第44話 迷宮探訪

 目の前にいるのは髭面のむっさいおっさんです。宿屋の亭主です。これはこれで定番なのかもしれないけれど、可愛い娘さんがいないと色々成立しないと思うのです。


 カディたちが旅立ったら宿の移動をしますよ!


 そう思ってたんですが、おっさんの料理に陥落中のロゼです。ふわっふわのスクランブルエッグにキノコのソテー、根菜類と煮込まれた豚肉。おどろきの柔らかさですよ!


 こっちの世界の料理が不味いんじゃなんて疑っていてすみません。作る人が作ると少ない材料でもおいしいんですね。あとファレルが料理下手だったんですね?


「日帰りできそうな迷宮は二つ。一つは霧の迷宮、めぼしい素材は朝露」

「朝露?」

説明してくれるファレルに聞き返す。


「そう言う名前の宝石。透明なんで宝石としての価値は低め、それに滅多に出ない」

「なるほど」

補足してくれたミナに頷く。


 こっちの世界、宝石は色付きの方が断然人気で高いんだって。


「もう一つは若草の迷宮。こちらは若草とロタイモ」

「草!?」

「牛豚を養うために必要なんですよ。冒険者は寄り付きもしませんが、村の者は日参しています。ああ、朝露のほうも牧草が生えています」


 そうか、モザイクみたいに緑地はあるけど牛や豚を大量に養えるほどの広さがないんですね? で、迷宮から産出される飼料で補っているんですね? 理解しました。


「邪魔になっちゃ悪い気がしますけど、大丈夫ですか?」

「五層までは階段が開いていますので、大丈夫ですよ」

「ま、魔物を倒したらもう片方にいけばいいだろ。効率よくいこうぜ」

ファレルとミナが言う。


 そう言うわけで最初は朝露の迷宮から。


 魔素集めで魔物倒すこと自体が目的なので、儲からなくてもいいんですけど、できれば滞在費とか経費くらいは欲しいです。


 まずは迷宮の雰囲気を見るってことで、町の人が作業をしている一層を覗く。午前中は、外で家畜の世話をしている人が多いから、迷宮は人が少なめ。


 危険のないように腕っ節が強い集団が先に来て、魔物を倒してる感じ? 迷宮自体はカバラと違って、広間で構成されてるみたい。通路が短くって、部屋から次の部屋が見えてる。


「こりゃ、膝から下がずぶ濡れだね」

そしてわさわさ生えた草についた朝露が、歩くたび足を濡らす。


 そういえば、サバイバルで足にタオルを巻いて歩き回って水を集めるっていうのがありましたね。


「服が重いです」

厚着のファレルは、あっという間に服が水を吸って色が変わってますよ。


「諦めて若草の迷宮にします」

俺はミナに肩車されてるんで平気だけど、目的が目的なんで無理をすることはない。魔物がたくさん出ればいいんですよ、魔物が。


 そういうことになって、来た早々移動です。


 若草の迷宮は一面綺麗な緑、美味しそうな草ですよ。俺は食べませんけれども。


 中はカバラの迷宮より明るめ。もう町の人々が牧草刈りに来ているので、階段を降りて五層から。


「バッタ……っ」

でっかいバッタが、びよん、ぶいーんみたいに草原を飛びまくってるんですが……。顔がつるんと四角くてイナゴみたいです。大きさがファレルどころか、カディの腕くらいありますよ。


「頭と足、上の羽根は硬いんです。飛んで羽根を開いた時か、下から柔らかい腹を狙います。八層も確かバッタで、ここのバッタより魔物の特徴がより顕著になりますので、五層で練習するのが良いそうです」


 ファレルがすでに情報収集済み。


「ちょっと魔法で倒してみて、簡単だったらノアールに変わって修行します。バッタから取れる素材はありますか?」

一応確認。


「食糧難な時は貴重なタンパク源になるのですが……。豚の餌としての買取ならあります。嵩張りますし、採取はお薦めできません」

「はい。じゃあ、まず【ファイア】で」

ファレルの説明に、バッタの採取は考えない方向で行く方針。


 名残惜しいけれど、ミナのお胸から離れて他の個体から離れているヤツを選んで【ファイア】をぶつける。


 火に包まれたまま、バッタがこっちに突っ込んできますよ!!! 


「おう!」

ミナが剣を抜いて叩き落とす体制。


「【ストーンランス】!!」

でも責任は自分で取りますよ。


「相変わらず発動が早い……っ」

ファレルが小さく声をあげてます。


 【ファイア】の勢いでは、バッタが地を蹴った勢いが殺せなかったんですね。バッタは【ファイア】でお亡くなりになってるんですけれども、ゲームとは違いますね。


「びっくりしました。使う魔法を考えます……」

【ファイア】は素材もダメにするし、普段は使わない方向で。扱いが一番楽で使いやすいけれど、しょうがないですね。


 保護色で草の中に隠れていても、【気配探索】があるんで問題なしです。でも面倒なので【ウィンドカッター】で草刈りしますよ!!


 そんなこんなで魔法の修行を五区画分。


「お昼ですよ、お昼」

今日は瓶をせっせと振った、酵母で作ったふっくらしたパンです。早朝、ノアールでカバラのファレルの家で作ってきた。


「具はベーコンとチーズ、卵に葉っぱです」

葉っぱの名前は知りませんけれど、プリーツレタスみたいなやつとルッコラみたいなやつです。


「葉っぱ……」

微妙に納得いかない顔のファレル。


 ようやく俺の歯が勝てるパンを手に入れたんですよ!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る