第35話 ギルドで買取をしてもらう

 逆竜鱗さかりゅうりんは竜の体に稀にある鱗で、見つけた人の物になるのだそうだ。そしてお高い。


「きれい」

お高いだけあって、ルビーから削り出したみたいにきれいで男の俺でも見惚れる。透明感があるのに深い赤。


「いいの?」

もしかして見せてくれただけですか? お土産ということはくれるんだよね? こてんと首を傾げてバルグを見上げる。かがんでいる状態でも俺より顔が高い位置にあるのだ。


「おう」

「えっ、いや待て!」

「早まるな!」

「ありがとう」


 何か止めてる外野がいるけど、本人がいいと言ってるので貰いますよ。わーい! ぶっとい首にハグしときますね。さすがにここまで筋肉はいらないんですけど、見てる分にはいい感じ。


「絶対価値分かってねぇ!」

カディが叫んでる隣で、ハティも眉を寄せてため息をついている。


 ご機嫌でバルグの肩に乗って町に戻る。あ、一応作業中のギルド関係者の人にファレルとパルムがどこまで崩落したか教えてたよ。これから本部で正式に報告だけど。


「悪い、借りた剣ダメにしちまった」

「いえ、ご無事で何よりです」

ギルドの受付でミナと係のお姉さんが言葉を交わしてる。


 パルムはちゃんとミナの剣を回収してくれた。でもギルドで借りた剣は弁償になる。


「今回の地図とか戦利品で足りない?」

なんかけっこういいものたくさん持って帰ってきたよね? どれくらの価値か俺にはわからないんだけど。迷宮の中でいいものっぽいこと言ってたはず。


「私はロゼの契約奴隷で、契約の内容的に全部ロゼのものだよ。ファレルの分は除いてだけど」

そういえばそんなかんじの契約でした。

 

 代わりにギルドから借りた剣と、防具の修繕代は俺が払うことになる。というか、もともと借主は俺ということになってるし。


「僕の分も案内人の契約通りですよ」

ファレルはそういえば案内人でした。


 案内人は依頼料の他に、運んだ戦利品の一割の権利だっけ? ファレルにももちろん持ってもらったけど、腕力的に荷物はノアールとミナに詰めるだけ詰めて来たような……。特に高いっていってた『生命の苔』は、パルムたちが合流した時に見せないようにノアールの荷物に放り込んであるような?

 

「最初に取り決めしてなかったから、新しい場所の地図はファレルと折半だね」

「拠点の場所分の上乗せは後でロゼさんに」

ファレルが小声で付け加えてくる。


「……もしかしてお金持ち?」

「そうですね。買取をお願いします」

ファレルの言葉は後半はギルドの職員にだ。


 どんと置かれる『湧水石』の袋。その隣にミナが『黒鉄』『赤鉄』の袋をさらにどんと。背中にくくりつけられてたキヘラの皮も。


 袋は変に思われないように普通の袋。肉や蜂蜜の入った袋とノアールの持ってる袋は魔法がかかっている。


「これは大量ですね」

隣に目をやりつつ係の人が言う。隣では他の係の人がバルグたちから買取を依頼されている。俺たちが迷宮で運べないヤツを売った分なので同じもの。


 さらにバルグたちとカディたちが角以外のレッサードラゴンの素材を査定にかけてる。道中の他の素材より遥かに高価だから、行きで出る素材は食料になるもの以外はスルーしたみたい。


 地図はギルドに売り払った、こっちは迷宮鳴動の報告と一緒に別室で。俺は相場も手続きもよくわからないからお任せ。


 後から聞いたら、地図を売り払ったのは家に押しかけられないようにだそうだ。ファレルだけなら、自分で販売するか、委託したほうが案内人として都合がいいらしいんだけど。ご面倒おかけします。


「ごは〜〜ん!」

野菜だ! 果物だ! 


 レッサードラゴンの査定と戦闘の報告が長引いているやつらは置いて、ご飯です。


 豆のスープ。ニンジン、タマネギ、ニンニク、カブのスープ。基本生野菜はないのだ! 水が汚染されてるからね、多分野菜も生で食べたら腹を壊すね……っ! 水もかけてるだろうけど、絶対肥料としてトイレのアレ、発酵しきらないままぶっかけてるでしょう!?


 迷宮内で肉に偏ってたのでスープが二杯だけど、野菜です。もうこれは早く箱庭に畑作って野菜の栽培しないと。葉物野菜も欲しい。


「ん〜。肉はロゼが作った料理のほうが美味しいね」

「迷宮の中で食べた方が美味しいというのもなかなか聞かない話ですよね」

二人はまた肉を食べてる。肉と酒があればいいの? それだけでいいの?


 あー、ノアール用に野菜買って帰りたい。風呂も入りたい。


 ファレルの家に帰る途中、露店に寄ってもらって野菜、卵、小麦粉を購入。牛乳とかバターも欲しいんだけど。牛と豚、鶏も欲しい、箱庭で飼う用に。その前に柵作ったりしなきゃ。 


 と、思ってたんですけど。買い物後にミナに抱っこされたまま寝ちゃったみたい。起きたらベッドでした。


 完全に夜中だけど、箱庭に行こう。カップ麺を食べに!


 転移してノアールになってお湯を沸かす。お湯を沸かすだけなのに井戸で水を汲むところからなので、けっこう手間がかかる。明かりがランタンだけだし。


 これはもう台所に水を流す方向で行こうか。あーでも木造だから土台とか腐っちゃいそうだ、うんと冷たい水ならいけるかな?


 魔素を消費してカップ麺登場。おたまみたいなのでお湯を移して待つことしばし。三分がわからないので適当で!


 この匂い、この味! 幸せ、幸せすぎる。


 もっと食べたいんだが、さすがに魔素をこれ以上消費する気はない。ロゼのほうは、ダンジョンの入り口に戻る魔法のためにレベル上げに使っちゃったし。


 買ってきた小麦粉は薄力粉、強力粉はグルテンがたくさん含まれていて粘性と弾力性豊かでもっちり。少なくてさっくりふんわりは薄力粉だ。


 まあ、今回そんなことは考えずに。


 薄力粉と塩と砂糖、水と脂を入れて捏ねる。オリーブオイル欲しいな。

 玉ねぎとキヘラの燻製をスライスして、チーズをたっぷり。石窯がないので竃の鉄鍋に入れて蓋をして焼く。蓋は鉄と木のものがあったので、鉄の蓋にして上に赤々とした炭をいくつか竃から引っ張り出して乗せる。


 とても簡単なピザだけど、焼きたて。こっちも幸せの味だ。


 腹を満たしたら風呂だ、確か少し下ったところに岩場がある。そこに水を湧かそう、温度は自由自在だ。


 月明かりが明るく、夜目が効くのでランタンの明かりを消して夜道を行く。箱庭の閉じた世界なのに風もあれば、星も見える。結構最初は怖かった暗闇も迷宮の閉塞感から解放されたせいか、気にならない。


 さわさわと木々がざわめく中、目的地を目指す。


 石を適当にえぐる、これはロゼの魔法。そして温泉の完成。こんこんと湧き出る湯はすぐに石のくぼみを満たし、溢れて流れてゆく。流れてゆく先は後で検証が必要だけど、今はいい。


 服を脱いで真夜中の温泉へ。あー、肩まで浸かれるのっていいね。桶じゃやっぱり物足りない。


 家のそばで鶏を飼って、豚と牛は少し離れたところかな。牛は確か放牧できたはずだ。豚もどんぐり食わせるのに森に放すとか聞いた気がするので、小屋だけ作って放し飼いでいいかな? 天敵いないし。


 でも畑を荒らさないよう柵はいるな、うん、大雑把に区画を決めて柵で囲もう。牧草もある程度は作らなきゃ。


 とりあえず乳牛買おう、今は肉より牛乳が欲しい。

 あ、ちゃんとミナにも迷宮の儲け分けよう。なくした剣は戻ったけど、防具を揃える必要があるしね。


 星を眺めて、途中でロゼに変わって長風呂。


 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る