第36話 オムレツと朝
さて。
とりあえず家の周りの木を切り倒す、斧なんか使わず剣でサクサクと。二本の大きな木は切るのが勿体無いので残す。
切り倒したひょろひょろとした木は、こっちの世界にたくさん生えてる広葉樹。ちゃんと手入れしてまっすぐ伸ばせばいい木材になる、という鑑定結果。とりあえず建材は買うつもりなので、少なくとも家のそばには必要がない。
家の周りには月桂樹や山椒、柚子などを植えるつもりだ。桜とか紅葉もあるので、余裕ができたら観賞用の懐かしい木を植えるのもいいかもしれない。場所をノアールで鑑定すると、気候と土の性質、何の作物に向いているかが出るので安心だ。
ロゼの魔法で土を柔らかくしてノアールで引き抜く。敵と戦うより消耗するぞこれ。でも、身体能力と魔法のおかげで信じられないようなスピードで処理できる、サクサク進むと楽しいのでいいね。切り倒した木は後で薪にしよう。
適当な広さを確保したら、次は家の中。台所には追加で買ってきた瓶や笊、食器類、布巾などを棚にしまう。蓋が付いてて、蓋の周りに水を入れて空気を遮断する保存用の壺もいくつか。
買ったものを色々出してゆく。ただの入れ物だった家が、家になってゆく。あとは日が昇ってからだ。
風呂にもう一回ざぶんといって、ファレルの家に戻る。
次は料理の仕込み。欲しいのはまずイースト菌、パンやらなにやらを膨らませてふかふかにするあれだ。イーストはパン作りに適した酵母のみを凝縮した、お手軽に使える酵母だ。
が、作り方を知らんので天然酵母を作る。こっちはパンを作るつもりで【鑑定】したら作り方が一緒にくっついてきた。
瓶を熱湯消毒してレーズン、砂糖少々と水を入れる。あとは暖かいところに置いて一日二、三回振って混ぜる。蓋を取ってガス抜きを兼ねて外気に触れさせる。これを五日くらいやると細かい泡が上がってきてできあがり。りんごとかでもできるので、気が向いたら色々作ってみよう。
これで惣菜パンを作るつもり満々だ。何度か混ぜないといけないので箱庭には持っていけない。
基本、魔素の影響を受けたり取り込むものはダメ。植物とか動物とか、菌とか。箱庭の魔素は俺の世界の魔素だから、ゆっくりこっちの世界の魔素を混ぜて薄めてからじゃないと持ち出せない。
そういうわけでうっかり卵がいくつか持ち帰れなくなった。持ち帰ることができたものもあるのだが、どうやら有精卵と無精卵の違い。水とか小麦粉は平気だった。増えるものがだめなのかな?
ちょっと気をつけよう。
そして見るたびに購入している小麦粉は結構お高い。ライ麦や大麦が普通らしいのだが、お隣の国から少々入ってくる。小麦は確かけっこう土地と気候が良くないと育たないんだっけ?
小麦粉は強力粉もあるのであとでパスタ作るんだ、うどんもいいな。醤油はないけど、汁なしで卵の黄身で食べるのもなかなか。
お茶を入れて一休み。台所は、主人が寝ている間にメイドさんとかが活動を開始する場所なので多少の音はファレルやミナの部屋には聞こえないので安心だ。
朝ごはん用に玉ねぎを剥いて十字に切り込みを入れてバターを突っ込む。塩胡椒をして竃にくっついてる石窯に。
人参を細い千切りにしてキャロット・ラペを作って、ロゼで氷を出して箱に皿ごと入れて冷やす。
卵液を作ってオムレツをつくる準備。ケチャップがないのでチーズオムレツにしとこう。
どうせ俺はロゼでも食べるので、先に朝食を済ます。ふわふわのオムレツにチーズがとろり。カリカリに焼いたベーコン。
玉ねぎは甘くラペも冷えてさっぱりして美味しい。コーヒーが欲しいな……。
「おはようございます」
まだ早い時間なのにファレルが起きてきた。
「おはよう」
「すみません、この家にハティ様とカディモンド様、バルグ様とアリサ様が滞在されています」
ぶっ!
慌ててロゼになる。
「いえ、まだ起きてくるには大分早い時間です。起きてらしたら先にお知らせしようと早起きしましたので」
確かにまだ朝というより未明の時間、真っ暗だ。どきどきします、どきどきしましたよ!
「アリサって?」
「爆炎の魔女殿ですよ。昨日の今日ですが、四人ともレラリア王国に旅立たれるそうです」
ほうほう?
「届ける角は一つですから。なるべく一緒に居たくないのと、別れたら角を持ち逃げされるんじゃないかという警戒とでせめぎあっておられました」
仲良くできない大人どもですよ。
「もしかしてそれでここに泊まることに?」
「はい」
もめまくったのが目に見えるようだ。ゆっくりできないじゃないですか。
「それでどうしますか? 彼らの行くレラリア王国は規模の小さいダンジョンが無数にある国です。迷宮の産物はパッとしませんが、競合なく魔物を狩れます。カバラの迷宮はしばらく工事中で、旧階段は混み合います、純粋にルートが二つあったものが減りますからね」
「ん〜。しばらくってどれくらい?」
ちょっとならお庭の手入れして待ちますよ。
「動員される人数と魔法によりますが、三ヶ月ほどですか」
うーん、微妙。
「ファレル、そういえば牛乳って高い?」
「ここは牧草が育ちませんので牛乳はないですね。近隣からも牛乳の形では届きません」
もしかして保存のきくチーズが限界なの?
「レラリア王国って牛とか豚とか買える?」
「ええ、あちらは緑豊かですから」
牛と豚は欲しいけど、まだ柵も何もできてないしなあ。
「おはようございます」
「おはよう」
ハティが起きてきた。朝早いな、騎士。服装も朝っぱらから隙がないですよ。
「おう」
とか思ってたら続々と起きてきた。あれか、早立ちというやつか。
「嬢ちゃん、おはよう」
「おはよう!」
高いものくれたバルグさんには笑顔ですよ!
「おお……」
なんか感極まってるけど。大丈夫なのこの筋肉さん? さびしんぼ?
「ロゼ、おはよう」
ミナのハグとほっぺにちゅうです。どさくさに紛れてお胸をちょっとむにっとしますよ。
「あら、私が最後ね」
「! お胸が!」
爆炎の魔女さんの格好がローブなしなんでお胸が! お胸が存在を主張してますよ!
「……もんでもいいけど有料よ」
「払います」
「やめんか!」
即答したらカディにつまみ上げられた。
「アリサ殿、この子は本気にしますので」
困ったような笑顔でハティが言う。
「あら、私も本気よ。お金は大事だもの……」
「おいく……もがっ」
料金を聞こうとしたらカディに口を塞がれた。
七人でごはん。ファレルを除く男性陣にはおっきなベーコンステーキ付き。そしてスクランブルエッグ。
ファレルを見ると視線をそらされた。ノアールでオムレツの作り方教えたんですけど、結果がね? これはこれでふわふわでいいんですけども。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます