第15話 閑話
小さい頃のことはあまり覚えていません。
物心がついたときにはわたしたちは既に四人でした。
そっくりな四つ子の姉妹。
会う人たちは皆違わずそんなことを口にしました。
事実わたしたちは似ていない部分を探すのが難しいくらいにそっくりでした。
外見は。
中身まではそっくりではありませんでした。
それをハッキリと理解したのは幼稚園の入園時でした。
初めて家族以外の人に会ったその日。
遠慮なしにぶつけられた好奇心に満ちた視線に。
わたしは、恐怖を覚えました。
朝ちゃんや夜瑠ちゃんも同じ思いを抱いたようで、事実「自己紹介をお願いします」と先生に言われても固まったまま言い出すことが出来ませんでした。
ただ一人、夕ちゃんを除いて。
夕ちゃんだけは視線に物怖じもせず、いつも通りのすまし顔でさっさと自己紹介を終えてしまいました。
その淡々とした態度に凄いなぁ……と思わず感心し、憧れました。
だからでしょうか?
わたしはこの日を境に、単なる姉妹としか思っていなかった夕ちゃんを意識し始めたのです。
次に夕ちゃんを凄いと思ったのは、小学校受験の面接練習の時でした。
初めての面接練習。
相手がお父さんとは言え、とても緊張してしまい、何度もやり直しをしました。
そんな中、夕ちゃんだけは一発で合格を貰っていました。
それまで、わたしたちと同じで面接など一度もやってこなかったはずなのに。
凄い…………!
わたしはますます夕ちゃんに憧れを抱きました。
わたしたちは四つ子。基本的な能力は同じなはず。
夕ちゃんが凄いのは隠れて努力をしてきたからで、わたしも努力さえすれば夕ちゃんに追い付けるのだと思っていました。
違いました。
現実はそう甘くありませんでした。
努力をしてもしても、その背中は遠く離れていて、追い付くことはできませんでした。
夕ちゃんには何をやっても追い付けない。
薄々気づいてはいましたが、認めたくなかったわたしはこの頃から逃げるようにして運動に打ち込むようになりました。
追い付けないなら、違う分野を伸ばして隣に立てるようになろう、と思ったのです。
しかし、後を追いかけることを止めたことで、わたしは夕ちゃんとの差を明確に知ることになりました。
小学校に入学してからの初めてのお泊まり。
クラスが離れてしまった朝ちゃんと夜瑠ちゃんを楽しませるにはどうしたらいいのか。
わたしには全く思い付きませんでした。一日考えたところで思い浮かぶとも思えませんでした。
ですが、夕ちゃんはその解決策をあっという間に見つけ出してしまいました。
それは入れ替わると言った、わたしたち姉妹のそっくりさを生かした奇想天外な案でした。
この時、わたしは完全に理解をしました。
わたしは追い付けないだけではなく、隣に立つこともできないのだと。
そもそもの話、立っている舞台が違うのだと。
どこで……ここまで違っちゃったのだろう。
わたしは自分とそっくりな夕ちゃんの顔見て、劣等感を抱きながらも、その感情を隠すように笑顔を張り付けて賛同しました。
少し引きつった笑顔になってしまったような気がしましたが、幸いにも夕ちゃんに気づかれることはありませんでした。
結果として、夕ちゃんの策のおかげで遠足は大成功。朝ちゃんも夜瑠ちゃんも存分に楽しめたようで良い笑顔をしていました。
大成功に終わったので気が抜けていたのでしょう。その日の夜、わたしは思わず本音を口走ってしまいました。
「―――やっぱり夕ちゃんは凄いよ。ホントに……わたしなんかと違って……」
「真昼……?」
心配そうな表情で声をかけてくる夕ちゃんを見て、息が詰まりそうになりました。
そう。これらはわたしが勝手に抱いた感情。夕ちゃんのせいでは断じてありません。
にも拘らず、夕ちゃんにこんな顔をさせるなんて……。
……わたし、なんて嫌な子なんだろう。
「……ごめん。なんでもない。おやすみ夕ちゃん!」
これ以上心配をかけさせたくはない。
わたしは慌てて笑顔を張り付けると、そのまま瞼を閉じました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます