第45話 幼女と少年の集中力
野菜を生で食べないのは知ってますけれども、ちゃんと【鑑定】して変な菌がいないのは確認済みです。こっちは色々垂れ流して、その水がかかってたりしますからね……。
大きく口を開けてぱくっと、ちゃんとかみちぎれます。ベーコンも卵もたっぷり、プリーツレタスみたいなやつがサクッとした食感で――ノアールで作ったんで、幼女の手作りじゃないんですけどね。
「魔素中毒が気になるとこだが、まあ神殿で落としてもらえばいいな。盟友になって許容量が上がったはずだし」
「私は幸い魔法を使えば抜けます」
そっち!? そういえば水に魔素が混じってるとか言ってましたね。それで育てた野菜もってことなのかな? もしかして加熱でも魔素って抜けるの?
……細菌のこと、魔素って呼んでる訳じゃないよね?
野菜がはみ出すほど挟まれたサンドイッチにかぶりつく二人。いえ、かぶりついたのはミナで、ファレルは上品ですけれども。
「お? 美味い」
「はい。ちょっとドキドキしますが、美味しいです」
「何よりです」
ただ、二人ともやっぱりパンは少し硬い方が好きだそうです。おのれ……っ! 幼女に優しくない世界ですよ!
「さて、ちょっとノアールに変わりますよ」
バッタ狩り再会です。
でもその前に、ちょっとハグしてください。
両手をミナの方に突き出すと、きゅっとしてくれました。ファレルも――お胸を楽しむためなんで要らない、とは言えなかったんですよ。
「……」
このノアールに姿を変えるとどっとくる羞恥と悔恨がな。辛い。
「記憶があるってのも難儀だね。あたしは別にノアールの方で好きにしてもらっても構わないんだけど」
ミナが肩をすくめている気配。やめてください、死んでしまいます。
「別人格なんですから気にされないほうが……」
ファレルが慰めを口にする。
いいえ。幼女になると気が大きくなって、目先のこと以外は考えるのが面倒になるだけで、ばっちり俺です。
知識はあるくせに、理性とか思慮とかが仕事をしてない! 考えるのは仕方ないだろ、だって男子高校なんだもん!
「すまん」
ファレルから差し出されたお茶をもらい、飲んで落ち着く。
バッタはどうでもいい。
いや、魔素を集めるのが目的なので、バッタを倒すのがメインなんだが、ただただ無心に斬る。反省中だ、今ちょっと話しかけないで。
五層のバッタは片付け、八層へ。六、七層の魔物は、バッタともっと小さい根切り虫みたいなやつで、効率が悪いのでスルー。バッタ以外は逃げ出すので、追ってゆくのが面倒なのだ。
迷宮の階層を降りてゆくごとに、バッタは硬く、凶暴に。八層ではファレルの言ったように、でかいだけでなく魔物らしい面構え。口は大きく、大顎の突起が牙のように硬く尖っている。
「ここのバッタは、近くにいるものも攻撃に加わって群れを作ります。どんどん集まって来てしまうので気をつけて」
ファレルの注意を聞きつつも、やることは変わらない。
引きつけ、飛びかかって来たところで柔らかい腹を狙う。気をつけるのは、周囲にいるバッタたちの距離。あまり踏み込みすぎて、草むらにいる他のコロニーを刺激しないこと。
二、三匹ならともかく、五匹以上を一度に引きつけてしまうと厄介。命の危険はそうは感じないのだが、単純に虫を近距離どアップで見る羽目になるのは避けたい。
ロゼのお陰ですでにバッタが反応する距離は大体学習済み。気配を読むのも簡単。あとは俺の判断と行動。
「ロゼは多少力任せなとこあるのに、ノアールは慎重なんだね」
ミナが笑う。
「普通、魔法の使い手は魔力量を気にしたり、発動までの時間を計ったりと慎重な方が多いと聞きますが……。対応できてしまう能力、そして年齢のせいでしょうか?」
「年齢っていったら、ノアールも力任せに進みたいお年頃だと思うけどね」
考えなしの反動とも言う。あれです、幼女になると理性が怪しいせいで、本来俺は理性的ですよという主張をですね!
ファレルとミナの二人の中で、俺とロゼの人格が完全に別ジャッジになっているらしい。いいことなのか悪いことなのかわからないけれども。
ファレルとミナの話を聞きつつ、目の前のバッタを処理する。別のことを考えていても、適切に処理できるようになってきた。
少し踏み込む距離を伸ばし、バッタ数体の感知エリアに侵入。連鎖し、襲ってくる個体を増やしてまた剣を振るう。
さて、どの程度の数までさばけるかな?
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