飛沫が直撃する。


「……最悪だわ」

「そりゃ私の台詞だ」


 まさか夜瑠がここまでバレーが出来ないとは思わなかった。足のスピードは私たちとほぼ変わらないし、運動神経は確実に良い方だから、正直朝日達と同等くらいは動けると高を括っていた。

 現在点差は14対7。二倍の差をつけられている。


「朝ちゃん、ナイストス!」

「うん! このまま勝つよ!」

「りょうかい!」


 加えて相手の士気も高い。

 これは負けたな……。


「なに諦めてるのよ、夕!」


 若干諦め気味になっていると、夜瑠がキッと睨み付けてきた。

 いや、諦めてる原因はほとんど夜瑠の所為なんだけどね……。言わないけど。


「勝負は最後まで何があるか分からないものよ! 諦めずに足掻くわよ!」


 何かキャラに似合ってないこと言ってるし……。

 だけど、夜瑠の真剣な表情から紡ぎ出されたその言葉にはどこか響くものがあって。


「だな。やるか」


 私は勢いよくパーカーを脱ぎ捨てた。

 結構水吸っちゃったから重くて動くのに邪魔臭かったんだよなあれ。

 

「……ぐ……水着姿が眩しい…………」


 何か審判が目を抑えてフラフラしているが、気にせず試合再開。


 それからは夜瑠が必死にボールを拾うようになり、点差を広げられることはなくなった。それどころかコツを掴んだのか、夜瑠の動きが徐々に良くなっていき。


 最終的に同点まで追い付いたところで、親に呼ばれたことにより試合は終了した。

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