第6話

 十二月一日。

 年内余白少なくなり、一年の締め括りの準備に忙しくなってきたわけだが、そんなタイミングで二週ほど前に行われた受験の合格発表の日になっていた。


 自室には姉妹達は勿論、父や奏時、祖父母と、合否を誰よりも先に聞こうと電話の前で待機している母以外の血縁者が集結していた。


「受かってるかなぁ……」

「落ちてたらどうしよう……」

「お、怒られるよね……」


 プレッシャーにやられ不安になってきたのか、姉妹達がそんな弱音を吐く。

 不安は伝染して、奏時も動揺し始めた。……お前は俺達を和ませる側だろ。一緒にオドオドしてどうする。



「じゃあ合格祝いはこのレストランでどうですか?」

「うむ。……そこよりもこっちの方がいいと思うのだが」

「確かに、良さそうですね。ですけど、今から予約できますかね?」

「西四辻家の名前を出せば何とかなるだろう。私が連絡しておこう」


 その一方で、大人は不合格の可能性なんて考えていないのか、落ち着いた眼差しでこの後の合格祝いパーティーについて談論していた。


 その会話は、姉妹達にも当たり前のように聞こえているようで、「合格祝い」の単語が出る度にビクッと肩を揺らしている。


 それなのに、大人達が自分達の会話が子供のプレッシャーにより拍車をかけていることに気付く様子はまるでない。


 どうも西四辻家は時間にルーズなだけでなく、周りへの配慮が足りないらしい。


「お父さん。その話は小声でしてください。朝日あさひ達がプレッシャーに呑まれかけてます」

「え?……そうだな。すまない」


 軽く進言してやると、その意味にすぐ気づいたのか父はそう返事をして、それ以降会話は耳を澄ませても微かにしか聞こえないくらいに小さくなった。

 気休め程度にしかならないが、姉妹達に「きっと大丈夫」と声を掛け、ソファーに深く腰を掛ける。



 俺は自分が落ちるとは微塵たりとも思っていない。テストではほぼ満点近い結果が出せたはずだし、面接もバッチリだった。


 が、心は不安で一杯になっている。



 ……もし、姉妹の内誰かが落ちてしまったら一体どうなるのだろうか。三人や二人ならまだいいが、一人だけ落ちてしまった場合、その子はどんな気持ちになるのだろうか。

 落ちる可能性の方が低いと面接を見ていた親は言っていたが、可能性はゼロではない。万が一、の事も考えられる。


 俺達四つ子は常に一緒にいた。依存とも呼べるレベルに。そこから一人引き離されたとき、どうなってしまうのか。想像は容易だ。


 ちょっと早いけど、姉離れ、妹離れを促進していく必要があるな。最低でもクラスが別だからと泣き出さないくらいには。




 何て考えながらチラと時計に目をやる。

 結構な頻度で時計を見ていたが、その針がやっと気にしていた数字を指そうとしていた。


 もうすぐ合否が伝えられる……。


 そう思うとホンの少し緊張してきた。

 ふぅーと小さく息を吐いて軽く目を閉じる。視界だけでも外界とシャットアウトさせることで少しだが気持ちを落ち着かせることが出来る。就活の時に使っていた技だ。


 再度目を開けたときには、時計の針は数字をしっかりと捉えていた。


 やがて、部屋の外からバタバタと慌ただしい足音が聞こえてくる。

 姉妹達はおろか父達も会話をやめ扉へと視線を集める。


 バンッ。

 いつぞやの奏時を思い出すような物音を立て勢いよく開く扉。


 急いできたのだろう。ハァハァ、と息を切らす母は部屋を一瞥し俺達の姿を見据えると、片手をあげながらゆっくりこちらへと近付いてきた。


「朝日、真昼、夕立、夜瑠……皆よく頑張ったわね。無事受かったわよ!」


「…………よかった。よかったよぉ!」


 一拍置いてようやく言葉を理解できたのか、姉妹達の目には安堵の涙が浮かんでいた。



 かくして俺達四つ子の姉妹は名門校小学校である白雪学院に通うことが確定した。

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