第5話

 夏の残暑がようやく衰え、朝夕がめっきり涼しくなった九月の中旬。

 小学校受験は十一月中旬とのことで、父指導の元、受験の対策を開始した。

 二ヶ月前から対策って少し、いや、かなり遅い気がする。普通受験って一年前くらいから対策するものじゃないのか……?

 幼稚園に入園した時も思ったが、西四辻家は時間にルーズすぎる。一見完璧に見えてもよく見れば弱点があるってことか。



 そんな家庭事情は置いといて、とりあえず俺達が目指す学校は白雪しらゆき学院初等科。

 お金持ち学校の最高峰であり、通っているだけでステータスになると言われている名門校だ。

 父や母といった西四辻家の血縁者はほぼ全員白雪学院の卒業生らしく、現在は奏時もここに通っている。



 家族曰く、「受験は生活態度、運動テスト、簡単な一般常識とかだから、面接さえ上手く出来れば大抵受かる」、とのこと。

 そのため受験までの二ヶ月間、毎日一時間は面接練習に当てられることになった。


「住所と電話番号を教えて下さい」

「友達と喧嘩したときどのようにして仲直りしますか?」

「姉妹喧嘩はしますか?」

「好きなお話はなんですか?」

「幼稚園では何が一番楽しいですか?」


 これがここ最近の面接内容らしい。

 過去就活の時にやった圧迫面接と比べると月とすっぽんくらい簡単だ。

 就活あのときは確か……「蛇と一緒に水槽に入れられた蛙はどんなことを考えていると思いますか? またこのときの蛙は人間で例えるとどんな立場の人だと思いますか?」って聞かれたっけ。あんなに回答に困る歪な質問は初めてだったからどこの会社だったのかもよく覚えてる。休憩時間が十五分しかないくそブラックな会社でしたね……。



 そんなことを考えながら挑んだ面接練習だったが、俺は一発目で合格を貰うことができた。面接に関しては強くてニューゲーム状態だから当然だろう。

 しかし、姉妹達はそうはいかなかったみたいで、初めて行うこともあってか何て答えればいいか分からずオロオロしていた。


「「「ゆうちゃん! 助けて!」」」


 合格を貰ったので部屋に戻ろうとしたら、姉妹達から助けを求められた。

 が、こればっかりは助けようがない。面接が上手くなるには経験を積むしかない。つまり練習あるのみなのだ。


 だけど、このまま知らん顔して部屋に戻れば間違いなく姉妹達の機嫌は悪くなるだろうから、宥めるのに苦労しそうだ。


「分かった。帰らないで見といてあげるから頑張れ」


 結論として、彼女達の機嫌を最大限に押さえる方法はそれしか思い浮かばなかったので、結局俺は最後まで面接に付き合うことになった。




「ねぇ、ゆうちゃん。あさちゃんたち、なにやってるの?」

「面接練習だって。真剣にやってるみたいだからソッとしておいてあげてくれ」

「めんせつ? それって、いつおわるの?」

「十一月には終わるから。後一ヶ月と少しかな。終わったらまた皆で遊ぼうな」

「うん!」


 毎日の練習の中で、何か思うことがあったのか、ここ最近では幼稚園のふれあいタイム時にも姉妹達は面接練習を行うようになってきた。


 その成果あってか彼女らの面接技術は見る見る内に上達していき、毎日の面接で一発合格が出来るまでに成長した。




 そして時間は過ぎ十一月中旬。

 遂に白雪学院初等科の受験の日を迎えた。

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