第3話
それから三年弱。
三歳になった俺達姉妹は全員、もう立って歩けるどころか軽く走れるくらいようにはなった。
また、「あー」や「うー」といった母音を発するクーイングからしっかりとした言語を話せるようになり、会話の受け答えもできるようにもなった。まぁ、これは俺だけだが。
他の姉妹達も言語は話せるものの、三語くらいしか繋げることができないので会話の受け答えはあまり出来ていない。
確実に転生の恩恵なのだろうと思う。
下の世話や母乳を飲む時とかは、前世の記憶は障害にしかならず「何でこんな記憶持って生まれてしまったんだ」と羞恥心のあまり考えていたが、ようやく役に立ってくれた。
まさか両親ももう流暢に言葉を発せるとは思っていなかったのか、先日初めて話しかけた時は大層驚いていた。
天才だと散々もてはやされ、姉妹には羨ましそうな目で見られ宥めるのに苦労したものだが、その話は置いといて。
この三年弱で両親の名前が判明した。
母は
流石と言うべきか、どちらも金持ちそうな名前をしてる。そしてどちらも若くて美形だ。
こんな両親の元生まれたのだから、きっと自分達も美形に育つんだろうな。家柄も良いから成長すれば間違いなくモテるだろう。
学校で沢山の異性に囲まれてる自分を想像して、泣きたくなってきた。今の俺は女子。つまり俺を囲っている異性は男子だ。やだー……全然嬉しくない。
前世もハードだったが今世も中々にハードな人生になりそうだ。
午前十時ジャスト。
いつも通り俺達姉妹の部屋に母が玩具を持ってやってきた。今日の遊びはおままごとらしい。
とてもじゃないが、精神年齢社会人の俺に参加できる遊びじゃない。かといって参加しなかったら母と姉妹達が悲しそうな顔をするので、渋々参加する。
「じゃあみんな今日は何役をやりたいですか?」
「わたし まま やる!」
「わたし も まま!」
「わたし も!」
母役が三人になった。どんな複雑な家庭だよ。絶対家庭内の空気ギスギスしてるよ……。
「夕立は何役をやりたいのかな?」
みんなの要望にウンウンと頷いていた母が俺に向き直る。
やる気がないので出番の少ない役がやりたい。犬のポチ役とか。
「犬のポチ役」
「え……今なんて?」
「子ども役って言いました……」
母が変な表情になったので慌てて訂正。
役が決まりおままごとが始まった。
子ども役の出番は「美味しい」と呟きながら出来上がった料理を食べてるフリするだけなので、母役が料理を作ってる間はほとんどやることがない。
キャッキャと楽しみながらプラスチックの包丁で玩具の野菜を切って遊ぶ姉妹を眺めていると、部屋の外からカツカツカツと足音が響いてきた。
そして、バンッ! と勢いよく扉が開かれる。
現れたのは俺達より二歳年上の兄―――奏時だった。
奏時は寂しがりやなのか週に四~五回はこうして部屋に乱入して遊びに参加してくる。大袈裟に扉を開くことまでいつものことなので母も姉妹達も特に気にしていない。奏時は開けたときとは対称的に静かに扉を閉めると俺の横へ腰を掛けた。
「……今日はおままごとなのか。また夕立は子ども役なんだな。たまには、まま役をしたらどうだ?」
「めんどくさいから嫌だ」
「めんどくさいって……やっぱへんなやつだな」
「寂しいからっておままごとに参加しに来る奏時に言われたくない」
「なっ、ち、ちがっ!? ぼ、ぼくはひまだったから来たんだ」
暇だからとおままごとやりに来るのもどうかと思うのだが……。そんな驚愕が口をついて出てくる。
「う、うぐ……」
すると奏時は反論をしようとしたのか口をもごもご動かしたが結局何も言い返せず、顔を真っ赤にして
「夕立、ちょっと来なさい?」
そして何故か俺はおままごとの料理が出来るまでの間「男心は繊細なのよ、優しくしてあげて」と母に叱られる羽目になった。元男なのに男心について説教される日がくるとは……。
やはり人生何があるかわからない。
いつでも想像の斜め上を通り越していく。百パーセントの事なんてあり得ないのだ。
そう、この家だって俺が社会人になるまで潰れていない保証はない。いかに名家とはいえ人が作り上げてきたものだ。潰れるときは潰れる。
油断大敵。
せっかく転生したのだから、家に頼らずとも自分自身でホワイト企業に入れるくらいの学力は身に付けておこう。
転生して三年。ひょんなことから目標が出来た。
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