第24話

 二年生へ進級した。

 とは言えども、四年生まではクラス替えはないし、教室は一階上がっただけで基本的に同じ作りなので、あまり実感が湧かない。

 実質四学期へ突入したと言っても過言ではないだろう。


 現に進級してから数日が経つが、日常にこれと言った変化はない。変化らしい変化と言えば、奏時そうじの様子が変なことぐらいだ。非常にどうでもいい。


 いや、勿論困り事があって変な行動をしているなら助けるよ?助けてもらったしな。


 だけど様子を見てる限りそんな感じじゃなくて、あの様子はどうも…………。


 前世の記憶をリセットしたいと時々思う。男だった経験から、男の行動ってやつが良く理解できてしまうものだから妙に察しがついてしまう。


 十中八九、奏時は私に惚れてるのだと思う。断じて自惚れではない。


 幸いなのは奏時がその感情の正体に気づいていないことだろう。出来れば気づく前に他に良い人を見つけて欲しいものだ。


 奏時は良いやつだ。だから、惚れるなら元男な私ではなく、可憐な令嬢にして幸せになって欲しいと切実に祈っている。


 何も考えずのほほんと日々を過ごすラブコメテンプレの鈍感系主人公が羨ましく感じた。



 大分思考が脱線したな。

 まぁ、つまりだ。私が言いたいことを要約すると、平穏な日常が徐々にめんどくさい方向へと向かってきた、ってこと。

再来週には遠足があるし、また忙しい日々が始まることだろう。色々と大変そうだ。





「おはようございます、夕立さん」


 指でクルクルとペンを回していると、今登校してきた隣の席の子に話しかけられた。

 今世出来た私の数少ない友人の一人、梳宮くしみや詩音しおんだ。


 ペン回しをやめ、挨拶を返す。

 


「うん。おはよう詩音」

「ええ」

「……」

「……」


 会話終了。

 これは喧嘩しているからではなく、単純に話すことがないだけ。これが私たちの普段の会話内容だ。そう、詩音とは挨拶と用件があるときくらいしか話さない。

 それは友達間の会話としてはやや物足りなさを感じるのかもしれない。


 だが、今時の女子の話題に付いていける自信がない私としては、無駄話がなく、重要なの用件しか話さないこの関係が案外気に入っていたりする。





 暫くすると狩野かの先生がやって来て授業が始まった。

 今日の一発目の授業は算数。授業の中では最も不人気な教科だ。

 しかし。今日は皆やる気に満ち溢れていた。目がギラギラと輝いている。

 それもそのはず。

 今日は一年生が授業見学に来るのだ。


 初めてできた後輩に格好良いところを見せたい。


 そんな思いがあるのだろう。


「―――えーと。ではこの問題わかる人? うおっと!」


 普段なら半分くらいしか上がらないのに今日はほぼ全員が挙手した。

 その光景に先生は驚きながら、歓喜混じりの声を上げる。


「では、真昼まひるさん。お願いします」

「はい!5です!」

「正解です」


 パチパチと拍手が鳴り響き、真昼が照れ臭そうに頬を紅色に染めながら着席する。

 今回選ばれなかった生徒達は、次の問題はまだかと獲物を狙う肉食獣の如く待ちわびる。


 まだ一年生がやって来ていない状態でそれだ。安易に想像できるように、一年生が教室に入って来てからは非常に騒がしくなった。


 自分に注目させたいのか大声を一定の時間おきに発するやつ、立ち上がるやつ、両手を上げるやつ、とその行動パターンは様々だ。


 場は既に戦場と化していた。



 無論、私はその戦場に加わることはなく、頬杖をつきながらのんびりとその光景を眺めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る