第11話

 さて、晴れて先日に白雪学院に入学できたわけだが、そこである興味深い噂を耳にした。


 この学校には白雪姫ならず【白雪王子】と呼ばれる男子生徒がいるらしい。

 容姿端麗、成績優秀、頭脳明晰、運動万能、家柄良好をかけ備えた学園のアイドル的存在な初等科三年生。


 そんな何もかもが完璧な男は……今俺の左隣にいた。



「きゃー! 奏時様よ!」

「白雪王子様ー!!!」

「今日も麗しいですわ!」



 周囲の女子生徒から視線が猛烈に集まり、キャピキャピとした声が上がる。

 その視線の中心にいるのは我らが兄、奏時だった。


 入学式が終わり、今日から普通登校という訳で、兄の提案もあり一緒に登校することになったのだが。


 まさか奏時がここまで人気になっているとは……。いや、確かに客観的に見れば優良物件だから人気が出ない方がおかしいのか。


 どっちにしろ、奏時には頼りないイメージしか抱いていなかったのでこの現状にはかなり驚かされた。



 そんな人気者の奏時と一緒に登校してきたからか、次第に俺達にも好奇心の視線が当てられる。完全に飛び火だ。ただでさえ四つ子というだけで注目を集めているのに、更に注目を集めるような真似は勘弁してもらいたい。

 


「―――てなわけで明日からはいつも通り一人で登校してください」


 校舎に入って早々に俺が言うと、朝日達も同じ思いをしていたのか、コクコクと頷いた。


「な、なんでだよ!?」


 だが、当の本人は説明してあげたのにも関わらず納得できないようで不満気に声を漏らす。

 学校生活ではクールぶっているそうだが、寂しがりな本質は変わっていないなぁ。


 だからと言って、妥協してあげる、何て事は勿論しない。


 ここまで丁寧に言ってあげても分からないならハッキリと言ってやろう。


「正直、白雪王子なんて呼ばれてる人と歩くの恥ずかしいんだよ」

「うぐっ!!?」

「「「夕ちゃん!?」」」


 包み隠さず本心を述べる俺に、奏時は胸を押さえて呻き声を、姉妹達からは諌める声が上がった。



「夕ちゃん……いくら本当の事だからって本人の前でそういうこと言うのはよくないと思うよ」

「私もそう思うわ」

「もっと遠回しに言うべきだったね」


 純粋と言うのは時に残酷である。悪気のない一言は、とんでもない凶器に変わり果て、奏時の心をズサズサと抉っていく。


「ぼ……僕だって……好きでそう呼ばれているわけじゃない! うわぁぁぁぁー!!!!」


 その結果、奏時は走り去ってしまった。半べそをかいて。学園のアイドルが妹とは言え、二歳下の女子に泣かされるって……。

 

「?」


 キョトンと首を傾げる三人。

 俺もだが、間違いなく君達も加害者だ。

 頼むから私無関係ですよ的な顔はやめてくれ。




 前日から予定していた通り、本日はオリエンテーションが開かれ、遠足や運動会、学園祭などの一年の予定を分かりやすく砕いた言葉で説明された。

 その中でも特に早い行事は遠足で、来週行われるそうだ。親睦を深めるため、みたいな理由だった。まぁそれは分かる。

 だが、流石に一年時の遠足が日帰りではなく一泊二日なのは驚きを隠せなかった。



 俺はともかく、姉妹達にとっては初めてのお泊まりだ。

 何事もなければいいのだが。

 ……あっ、これフラグじゃないからな。

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