第7話
合格が決まった日から、姉妹達は今まで抑えていた欲望を解放させるかのように遊びまくった。その勢いは破竹のようで、文字通り毎日泥塗れになるまでに遊びまくった。親は困った顔をしていたが、来年からは習い事等で遊ぶ時間が減ることもあってか、とくに責めるようなことは言わなかった。
泥塗れになりながら遊ぶ、その様子は名家の令嬢……ではなく普通の女の子ようだった。
三月になり、幼稚園の卒園式が間近になってきた最近、クマ組の雰囲気がすこぶる悪い。
その理由は、俺達の進学先についてだ。
この幼稚園は公立なので、皆は大体近場にある同じ小学校に進学することになっているが、俺達は違う。全く別の場所へと進学する。
せっかくできた友達がいなくなることに耐えられないのだろう。
そんな思いがバシバシと伝わってきた。
だからと言って既に入学金を納めている白雪学院を入学拒否する訳にはいかないし、もう受験が終わっている白雪学院に入学して貰うこともできない。
そう言って大人達が説明しても子供達の機嫌は良くならない。
どうしようもないのだ。
姉妹達も自分達が原因なことに気づいているのか、その話題に触れようとしない。
そんなギスギスした雰囲気が続いて、いよいよ卒園式まで残すところ後一日になったその日、いつものように四人で固まって遊んでいた俺達は、同級生達から遠慮しがちな口調で問いかけられた。
「また……みんなであそべるかな?」
「違う学校に行っても、またあそべる?」
その言葉を聞いて俺は固まってしまった。
どうやら同級生達は同じ学校に行けなかったら、もう遊べないのだと思い込んでいたようだった。
確かに来年からは習い事が増えるが、一切遊べないようなことはない。親も優しいから頼み込めばいくらでも時間を作れるだろう。
気がつけば姉妹達は皆揃って俺を見つめていた。俺の判断を待っているらしい。どうも俺はこの手の事を振られることが多い。頼りにされてるのは嬉しいが、この様子じゃ姉離れ、妹離れはまだ難しそうだな。
「もちろん、また遊べるよ。むしろ遊んでくれ」
「そ、そうなの!?」
「やったぁ!」
苦笑しながら俺が答えると、同級生達は途端に笑顔になり、喜びの声をあげた。
その後、すっかり機嫌を直した同級生達と最後のふれあいタイムを過ごすことになった。
最後だからと特別違う遊びはしないようで、いつものように鬼ごっこをすることになった。
「ねぇ、夕ちゃん! はじめてあった日も鬼ごっこをやったこと、おぼえてる?」
準備運動をして身体をほぐしていると、小さな女の子に声を掛けられた。初日、俺を上手く嵌めて鬼にした子だ。
「あぁ。覚えてるよ」
「そっか……じゃあその日、夕ちゃんが鬼をしてくれたこともおぼえてる?」
「もちろん」
幼児に嵌められた日の事を忘れるわけがない。
頷くと、女の子は満面の笑みを浮かべた。
その笑顔はキラキラと輝いており、いつぞやを思い出して……嫌な予感がした。
「まさか、また俺に鬼をやらせるわけじゃないよな?」
「ううん。ちがうよ。夕ちゃんにはちゃんと逃げてもらうよ! 一人で!」
「……え?」
「今日はあの日の逆なの! みんなぁ! 夕ちゃんがにげるからおいかけようね!」
「「「おー!!」」」
「いや、……え?はぁ!?」
十、九、八……と数字を数え始める皆さん。
この子、絶対将来とんでもない大物になるだろ……!!
全力で逃走するものの、流石にこの狭い敷地内と無数の鬼から逃げ切れるはずもなく五分ほどで捕まってしまった。逆にこれだけ不利な状況で五分も逃げ切れたのだから善戦した方だろう。
その後は、普通ルールで鬼ごっこをやり、最後のふれあいタイムは終わった。
そして翌日、卒園式を持って俺達は幼稚園を卒園した。
涙ながらに姉妹達が同級生達と別れを言い合っている。
一年と僅かな時間しかいなかったのに、別れに涙を流す。子供にとっての一年はそれほど大切なもので、腐りきった俺の心にも何か響くものがあった。
その何かが何なのかは分からない。ただ悪いものではない気がする。
二度目の幼稚園生活はそれなりに楽しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます