第29話 準備

 石をどけて自分の荷物をミナが掘り出している。


 ここに留まらず、出口を探して移動することにしたが、その前に準備だ。荷物の確認、特に食料と武器。


「ファレル、その剣貸してくれるかい? 借り物だってのにダメにしちまった」

舌打ちしながら歪んだ剣を見るミナ、手に持った剣は鞘が割れて中身ごと曲がっている。


「どうぞ」

「悪いね」

「僕が持っていてもあまり役に立てられませんから」

テキパキと身支度をしていく二人。ファレルは俺が切った荷物の背負い紐を取り出した太い針と糸でつないでいる。


「肉は半分捨てるか? 保存食にできるほど塩も燃料もない。ファレル、上の階層で何か燃料になるもん出るかい?」

「アラクネの足なら乾けば燃えますが、すぐにとは。他もやはり乾けば、と条件がついてしまいます」


「うーん、十五層から十層まで手探りで進むとどれくらいかかるかな?」

「地上までのルートが無事ならいいですが、途中道が塞がっている可能性もあります。食料は欲しいですね」


「これでいいんじゃないのか?」

ミナとファレルのやりとりを聞いて、ロゼに変わって大岩の下あたりに何発か【ファイア】を打ち込む。


 下の石はいくつかヒビが入って崩れたが、気にしない。燃えるものがないし、着弾と同時に消えてしまうので一発でどうこうはできないが、やがて崩れた石が燃える石炭のように所々赤く色づく。


「魔物が集まってくるかもしれないけど、幸い通路が狭い。一匹ずつなら何とかなる。これに俺がさっき狩ったアラクネの足を突っ込んでおけば乾くんじゃないか? 解体を手伝ってくれ。塩は俺も持ってるから」

ノアールに戻って二人に頼む。


「承知しました……」

あっけにとられていたファレルが答え立ち上がる。


「ロゼに無茶をさせると、私が後で保護者に怒られるんだけどね。まあ、落ちたのは奴らのせいって言い返せばいいか……」

なんだか色々納得がいかないみたいな二人だが、色々飲み込んで行動することにしたようだ。


 魔法は威力も大きいけど音も大きい。外すと壁や地面に振動が伝わって魔物が集まってくることがある。


 そう注意されてたんだけど背に腹は変えられない。それに迷宮振動が起きたばかりだから、魔物の興味を引かずにすむかもという希望的観測。


「アラクネの爪、もらうよ」

「ああ、どうぞ」

ミナは爪が欲しいようだ。


 アラクネを二体解体して運ぶ。アラクネの素材は爪と毒、キャタピーと同じく糸腺だそうだ。キャタピーの物を廃棄してアラクネの方を回収する、毒は今回はパス。


 解体後、ファレルはホロルを加工する作業。外では塩水につけて作るらしいが、迷宮の中でそんな悠長なことは言っていられない。

 切って薄く延ばして塩を振って、重石を乗せて水分を抜く。その後、熱くなった平たい岩に乗せてさらに水分を飛ばして白いジャーキーっぽいものを作っていく。


「アラクネいらないんじゃないのか?」

「道中、冷たい食事は士気が下がります。ちょうどあるものですし、燃料を作っておくに越したことはないでしょう」

「崩れる前に準備終えたいね」

ミナがため息をつく。


「大丈夫ですよ、揺れてから崩れるまで少し間がありますから」

ファレルが笑って言う。


 いざという時、肝が座ってるのはファレルの方なんだな、と思いながらアラクネを運びに戻る。


 夕食はお湯を沸かせて粉末スープを溶いたもの、ホロルの石焼。保存用の硬いパン。買い物の時に迷宮は何があるかわからないから潜る予定日数より多めに食料を持っていくものだと教えられた。大変有用な知恵だけど、今回の場合それでも足りない。


「変わった食べ方ですね」

「ロゼの分だ。固すぎて食えないから」

パンの外側だけ食べてたらファレルに見咎められた。上品とは言えないが仕方がない、スープに入れても外側の皮はロゼには硬い。


「なるほど」

そう言ってミナが真ん中をちぎってくれた、ファレルも。


「ありがとう、代わりにこれをやろう。今のうちに分けておいたほうがいいな」

荷物から袋をいくつか取り出す。中にはチーズ、干した果物、炒り豆、小麦粉、スープになる粉。塩、乾燥ハーブ、少量の胡椒。


「なんでこんな大量に……」

すみません、鞄の容量が多くなったのが面白くてたくさん詰めました。たくさんと言っても三人で分ければ五日分程度、それでも食事にバリエーションが出るのはうれしい。干し肉は味があれだったので自分で作ろうと思って買わなかったのが悔やまれる。


「さて、ロゼに変わる」

食べて少し落ち着いたし、たぶん大丈夫。ご飯は偉大だね。


大丈夫じゃなかった。


鼻水をすすりながらご飯を食べるハメに。何でこんなに涙腺が緩いんだ、この体。


「うー」

食事を終えた後、ミナに抱っこされて、ファレルがくれた赤い実を入れて蜂蜜を溶かした飲み物を飲んでいる。泣いたのが恥ずかしくて唸っている次第。


 だって怖かったんですよ! ミナとファレルが死んじゃうのも、真っ暗な中で一人になっちゃうのも。純粋に二人に助かって欲しい気持ちと、人が死ぬのを見たくない、一人にされるのが嫌な利己的な気持ちでぐちゃぐちゃだったんだけど、共通してたのは「怖い」だった。


 その「怖い」なら魔物と対峙する怖さの方がマシだったんだけど、そっちもやっぱり怖かったんですよ!


 聞いたらアラクネは体にある方の口から糸が出て、攻撃するのに正面から行ったらアウトだって。普通、蜘蛛の糸ってお尻側からだよね? 焼いといてよかった、絡め取られてたら死ぬとこでした。


 聞いたときに嫌な汗と涙が出たんですよ、堪え性のないこの体。ミナもファレルもいろいろ聞きたそうだったけど、俺がまたぐずったので終了。

 貰った飲み物は温かくって濃いレモネードみたいな味だ。ビタミン補給かな? 航海の時に壊血病予防にライム持ってくんだっけ? 後で俺も買っておこう。


 ファレルとミナは赤い実をそのまま口に入れている。酸っぱそう。


「落ち着いたら、先に寝てください」

「ああ、あとで交代する」

すみませんね、落ち着かなくて。


 今日は添い寝してくれる様子。記憶がないんで推定ですけど、高校男子なんですけど大丈夫ですか? たぶんノアールくらいか、ちょっと上ですよ? 来るお胸は拒みませんので言いませんけれども。

 

 お胸と食べ物でおとなしくなると思ってるんじゃないよね? 


 いつ寝たのかわからないまま意識を失って、トイレに行きたくなって目覚めた現在。今度はファレルが隣に寝てました、これが噂の起きたら隣に知らない男が……知ってますけどね。お酒も飲んでないし。


「なんだ起きたのか」

「トイレ」

小声で訊いてくるミナに答えて、部屋の隅の暗がりへ失敬させていただきます。一応【軽量化】をかけた石を積んで目隠ししてますよ。


 ついでにノアールも済ませて、さて困った、手が洗えない。ロゼの【ウォータ】だけでも使えないものか。とりあえず濡らした布巾で拭って終了。


「代わるぞ」

「そっちでは寝ないのかい?」

「ロゼが表にいる間は休んでいる状態なんで問題ない」

生命も魔力も全回復してます、魔力は最初から一桁だけど。どうもロゼの体は睡眠時間を多めに取らないとダメっぽい、というか暗いと眠くなるみたい? ノアールは平気だけど。


「ふーん」

「なんだ?」

「添い寝してほしかったんだけど」


 ――フリーズ中。しばらくお待ちください――


















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