第34話 久しぶりのお外
壁についた光苔を落として、新たに光苔を指につけ壁に矢印と四角を書く。四角はカディたちと打ち合わせた記号だ。上がって来た階段側の拠点を移動するので、後から来るカディたちに場所を知らせるために残している。
北西側は地図が埋まったので、新しい拠点はパルムに渡された地図にある北東側の行き止まり。探索済みの場所から四つ拠点の場所を選んであり、順番に移動しながら上への道を探すことになっている。カディたちは拠点から拠点へ最短で移動して俺たちを追ってくる予定だ。
矢印はこの拠点からは移動済み、の印。矢印の方向で予定通りの二番目の拠点に移動したことを知らせている。
新しい拠点から地図にない上り階段に続く道を見つけるため、またあちこち行くことになる。
運んできた鉱石の類を行き止まりの壁際に置いて、拠点の整備を始める。地図がある場所は冒険者が通った場所、光苔が増えているおかげで薄明るい。まず魔物避けの壁をファレルが出して道を塞ぐ。
「よいしょ!」
俺はロゼでファレルが出した壁を変形させて内側に階段をつけ、外側にも足場っぽいものを作る。ここは登ってくるような魔物がいないので造形にあんまり気を使わなくて大丈夫。
次に大事な
「便利だねぇ」
ミナが関心しながらそこへキヘラの角を放り込み、あっという間に火を付ける。
鍋を設置してとりあえず湯を沸かす。『湧水石』がたくさんあるので水の量を気にせず使えるための贅沢だ。ただし、コーヒーはない模様。
同じく土魔法で石の台を壁に作って、料理をするためにノアールに変わる。ファレルとミナはキヘラの毛皮を出したり寝床の準備と荷物の整理。
俺が持っていた荷物は整理済みの鉱石など重いやつ、戦闘に影響がない範囲で。二人が整理しているのは道中の戦利品を適当に突っ込んだものだ。
器に小麦粉と塩と水を入れて耳たぶくらいの柔らかさにこね、適当に薄く延ばして薄っすら焦げ目がつくまで焼く。チーズを乗せて溶けるのを待ったら出来上がり。ちょっと胡椒を振りたいところだ。
キヘラの肉に、ビタミン補給の酸っぱい果物を干したやつ。
「食事のバリエーションが欲しい」
野菜が欲しい。ワインと調味料が欲しい。米が欲しい。
「美味いよ? 迷宮の中でこんな美味しい食事にきちんとありつけるとは思ってなかった」
「ええ」
志が低すぎる!
土トカゲとマスズ、キヘラを倒しつつ、外へ続く階段へと至る道を探す。地図の余白は埋まってゆくがなかなか思うような結果は得られない。行き止まりだったり、ループしていたり。
「こう、拠点がどんどん充実してくね」
「カディモンドさんたちもそろそろ上がってくるでしょう、呆れられませんかね」
「確実に呆れられるね」
上への階段を見つけたのは三つ目の拠点に移動をした後だ。合流までもう拠点の移動はない。
最初に聞いたカディとハティの日程からして、合流まで間がありそうだったから、ちょっと土魔法で机を作ったり椅子を作ったり、寝床の石を砕いて柔らかい土にしたりしただけですよ。俺の寝床はミナのお胸なんで最初から柔らかですけどね。二人も快適にすごしたじゃない、やりすぎっぽく言われるのは心外です。
階段も見つけたし、
「この燻製とかどうするんだ。さすがに多すぎだろ?」
迷宮の壁から壁へ渡してある石の棒に吊るされている燻製を見上げながらミナが聞いてくる。
迷宮はどういう仕組みか風が通り、酸素が供給されている。淀んでるところもあるけどね!
「当初の予定の倍ありませんか?」
ファレルが心配そうに聞いてくる。
「燻製は売れるから大丈夫」
煙いのでちょっと離れたところで大量に作っておきました。キヘラの革で荷物用の皮袋も増やしたし。
「鉱石のほうが高いぞ?」
「両方持って出るのはさすがに……」
「ううん、ここで売れると思うよ」
「ここで――ああ、バルグ殿たちが上がってくる」
思い当たったらしいファレルが声を上げる。
「ああ、なるほど。下で合流してるかもしれないね」
「ルートを新規で開拓しない限り確実に会うでしょう。普段でしたら合流はしないかもしれませんが、帰りの道が通れないのがわかれば爆炎の魔女殿が説得すると思います」
そうなんです、筋肉さんはいっぱい食べそうだし、爆炎の魔女さん? もお胸の維持にいっぱい食べそう。その予想の結果がこの燻製の量ですよ。ソーセージも作りたくて大量の腸の塩漬けを作ったからこっちは外に出たら作ろう。
キヘラの大腿骨、スネ肉と豆を煮込んだスープ。移動がないからずっと煮込んでたのでスネ肉が柔らか!
食事の後はちゃんと歯を磨きます、ノアール磨いてないけど。こっちの歯の治療は虫歯になったら歯を抜いて魔法で再生だそうです。お高いそうだけど、それよりも抜くのが痛そうなんで嫌です。
お腹がいっぱいになってうとうとする。ミナのお胸が呼んでるから仕方ないんですよ。おやすみなさい。
ざわざわとした気配に目を覚ます。
「起きた」
もぞもぞしたらミナから声がかかった。
寝ぼけながら周囲をみたら、人がいっぱいいた。ミナ、ファレル、カディ、ハティ。そのパーティーのパルム、魔法使い三人、斥候さん。バルグの巨体にお胸の大きな爆炎の魔女さん、身軽そうな男、デッカい盾を横に置いてる男、大きなリュックのそばにいる男。
「ぎゅうぎゅう」
「もう少し広くすればよかったですね」
目を丸くしてたらファレルの声が隣から聞こえた。
いつもだいたいミナの対面にいるんだけど、ぎゅうぎゅうだから隣に移動したらしい。
「おう。お互い無事でなによりだ」
カディがぶっきらぼうに声をかけてくる。これはあれですね、角争いに負けたんですね?
「嬢ちゃん、俺たちの分も食料確保してくれたんだって?」
なんだかデッカい体を小さく見せようとしているのか妙な格好でバルグが聞いてくる。笑おうとして引きつってて余計怖い顔になってる、子供が泣くぞ。
「たくさん作ったんでどうぞ分けて〜」
俺は怖くないけどね。
燻製と塩漬け肉、ついでに蜂蜜の配分は案内人同士で決めてお金をいただきました。相場よりお高めですよ!
次に鉱石や湧水石の交渉。こっちは急いで必要なものじゃないし、買い取ってもらえなかったら置いてくしかないんでお安め。なかなかシビアです。
ノアールの痕跡があるので特に疑われることなく受け入れられた模様。
「それにしても案内人は知識、地図、魔法鞄だと思っていたんですが、これはこの手の土魔法持ちが条件にはいるかもしれませんな」
「いや、このままにしていただければありがたい」
「ここは広く作ってもらいましたが、他はパーティーが被ったら争いになりそうですよ」
パルムとバルグのところの案内人が話し合っている。ショートカットな階段ができることだし、新しい地図も冒険者に売れそうだけど、この拠点の場所も売れそう。お金持ちですよ、お金持ち。
その後の道中は順調。十三層は俺たちが倒した後だし、十二層から上は敵の復活もまばらだ。浅い層は復活が早いみたいなんだけど、メンツがメンツ。バルグとカディ、ハティが競うように倒してって他の人の出番がなかった。
口舌での応酬はあったものの、高位の冒険者らしく迷宮内で喧嘩なんて事態はなかった。
「わーい!!」
ミナのお胸から飛び降りて外に飛び出す俺。久しぶりの空!
ようやく外だ! ようやくお風呂だ! 迷宮の心残りは爆炎の魔女さんのマシュマロお胸にダイブできなかったことか。
「ようやくテメェのツラ見なくて済むぜ」
「少々どころでなく暑苦しかったですね」
「こっちのセリフだ。すかし野郎ども」
カディ、ハティ、バルグ。
「お二人とも、ロゼさんが汚い言葉を覚えますので離れてやってください」
ファレルが注意すると三人が黙る、特にハティはバツが悪そう。別にそのくらいの暴言とかイヤミは気にしませんよ、俺に向いてるわけじゃないしね。道中もっと汚い言葉使ってたけど。
「あんた、強くなったねぇ」
「さすがに気後れしてられませんし。ロゼさんを持ち出せば大体収まりますしね」
ミナが感心すれば、ファレルが答える。
レッサードラゴンは結局、亜種に手こずって一旦撤退したバルグのパーティーに合流して一緒に倒したんだって。角を折ったのがバルグ、倒してから安全に折るつもりだった二人と、先ず角を折ったバルグの間で諍いがあったみたい。
「ロゼ嬢ちゃん」
そのバルグが声を落として話しかけてくる。地声が大きいのか、威圧するように話すんだけど俺に対してはこうだ。
「うん?」
依頼が角なら角だけとって逃げるのもアリだし、機転が効いていいじゃない。何より俺が出し抜かれた側じゃないから特に気にしません。
「約束のお土産だ」
俺の手の中にキラキラしたものが落とされる。
おお?
「ちょ、お前それ!」
「
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