第14話

 波乱があったのはバスの時だけで、遠足は特に問題なく進行した。

 遊園地、昼食、温泉テーマパーク、夕食とチェンジを繰り返したが、まだ入学したばかりと言うこともあったのだろう。

 誰にも気づかれることもなく、遠足も終盤。就寝の時間を迎えた。





 ホテルの部屋割りは基本的にバスの相席者との二人部屋になっている。

 例外はその相席者が異性だった場合くらいだ。今回で言うと夜瑠と宵凪がそれに当たる。


 結果二人とも一人部屋になったらしい。



 いくら小学生一年生で間違いが起こることは無いと言っても、学院の生徒の大半が医者の息子とかテレビでよく見かける有名人の娘とかそんな感じの大物揃いなので、下手なことをするとスキャンダルになってしまうとか。


 そのため部屋間の移動は完全に禁止されており、トイレも室内に設置されているため、部屋の外に出たら即罰則。

 それでもまだ保険をかけているのか、ホテルの廊下に幾人かの監視スタッフが配置されている。




 そんな中、俺は真昼と本来与えられた部屋にいた。

 予定では朝日と夜瑠にこの部屋を使ってもらうはずだったのだが、二人によると「満足したから入れ替わりはもういい」とのこと。

 本当に満足できたかどうかは知らないが、二人がそう言うならと素直に受けとることにした。




 従来二人部屋だからか、ホテルのベッドはダブルベッドが一台しかない。

 そのため隣り合わせで寝ることになる。


 俺は相手が真昼だからまだいいが、朝日含む他の人は知り合って一週間くらいの人とこうして寝るわけだろ?……かなりハードル高くない?と思うのは前世、俺に友達が全然いなかったからだろうか。

 ……何か悲しくなってくるのでこの話題はやめよう。といっても替わりの話題も見つからないし…………もう寝るとするか。




「電気消していいか?」

「あ、うん。いいよ。………………ねぇ、夕ちゃん」


 照明を消し、いざ寝ようとすると真昼に声をかけられた。


「どうした?」

「今日はありがとね。朝ちゃんも夜瑠ちゃんも喜んでた。ぜんぶ夕ちゃんのおかげだよ。ありがとう!」

「全部……ってわけじゃないだろ。少なくても半分は真昼の功績だと思うが」


 実際に真昼も入れ替わってわけだし。

 だが、真昼は首を横に振る。


「わたし一人じゃ、なにもできなかった。わたしはただ夕ちゃんの言った通りにうごいただけ。やっぱり夕ちゃんは凄いよ。ホントに……」


 声が段々とか細くなり、聞こえなくなっていく。

 どことなく、不穏な空気が流れる。


「真昼……?」

「……ごめん。なんでもない。おやすみ夕ちゃん!」


 そう言って笑顔を向けてくる真昼。


 曇り一つない、いつも通りのその笑顔に。


 俺は何故か、異常なまでに胸が騒ぐのを感じた。










「ホント……なにしてくれてるのよ……」


 翌日、旅行が終わり家に戻ってくるや否や開口一番に夜瑠が疲れた果てた表情で俺の肩をグッと掴んできた。



 そこで俺は思い出した。

 そういや、宵凪の件を夜瑠に話してなかったなー、……と。


「ど、どうした……?」

「どうしたじゃないわよ! バスの中でどれだけ桜小路に話しかけられたと思ってるのよ! 名前呼びをおねがいされるし!!! 何したのよ、ゆう!!」


 もしかしたら違っている可能性もあるので、一応聞いてみたが……やっぱりそうだった。

 どれだけ話しかけたんだよ宵凪。こんなに怒ってる夜瑠は久々に見るぞ……。


「ごめん!! 悪かったって! 落ち着いてくれ、夜瑠!」

「落ち着けるかぁ!!」


 ガクガクと頭を揺らされながら、回りに助けを求めようとするが、巻き沿いを食らいたくないからか朝日は白々しく目を反らし、真昼は既にこの場からいなくなっていた。


 どうやら援護は期待できないみたいだ。

 これは宥めるのに時間がかかるなぁ、と溜め息を吐きたい気分になった。



 昨日感じた胸騒ぎのことなんてすっかり忘れてしまっていた。

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