第26話 計画
昨夜はあーでもない、こーでもないと考えて箱庭の地図に色々書いてた。
風呂の場所、トイレの問題。
トイレは穴はダメなことがわかったし、広範囲に作物を作るなら川に流すのもどうだろう? 肥料にするにはどっかに貯めといて発酵させないと。発酵しきれば臭わないけど、それまで臭うしちょっと抵抗がある。何より管理が面倒だ、やっぱり作物を回避するルートで専用の川作るか。
風呂はお湯――温泉が出せるから雨の日を考えて半露天の掛け流しにしよう。建物にくっつけて北側かな。こっちに来て食料の保存場所が家の大部分を占めることがわかったし、建物自体も少し考えよう。
田んぼはちょっと段々畑に憧れる。一面水田! ってのもいいけどそんなに食べきれないし。お米はなんと品種ごとに入ってたんで、多少失敗しても大丈夫! 違うやつ近くに植えると交配しちゃうから注意しよう。もち米も欲しいなー。
田植えは春だから、作る予定の場所じゃもう少し先かな? 田んぼだけ作っておいて畔には蓬とか蓮華を植えると良いかもしれない。――蓮華とかたんぽぽとか椿とか、食えるものカテゴリに入れられててびっくりだが。フォルダにあったってことは食えるってことだよね?
竹とか笹もあるけど、これは増えすぎないように何かで囲ったほうがいいかな?
サツマイモ、ジャガイモ、玉葱あたりは保存がきくし多めに植えよう。ポテトチップスが食べたい!
植物油用に紅花かオリーブか。菜種油とかグレープオイルもあるんだっけ? 葡萄ならそのまま食べるもよし、ワインにするもよしでいいんじゃないかな?
俺にこんな知識あったかな? とうことも思い浮かぶ。ノアールのスキルのせいなのか、それとも特別な思い出がなくなったせいで、逆に普通は覚えていないような細かいことを思い出せるのか。両方かな?
夢は尽きないけど、魔素貯めなきゃね。
そういうわけで真面目に迷宮です。十五になったし少し箱庭の手入れや食事に回してもいいかな、と。
「カディたちはどこまで行ったかな?」
自分たちのいる六層は、なんかネズミとダンゴムシみたいなのがいて、時々蛇が出る。ネズミが一番素早いんだけど、蛇は油断してると天井から落ちてくるので注意。
【気配探索】かけてるから、俺には場所のわかる蛇よりネズミのほうが怖い。蛇は獲物が近くまでじっとしてて、そばに寄ってからジャンプとか攻撃を仕掛けてくる。なので蛇の攻撃範囲に入る前に【ウィンド】でスパッと。
ネズミは群れで遭遇することが多くて、しかもけっこう素早い。やっぱり範囲魔法ほしいな〜。
「二十層までは早けりゃ八日でつくか。面倒なのにあたらなきゃ、今日中に十六層くらいまでは行ってそうだ」
「ハティ殿とカディモンド殿ですからね。その後は正確な地図がないから手探りですか」
ミナがカディとハティの進行速度を予測する。ファレルの言葉からすると、その予測はだいぶ進行早いみたい?
「地図ないの?」
「十五層以降は各層の完全な地図はまだないですね」
いろんな人が行ってるはずなのに、と思って聞いたらどうやら部分的にはあるみたい?
「パルムがいるから下に降りるアテなく彷徨うことはないだろうけど、何せ下に行くほど敵が強いし広いからね」
ああ、もしかしたら近道があるかもしれないけど分かってる道で行くんだ? 目的が探索とかならともかく、レッサードラゴンって決まってるから、さらに遠回りかもしれない不確定な道なんて行かないか。
「ま、毒持ちとかいやらしい敵を避けて違う道に逸れることもあるけどね」
ミナが肩をすくめて言う。
「深い階層は、なかなか予定通りには行きませんよ」
「なるほど」
地下で迷子はやだな〜と思いながら二人に相槌をうつ。
やっぱり【水】じゃなくってマッピングかなんかもらえば良かったかな。箱庭に飲める井戸あるんだもん、トイレないけど。
ダンゴムシは普通はあんまり早くない。だけど、まるまると私くらいの高さがあって、それが高速で転がってくる。たぶん当たったら少なくとも私は吹っ飛ぶ。そして柔らかいところが隠されたお腹だけ。
今日は蜂、ホロルを
そういえば、四層の天井の穴はだいたい十日から十五日で塞がるんだって。
迷宮振動で起きた特定の崩落以外、層をまたぐ穴はみんな戻っちゃうから、適当なとこに階段作るとかはできないみたい。
で、六層はソロだとノアールはともかく、ロゼはキツイ。ソロでも大丈夫と思えるまでは、おさらいの意味もあって四層から始めて、一日で帰れる範囲で動くつもり。五層から六層への移動は階段までの距離が短めなんで七層までは行けると思う。
足が遅いのはともかく、特に複数の敵への対応が直ぐにできない。ノアールだと弱点を探して斬る一択だけどロゼは違う。
ゲームならとりあえず、攻撃力が高い魔法を放つんだけど、現実は攻撃力より速さや付随する効果を考えなきゃならない。
きっと魔法使いといいつつ、力押しプレイしてた弊害ですね!
「【ファイアウォール】」
ダンゴムシがこっちに向かってきたら防御を兼ねてウォールを張るお仕事です。
ゲームだとすぐに破って突破してくる敵もいたから、格上な敵とか属性の相性とか用心しないといけないけど。
ダンゴムシは【ファイアウォール】に当たると、ただでさえ触ってる間は火のダメージを食らうのに、しばらくその場で空回り続けてそのうち燃焼の状態異常というか、普通に燃えだす。
「【火魔法】……全属性使えるんですね」
ファレルが遠い目をしてるけど、【闇魔法】は習得前だし【光魔法】はお披露目してないよ?
「なんで【ファイアウォール】でタイルーが止まってんだい?」
タイルーがダンゴムシの正式名称です、ダンゴムシにしか見えないけど。
「ウォールだから?」
「ストーンウォールならわかりますが、なぜ火を通過できないんでしょう?」
「ファイアウォールっていったら、火を恐れる敵をはばむもんだと思ってたんだけどね」
ウォールは文字通り物理的に壁の役割をする魔法だと思ってたけど、どうやら違うらしい。こっちは形が壁なだけなのかな?
改めて聞かれると、何で火の中を進めないか謎だね!
ゴロンと足を上に向けて体を開くダンゴムシ。ぷすぷすいってるところにミナが止めを刺す。
「腹側は柔らかい、ぐさっとやってちょっと切っ先を持ち上げるようにして空気を入れてやるんだ」
片足でダンゴムシが丸まらないように踏みつけ、実践してみせるミナ。
ダンゴムシの素材は甲殻なんだけど、焼いちゃったから値が下がる。もっともかさばるから、採取してないんだけど。
ネズミは肉と皮が素材、肉は食べたくないし、皮も蛇ほど値がつかない。六層は蛇の皮と牙、蛇肉を集めてる次第。蛇肉は滋養強壮ですってよ、奥さん。
「ファレル、強壮だって。夜のおともに食べる?」
「何を言ってるんですか、食べません。どこで覚えて来たんですか!」
赤くなって強く否定するファレル。
「夜のおともとしか言ってないのに、汚れた大人がいますよ」
「絶対、意味わかってるでしょう!?」
「脚派はムッツリさん」
ファレルは脚派、聞き出した時に貴族階級は脚を出さないのが女性のたしなみなので~とかなんか言ってた。確かにドレスのイメージはスカートが長くてお胸は上半分出てる感じだね。
七層はここに来てスライムです、丸くないけど。一番先に出る敵じゃないのかこれ?
「六層より弱い?」
「そりゃ、魔法使いだったらな」
「物理が効きにくいんですよ。見つけるのも大変ですしね」
スライムは壁や天井に張り付いたり、不定形に形を変えて潜む。動く時に音もしないんで見つけにくい上に、キャタピーと違って襲ってくることも多い。
「上から突然落ちてきて、顔を覆われたら抜けるのは難しいしね。それにほら!」
ミナがスライムに斬りつける。ゲル状の体が両断されたけど、あっという間にくっついて元どおり。
「こんな風に体を斬っても意味がない。中の小さい黒いのが本体らしくってね」
そう言って今度はゲルの中に浮く、ビー玉みたいな丸いものを砕く。
動かなくなって、浜に打ち上げられたクラゲみたいになった。
「スライムのいいところは魔石持ちそうでないかがひと目でわかるところですかね? 素材としては粉にして薬の触媒に使われたりしますね。種類によっては粘度を保つよう加工して緩衝材にします。あと、毒性を持つスライムは死んでも素手で持たないでくださいね」
「はーい」
【気配探索】が一番チートなんだなこれ。
七層の敵はいろんなスライムだけだった。洞窟状の通路は上も下も横も、影になるところがたくさんあって、全部疑いながら確認してったら時間がかかるんじゃないかな?
「本当になんでいるところが分かるんだ? 私だって気がつくのに少し時間がかかるよ」
「なんとなく」
ミナも気配は探れるようだが、俺ほど早くない。ファレスに至っては蛇はなんとか、スライムの気配を探るのは無理とのことだ。でも潜みやすい地形やなにやらの知識で、ある程度警戒すべき場所を割り出してる感じ。
二人と比べるとスキル頼りがちょっと申し訳なるんだけど、安全第一なので【気配探索】を切る気はない。
「おい、揺れてないか?」
「迷宮振動……。急いで外へ!」
ミナが俺のことを抱えてファレルについてダッシュ。
「地上階段へ」
走りながらファレルが告げる。
各層の階段が隣接し、地上から一気に降りられ、登れる階段は地上階段と言われる。それに対し、迷宮振動で地上階段ができる前からあった階段は旧階段と呼ばれる。
「地上階段のほうは崩れるんじゃないの?」
また穴が空いてショートカットできる階層が多くなるゲーム的認識だけど。
「三階が広範囲で崩れます! 他にも戦闘などで弱っている場所が。確実に安全なところはないんです」
あああああ、蜂の開けた穴か! 埋まっちゃったら十日以上帰れない?
物理的に揺れてるから弱ったところは普通に危ないようです、ピンチ! 崩落は階段用の穴だけかと思って余裕かましてたよ!
「比較的階段の上は安全だよ」
ミナが教えてくれる。
「見えました!」
ファレルの声に階段をみつけ、安堵したところで今までで一番大きな揺れが起こった。
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