第31話 野営地の選定

 そういうわけで幼女です。

 鱗粉地帯を抜けるまでは幼女ですよ。


 魔物には力は強くないけれどトカゲのように飛沫が厄介な敵や、蛾のように数が厄介な敵がいるのがわかった。


「カディとハティが魔法使い探すはずだね、魔法便利」

蛾は次々来るけど、同じ方向に綺麗に並んでるわけじゃないし、二、三匹倒してもすぐに次がくる。範囲欲しいよ、範囲。でも剣で倒すより断然いい。あれ、剣の範囲攻撃ってこっちでもできるのかな? 乱れ斬りとか。


 ゲームの時はくらっても終了後に毒消しとか使えばいいや、ってしてたけど現実じゃ無理ですね!


「ええ。ですが、ここより下はタフな敵が多くなります。普通は倒しきる前に魔力が尽きる危険性があるんです」

「そんなに連発できるヤツも少ないだろ?」

普通じゃなくてすみません。でも倒すまえに距離を詰められたらアウトだとは思うし、ロゼより速い敵はたくさんいると思う。


 あんまり目立つのも何だし、ロゼの時はある程度ミナに任せよう。回復は人前で使わない方がいいと釘刺されたしね。一回こっちの普通の魔法が見たいな。


「十一層でメールから肉が得られます。ホロルには余裕がありますし焦らず行きましょう」

「了解」


 地図はないけど、分布する魔物は覚えてるファレル。メールはミナと食べたソーセージだね、十一層なんだ。


「次の角に多分トカゲ」

灯りをつけていると寄ってくるので、暗い中を慎重に進む。蛾が多いと思ったら今度はトカゲと蜘蛛がまた……。餌か、餌なのか? 


 ファレルに聞いたら蛾は集団で襲ってあのでかい蜘蛛を食べることもあるけど、単体ではトカゲと蜘蛛に食われる存在のようだ。


 十五層は上の層と比べて大分広い。


「敵の出も落ち着いたね、そろそろ昼にしようか」

「そうですね」

ホッとした声でミナに答えるファレル。


「あ。階段」

下りだけど。


「あー、この辺見覚えあるね。下に降りる当たりルートだ」

「なるほど、この辺りは多少なりともハンターが通るから敵が少ないんですね」

十五層は広くって、十六層に降りる階段は確認されただけで二つ。一つは十七層につながる階段がなく、それ以上下に降りられない。さらに下に降りるならこちらが当たりだ。


「亜種と対面した時はあっちから来たんだけど、道を正確に覚えてる自信はないね」

ミナが別の道の方を向いて腕を組む。顔はみえないけど、きっと覚えていない自分にしかめっ面をしているに違いない。


「ここでカディモンド殿とハティ殿の一行を待ちませんか? むやみに彷徨うよりパルム殿の持っている地図を見せていただいた方がいい」

「そうだね、階段付近は比較的魔物が寄ってこないし。いざとなったら、十六層にはブートがいるしね」

「保存食節約のためにいざとならなくても手に入れたいところです」

ファレルが笑って言う。


あてもなく彷徨っていたのが、なんとなく道が見えてきた感じでみんな明るい。二人とも口にはしないけど、道が崩れて途切れてる可能性もある。


でも自由に動けて選択肢があるのは嬉しい。いざとなったら本当に階段ができるまでここで狩りを続ければ確実に出られる。


 お昼!

 蛾が来るので火は焚かないままホロルの塩辛い干し肉もどきを食べる。嬉しくない。


「ブートはどんな魔物?」

心のオアシス、ナッツをもぐもぐしながら聞く。


「豚に似ていますが肩のあたりが発達し、前足が二対、後ろ足と合わせて六本あり、牙も鋭いです」

「危険なのは最初の突進、攻撃は単調だけど体力もあるし固い敵さ。うまいぞ」

「ぜひ狩ろう」

豚きた! 豚肉きた!


「いいけど、一匹だけだぞ。一匹潰した後はきっと手入れしないと剣が使えなくなってる」

「大きいそうですし、一匹で十分でしょう?」

二、三匹欲しい気がするけど、持ち帰れないししょうがない。……いや、氷出して詰めとけばいけるんじゃないかな?


「少々お待ちください。蛾の退治お願いします」

氷魔法はあるんですよ。ただ、攻撃用なだけで。


「魔法陣ですか……。今度は何を……?」

ファレルがちょっと疲れた声だ、あとで蜂蜜でも勧めよう。


 さすがに字を書くには暗いので、ランプを出してギルドで買ったガイド本(詳細版)を机代わりに魔法陣を描く。作るのはキューブアイス、量と大きさは魔力による。


「よし、準備オッケーです」

試しに二つ三つ出してみる。


 うん、いいかんじ。蜂蜜を運ぶ袋は防水だ、そこに氷と肉を入れて持ち帰ろう、そうしよう。ん? ホロルもそうすれば良かったかな? まあいいや。


「食材を集める気満々だな」

「そのために魔法を創造するんですか。しかもあっという間に」


「まあ、いっそ下で待ったほうがいいかもな。ここは蛾がうっとおしい」

ランプの灯りに寄ってきた蛾を斬り払ってミナが言う。


 鱗粉をばふんとする前に素早く処理しているけれど、やっぱり斬った衝撃でパラパラと鱗粉が落ち、飛びのいても少しかかってしまうようだ。鱗粉は麻痺薬の材料なんで売れるらしいんだけど。


 食材になる魔物を狩るのに、毒だと食べられなくなっちゃうけど、麻痺なら食べられるし弓職に人気なんだって。あと普通に怪我を縫う時とか治療する時に使うみたい。


 階段を降りて十六層へ。階段のすぐ横を野営の場所と定める、通路は階段の前方に伸びた一箇所しかないし他より安全。いざとなったら上の階に逃げられるしね。


 先人たちもここで野営をしたらしく地面の凹凸が他より少ないし、石も退けてある。


「鳴動でてこずってなけりゃ、夜には合流できるんじゃないかな」

案内人のパルムも前回ここを野営地に選んだんだそうだ。


「他に出る敵は?」

「ヒルワーム、赤斑ら蛙でしょうか。進むと他の敵も出ますが、階段周辺はブートを含めてその三種です。ワームも蛙も色を擬態するので注意してください」

「ワームは気づきさえすれば大丈夫、天井にもいるぞ。蛙は最初の舌の攻撃をよければ何とでもなるかな」

問えば欲しい情報が返ってくる。ファレルが把握しやすく大枠を答えて、ミナが実践的なことをアドバイスしてくれる感じだ。


「了解」

ノアールになって気配を探る、壁の高いところに一匹。気配はあるがどこにいるか目視ではわからない。


 適当な小石を拾って気配に向けて投げると、岩壁にあたる固い音ではなく鈍い音がした。ぽろっと壁から何かが落ちて来た、どうやら形状から言ってヒルワームなのだろう。蛙にも豚にも見えない。


 緑がかった体液をたらしながらうねうねと動く二十センチくらいのそれを斬って終了。ファレルに詳しい話を聞くと、ヒルワームは蛭であるらしく気づかぬまま吸い付かれるのが厄介なだけで強くはないようだ。


 ただ、返しのついた牙を突き立てられるため肌に大穴があくうえ、麻痺と血液を固まらないようにする毒液を流し込まれ、張り付かれた場所によって結構危険なんだそうだ。


「結構多いな」

「血を吸うと七日くらいで子を産むそうです。レッサードラゴン討伐で人がたくさん来たはずですからね」

吸われたのか。


 小石を投げては斬る作業。


「下の方の敵に投擲からか。慎重だね」

などとミナにいわれたが、目視で見分けがつかんので間違えて剣で石をガリッとしちゃわないようにです。ぶつけるとうねり始めるのでさすがにわかるのだ。


 【気配探索】に磨きをかけたら、この小さいのも気配だけで両断できるようになるだろうか? 近ければ修行項目にいれたいところ。十六層ここ遠いけど。


「ブートが来るよ!」

【気配探索】で認識する前に、地を蹴る音がわずかに聞こえミナが低く叫ぶ。


 すごい勢いで走ってくる黒い塊。

 慌ててロゼに変わって魔法を放つ。


「【アイスランス】と、……【ストーンウォール】!」

【アイスランス】を二発撃つつもりだったけど、額に刺さったアイスランスを物ともせずそのままの勢いで突進してきたので【ストーンウォール】で慌てて防御。ノアールに変わって体勢を整える時間を稼ぐ。


 壁が砕けた。


「……ん?」

「あれ?」

「……貫通してますね」


 浅く刺さっていたはずの【アイスランス】が頭を貫通して、ブートが腹をついてピクピクしてる。どうやら、壁に当たって押し込まれたようだ。


「……」

無言でとどめを刺す俺。




 











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