第42話 おじいちゃん

 ハティは馬にモテモテ、相思相愛ですよ。足派は足派でも馬派だったんですね……。


「何故沈痛な顔をしているのか伺っても?」

笑顔のハティ。


 大人しく馬に乗ってたら、聞かれましたよ! 勘がよすぎじゃないですかね?


「人の性癖には触れないことにしました」

「……ろくでもないことを考えてはいませんか?」

美形の笑顔ですけど、何か圧を感じます。


「気のせいです」

結局、勇者で聖女なことは話せていないです。


 話しの持って行き方を間違えました。やっぱり「とりあえずお胸を出してください」と言ったのは間違いだったようです。


 手っ取り早いと思ったんだけどな。


 誘拐したおじいちゃんのこととかは、カディが説明してくれてこっちはクリア。野営の時にまた様子を見に戻ります。


「そういうわけで行ってきますよ」

「どういうわけだよ。まあ、隠れ里は今の時点では安全だってんならいいけどよ」

野営の準備をして、ご飯を食べたところで宣言して立ち上がる俺。


「今は誰も入れないし、おじいちゃんしかいませんよ」

「白の指し手イスカ……一度お会いしてみたいものです」

ハティが言う。


 出る方も保証できないので、しばらく無理です、諦めて。


 そう言うわけで箱庭に戻ってきました。


「ただいま」

「先ずはおかえり。だが聞きたいことが山積している」

おじいちゃんを放り込んだ部屋に行くと、ベッドに腰掛けていて、ドアを開けたら目があった。


「えーと。具合はどう?」

恐る恐る聞く。


 倒す方にはだいぶ慣れたけど、まだ重傷者の回復経験は浅くてですね、毎回本当に【回復】が効くのか自分でも半信半疑なところがあるんですよ。


「きれいさっぱり傷は消えた。だが、血が足らんようだ。傷はお前が消してくれたので間違いないな?」

「そうです」

「礼を言う」

「はいはい。元気になったら働いてね」

俺の代わりに畑仕事と家畜の世話をお願いします。


「礼は言うが、もはや腹の探り合いや争いはこりごりだ」

「ここまだ鶏しかいないんで、卵の回収からでお願いします」

おじいちゃんとセリフが被った。


「……卵?」

不思議そうにつぶやくおじいちゃん。


「ああ、怪我してる時だったから聞こえてなかったかな?」

いや、そもそも得意かどうか聞いただけで合意なく採用した気もする。


「ここは『箱庭』と言って、僕が神様からもらった場所です。おじいちゃんの世界とは隔絶されてて、僕しか行き来できません。ここの場所の魔素はちょっと異質なんで、物を育てることで世界と融合させるのが役割です」

一人称は僕に決定しました。


「神から?」

ちょっと不審そうに眉間にシワを寄せるおじいちゃん。


「僕、こういう者です」

勇者と聖女の紋を両手にそれぞれ浮かべてみせる。


 今回は順番を間違えませんよ。そもそもお胸の段差を見せてもらう必要はありませんからね。


「二つ……!? 一人が勇者と聖女を兼ねることなどあり得るのか!」

「体が二つなんだよ」

そう言って、ノアールになってみせる俺。


「何と」

ぽかんとしたおじいちゃん。


「悪いが、この箱庭で農作業をしてもらうことになる。――あっちになるとどうも思考が見た目相応になるようでな、説明もなしに連れてきてすまなかった」

いやもう、本当に。


 胸は揉み出すわ、段差は触るわ、やりたい放題で。ノアールに変わった時に羞恥で激しく落ち込むからやめて欲しい。


「いや、儂は死にかけとったしの。そうだ、一度死んだつもりで何があっても驚くまい。喜んで手伝おう――」

思考を切り替えたのか、さっぱりした顔で言うおじいちゃん。


「俺もそうしてくれると助かる。ただ、先ずは本復することだな。箱庭は畑の整備はほとんどされていない、力仕事になるだろうし。食料はある程度この袋に、ここの水は飲めるから」

もう一度説明を一通りする俺。


「うむ。回復の後は勤めさせていただこう」

「欲しいものがあったら持ってくるけど、何かあるか?」

食料以外にあんまり思いつかない俺だ。


「そうじゃの、ずっと動かんというのも暇だし籠でも編もう。柳の枝か麦わらなんぞがあれば嬉しいかの」

「わかった、次くる時に持ってこよう」

明日には町に着くはずだし、調達できるはず。あと着替えも必要かな?


「では、先ほど行った通り、二階以外は自由にしていいから」

「鶏はどこに?」

「家の周りにいる。家畜小屋もまだだけど、害獣は存在しないから」

「承知した」

頼んだお仕事を確認してくるところは好感が持てる。


 いい人材をゲットした予感!

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