第37話 箱庭整備中。

 ふんふんふん。

 とりあえずキャベツを植えた。唐辛子とニンニク、オリーブオイル、高いけど小麦粉も出回っているので、育てばこれでペペロンチーノを作れる。


 が、その前にキャベツの千切りが食いたい。ソースや醤油の調味料は魔素を貯めれば一覧から取り出せる。量に制限があるのでなくなるまでに作れるようにならないと。


 対象がないと【鑑定】でレシピを見ることができなくなってしまうので、結果をせっせと書き写してレシピ帳をつくる必要があるな。


 牛用と豚用の柵を作るつもりだったが、今は保留。レラリア王国に転移ポイントを設定すればいつでも買いに行けるから、環境が整うまでは生き物は飼わないことにした。


 そういうわけでレラリア王国へ行くことにしたのだが、旅立ったのはファレルとミナだ。俺は後からで合流――は難しそうだから、村で合流予定。しばらくは一人で箱庭と家の手入れに没頭する。


 迷宮はファレルの言った通り、工事が始まり地上階段側は使えなくなった。効率が随分悪くなり、何度かノアールで入ったが、移動が長すぎな上、人との遭遇頻度が多く面倒だった。


 魔素の供給がないけど、育つのに時間もかかるのでお茶とコーヒーは出して植えた! 


 明るいうちは外での作業、日が落ちたら家の中での作業。小川を流す場所を決めて地面を掘ったり、風呂を作ったり。パスタの乾麺作りをしたり、湿気り気味のナッツを炒めて蜂蜜漬けにしてみたり。


 風呂は北側に。ロゼで土を石のブロックやタイルに変える。材料がないところから出すと魔素が切れると消えてしまうが、材料がもともとあって変質させたものなら大丈夫。


 ノアールでどけながらせっせと積んでタイルを敷く。箱庭には雨もあるので屋根をかけたいところだが、とりあえずそれは後回し。


 次に台所の北側の納戸みたいな場所の床に穴を掘る。もともと土を固めただけの床を半分石にして短い階段にする。外に向いた壁の下はそのまま穴を貫通させる。それにしても家の土台に不安を覚えるんだが大丈夫だろうか。ああ、地震はないのか。


 ちょっと不安なので石で補強する。外に出て風呂の湯が流れる予定の場所まで溝を掘る。うん、この上にトイレを作れば楽かな? 出来栄えを眺めてちょっと一息。


 まず台所の北側にちょっと温度が低い水を湧かせる、次は風呂のお湯。農作物に悪そうなので硫黄やら炭酸はやめて単純泉、湯量は少なめ。台所の冷たい水と混ざって小川は普通よりちょっと温い程度、庭から流れ出るころには普通になってるだろう。


 食事はチーズパスタ。手打ちの幅広の生パスタにベーコン、チーズを絡めてバジルっぽい乾燥ハーブを投下。濃厚なチーズがもっちもちのパスタによく合う。


 夜はランプをつけてノアールで傷薬を作ったり、ロゼで魔方陣を書いたり裁縫をしたり。部屋は徐々に居心地が良くなっている。


 カバラの街で食材と薪の買い足し。薪は周辺に普通の木は生えておらず、火を起こすには、背の低いというか幹のない椰子っぽい植物を乾かしたものを使う。箱庭で薪はだいぶ作ったけど、生木を切ったものなのでまだ乾いてない。


「高くないか?」

「もうすぐ雨が来るからね、今年は早い。高くても買いためておいた方がいいぞ」

色々なものの値段が上がっているが、逆に乾燥ハーブは投げ売り状態。


 雨が降るとまず、谷で鉄砲水が頻繁におこるため、迷宮にゆく冒険者が少なくなる。一応崖の壁に道っぽいものはあるのだが、そこまで届く水量のものが時々あるのだそうだ。


 なので迷宮産のものが値上がる、特に消費の多いもの、保存が効かないものは顕著だ。雨が降ると植物が息を吹き返し、カバラの街の周りは別世界になるんだそうな。ちょっと楽しみ。


 ファレルの家に風を入れたあと、戸締りし出かける準備。


 懐かしき森。基本森の恵はその土地を収める領主のもの。直接管理じゃなくて森林管理官みたいなのを任命してて、村長が兼ねてることが多いって。


 住民に対して森を解放しているところもあれば、厳しく制限しているところもあるそうだ。そして街道沿いの森や、人の手が入っていない森深くでの採取はやりすぎなければ認められている。でないと旅ができないからね。


 レーン王国辺境の村。入り口付近に三角形に並べた小石、もうファレルたちは着いているようだ。


「こんにちは、この村にミナとファレルという二人は来ていませんか? 赤毛の女性と黒髪の男性です」

第一村人に尋ねる。


「ああ、村長んとこにいるよ。あんたがあの二人の待ち人かい?」

また村長の家か。


「そうです。ところでその豆、分けてもらえませんか?」

話しかけた老人は外で豆をより分けていたのだ。


 朱銀貨を差し出してひよこ豆を二袋ゲット。今が収穫時期なためか、価格は安めらしい。


 写真の一覧にもあるけど、魔素を消費するし、こっちにあるものはこっちで手に入れて箱庭に植えよう。


 色んな野菜の種を少量ずつ分けてもらう。支払いはお金と半分は迷宮産の肉で。森はあるけど、ゴブリンがいるせいでウサギとかイノシシとかあまり獲れないらしく、喜ばれた。


「おう! タド、村長んちに客を案内してやんな」

老人が家の中に声をかけると、小さな男の子が出てきた。


「こっちだよ!」

場所をしっているとは言い出せない雰囲気なので、おとなしく男の子の案内にしたがう。


「すでに色々買ったんですか」

「うん」

ファレルとミナと再会した時、豆の袋を抱えていたのでちょっと笑われてしまった。


 村長にも宿代をお金と現物にくで払う。バルグたちが泊まった後じゃ、色々食い尽くされてるんじゃないかと思ったが、あたりだったらしく喜ばれた。この村は豚も少し飼ってるけど、基本タンパク源が鶏っぽい。


 どこのご家庭でも飼ってるそうで、明日村を出る前に番いで譲ってもらう約束を取り付けた。金というか肉は払ったけどね。


 ああ、ちょっと豆のスープが懐かしい!


「ノアール、一緒に寝るか?」

「遠慮します」

なんの罠ですか! 


 食事の後のミナの誘いを断って、ファレルと割り当てられた部屋に引き上げる。以前泊まった部屋、村長の家も客間は二つしかないみたいだけど、ファレルたちはどうしたんだろう? 他の村人の家に分散したのかな?


 自分の家の改造のために、村長宅の気になる部分を観察する。箱庭も着々と整備が進んでるし、いい感じ。

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