第32話 状況
ヒルが集まって来ても困るので、後から通るだろうハンターの邪魔にならないように、ミナの記憶を頼りに脇道にそれてブートの血抜きと解体をする。
さらに一匹狩ったので二匹の巨体をストーンウォールの上に吊り下げて血抜きした後、三人がかりで解体。
二匹一度に手が回らないのもあって、一匹は迷宮内で分解が早まるのを利用して氷の上に置いて熟成。すぐ食べる用にする。普通、獲ったばかりの肉は固いのだ。
一匹目が終わり、休憩を挟んで二匹目にとりかかる。
「汚れたね」
解体したブートを部位ごとに袋に詰めながらミナが言う。
ファレルは手が速いのにあまり汚れていないのだが、俺とミナは肘のあたりまで脂と血で汚れている。狩るより解体の方がはるかに時間も手間もかかった。
階段側の野営地に戻って鍋に【ウォータ】で水を張って湯を沸かす。その隣でスープ用のお湯も。
「もう少し蜘蛛を狩るべきか」
「いえ、殻を乾かす手間がありますし」
「ここじゃデカイ石ないしね、また戻るのも手間だ。まあこの脂さえ落ちればね。ふんだんに水を使えるのだって贅沢だよ」
汚れをできるだけ落として食事の準備。だって他にやることないしね。
本日はシンプルに塩胡椒をまぶして、ラードを溶かしてロースを焼く。火力が一定じゃないので少々難しい。スープは豆、そこにあの硬いパンを半分に切って入れて、チーズを少々削り入れる。
「どうぞ。塩が足らなければ足してくれ」
「ありがとうございます、本来僕の仕事なんですが」
「うまそうだね」
こっちの世界の味付け、ソーセージとかベーコンとかのしょっぱさが基準になってるらしくて俺にはきついのだ。基本何か加工してから食べるらしく、生野菜を食べる習慣もあまりないらしい。その前にカバラでは野菜はつくられてないっぽいけど。
やっぱり温かいご飯はいいなあ。箱庭に戻ったらご飯で餃子が食べたい。……戻ったら?
ゲームでダンジョンからどうやってもどってた? アイテムと魔法じゃなかったか? アイテムはともかく、魔法はいつだ? 二つ目のダンジョンに進んだくらいだからレベル20、レベル20でダンジョン入り口に戻る魔法を覚える!
ここまで来るのに上がったから今ロゼのレベルは17か? あと三つ! 食材も楽に持って帰れる。
そういうわけで後どれくらいで上がるのか確認するためにロゼになりました、ご飯だし。まずはご飯だよね?
ノアールで切り分けたお肉をもぐっと、ちょっと固めだけどおいしい。スープも豆も柔らかくて、溶けかけたチーズが絡むのがまたいい。
敵が来ると面倒なので【ストーンウォール】で階段の壁と洞窟の壁の間を塞いじゃった。上は抜けてるけど、壁で囲まれた空間は石が焚き火の熱を反射して温かい。
お腹がいっぱいになったら眠くなりました。ミナに抱っこされて背中をぽんぽんされてます。安全空間作ったおかげで皮鎧なしのお胸ですよ! でもぽんぽんは力が抜けるからやめてください。ステータス見なきゃいけないんですよ。
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ロゼ=フジヅキ
存在レベル17(魔素*267/1700)
生命*80/91 魔力*312/367
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不本意ながら蛾をたくさん倒したおかげで上がってます。蜘蛛より魔素は少なめだったけど、数がすごかった。百匹以上は倒したんじゃないかな? 嫌だけど三百匹くらい倒せば戻れるようになるのか。
魔素をたくさんもらえるブートよりも時間的にはたくさん出る蛾のほうが効率よさそう。
「ん?」
階段を踏む音がする。さっきまで何の気配もしなかったのに突然人の気配が現れた。あれか、迷宮は繋がってると見せかけて階層ごとに違う空間だったりする?
「なんでここにいんだよ」
階段の途中からこっちを見下ろしてカディが不機嫌そうに聞いてくる。
「鳴動の落盤で一緒に十五層まで落とされたんだよ」
ミナが俺を抱いているのに器用に肩をすくめていう。
「十五層まで開いたんですか? それはすごい」
「よく無事でしたね」
パルムとハティが言う。階段が渋滞してますよ。
「とりあえず降りてきちゃどうだい? あんたらもここで野営の予定だったんだろ?」
ミナの誘いに次々に階段から飛び降りてくる。ぎゅうぎゅうですよ、ぎゅうぎゅう。
「こりゃいいな、ゆっくり眠れそうだ」
斥候さんが中を見回して言う。
こんなとこで安眠できるのすごいな。迷宮内の夜は休むと言っても敵を警戒していつでも起きられるよう緊張を強いられるのだろう。
「火をお借りしてもいいですかな?」
「どうぞ」
ファレルが返事をするとパルムが手早く薪を足し、湯を沸かし始める。
「この緊張感のかけらもなくひっついてんのも怪我してる様子はねぇな」
べりってされて上から下まで見られました。ひどい! 俺の安住の地!
あー。思い出しちゃったよ、くそ! この二人は無事じゃなかったんだよ。俺が無事だったのは石に挟まれる前にミナが投げてくれたからだ。
「二人が守ってくれた」
またべそべそしそうになりながら答える。
「助けられたのはこっちだよ。ほら」
ミナが手を広げてお胸にウェルカムしてる!
「少々お待ちください」
「ん?」
カディにぎゅっとしてから、ミナのお胸にもどる。
「あ、てめっ! 拭きやがったな!?」
鼻水をミナのお胸につけるわけにはいかないんですよ。
「まあ、まあ」
笑いながらファレルが手拭きをカディに差し出す。
「この【ストーンウォール】は出してる最中、魔力は消費せんのか?」
「はい、この付近の石を使っていますから。そばに相当量の石があることが発動条件です。ただ、出す時の魔力消費は少々多いですが……」
ファレルが魔法使いその一に説明をしている。
私が出したことがバレると面倒そうなので、ファレルが出したことになっている。実際一枚はファレルが出してるしね。ちなみにブートの血抜き用に作りました。
「消えない【ストーンウォール】か……」
「むう、ワシが土の属性を持っていたらぜひ覚えたいところだ」
「魔力の消費は抑えたいところですが、安全に休めるのならばそれだけ回復も早いですからな」
どうやら好評な模様、帰ったら魔法陣売り出すかな。
カディたちが食事を済ませ、お茶を飲みながら話し合っている、中心は案内人のパルムだ。
「三層は崩れているでしょうけれど、どんなに大規模に崩れても一週間もあれば元どおりです。ギルドが地上階段を設けるより早いですよ」
そうか、迷宮って戻るんだった。
「ただ、十三層が地上階段の範囲とルートがかぶっていますね。他のルートを探さないと我々も戻れません。十三層以降は探索が進んでおらず、今回進んで来たもの以外地図がない」
喜んだのもつかの間、道が潰れていることが発覚。ちょっと覚悟してたし、今は人が多くなったから冷静でいられるけどね。
「十三層は土トカゲ、マスズか。キヘラは滅多に姿を見せないね」
「キヘラに出会えれば薪が補充できるんですが」
「この場所の奥で多く目撃されています、生息域がルートとずれている可能性が高いですな」
十五層から上の地図を見せてもらう代わりに、十三層の探索を俺たちで進めておくことになった。落ち合う地点を三箇所ほど決めて細かい打ち合わせをパルムとファレルでして、そこにミナも実際に通ったことがあるので参加している。
三人の話を聞きながら他は情報を頭に入れつつ推移を見守っている感じ。ハティとカディは近くで見てるけど地図はお高いものなので、見せてもらうのは通常別途料金なので魔法使いさんたちと斥候さんは話だけ聞いてる。
俺は打ち合わせが始まったらべりっとされてカディに拘束されてますよ。地図も覗けるポジションなのでおとなしくしてるけど。
ハティもカディも口数が少ない、他のみんなも同じだ。十三層の足を踏み入れてないルートが上に繋がってるとは限らないもんね。とりあえずいざとなったら蛾を二日やればお外には行けそうなんでちょっと安心です。
もう眠いんですよ、今日は蛾相手によく働いたし。
「幼子にこの状況を理解しろというのは酷ですね」
「泣かれるよりいいだろ」
「平和で何よりですな」
脚派と尻派とパルムの声がする。
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