第8話

 雲一つない晴天。

 気象情報によれば今日は絶好の花見日和らしい。

 そんな素晴らしい天気や気温に恵まれた本日、白雪学院の入学式は行われる……。













 俺は入学式は好きじゃない。


 理由としてまず挙げられるのが、校長の長話や、整列だの立ちっぱなしだの、終わった後のクラス割り振りだの、自己紹介だの、と面倒な事が多すぎるからだ。


 無論、それだけではない。


 入学式とは、一つの試練のスタートを意味する。学園生活を満喫できるか、すべては入学式から数日の間の友達作りにかかっている。

 前世、小、中、高、大と四度その試練に破れた俺が嫌悪感を示すのも無理はないことだろう。

 


「はぁ……」


 小さく溜め息を吐きながら、俺は鏡の前で身嗜みをチェックする。

 紺色のブレザーに、水縹みはなだ色のリボン。白いラインの入ったスカート。腰に届くくらい長い髪が清楚さを際立てている。


 デザインは気合いが入っていて制服だと言うのにかなり可愛いものとなっている。

 ……女子用の服は何度か着用したことはあるものの、これを毎日着るかと思うと少し気が滅入りそうだ。



「夕ちゃん! きがえおわった~? そろそろ家出るって!」


 コンコンコンっと三回ノックして姉妹達が入ってきた。

 卒園式後、少しでも姉離れ妹離れを促すために、父に進言をして個人部屋に分けてもらったのだが、あんまり意味はなさなかったようだ。


 三人一緒に入ってきた姉妹達を見て、今日のクラス分けが無性に心配になった。


 白雪学院初等科は基本一学年三クラスで、三年間クラス替えがない。

 普通、親戚等は同じクラスから外されるのだが、俺達姉妹は四つ子。三クラスの中には収めきれず、必然的に二人は同じクラスになることが決定しているわけだが、同時に残り二人はバラバラになることも決定している。


 一人違うクラスに飛ばされても俺は別に構わないが、他の姉妹が耐えられるかどうか……不安だ。





 

 受付を済ませ、入学式が行われるという体育館に向かって歩く両親の後を追いながら、俺は周りの光景を眺める。


 受験の時も思ったが、白雪学院はめちゃくちゃに広い。前世俺が通っていた公立学校とはまるで規模が違う。それでもって設備が充実してる。

 グラウンドや体育館が三つあり、尚且つ温水プールやテニスコート、武道館、劇場、ビルみたいなものまである。まぁ、大抵の設備は中等科、高等科向けで初等科は使えないみたいだけど。



 そんなこんだで歩いていると、ようやく体育館にたどり着いた。

 身長が縮んで足幅が狭くなった所為か距離を感じたが、実際はそんなに離れていないようで、振り返ると校門が結構近くにあった。


 体育館に入ると既に結構な人が集まっていた。皆、財力を自慢しようとしているのか、一目で金持ちだと分かるような格好をしている。


 装飾品が照明の光を反射させているものだから視界が常にチカチカと眩しい。目を細めざるを得ない。



 何か次元が違う。

 これが……お金持ち学校なのか……。


 入学式が始まった。

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