第23話 しばしの別れ
速報! カディの派閥はお尻!
「また新たな派閥が生まれてしまった……」
「いや、尻は男でも女でも一般的だろ?」
今度はミナから肯定的意見。
「え?」
まさかのミナも尻派? 俺も尻鍛えた方がいい?
「参考までに男はどんなお尻がいい?」
「この中ならカディモンドかハティじゃないか?」
なんかミナが悪い顔して笑いながら教えてくれた。
「見なくていいし、触るなよ?」
ごそごそ動いたらカディに先に止められた。また小脇に横向に抱えられるスタイルに戻されましたよ。おのれ、減るもんじゃなし。
「ミナ殿……」
困ったようなちょっと低い声でハティがミナの名前を呼ぶと、それを合図に笑い出すミナ。
そんなこんなで迷宮の入り口に到着、ここからは別行動だ。
「そうだ、これ」
ポケットから傷薬を取り出す。
「何だ?」
「傷薬、カディとハティに。お守り代わり」
薄い皮の包みをそれぞれに渡す。幼女の手のひらには大きいけれど、二人の手には納まってしまうくらい小さい。まあ、気は心だ。
「ありがとうございます」
「おう、土産に鱗でも持ってくる」
「いってらしゃい。他の人たちも気をつけて」
ハティが笑顔で、カディが乱暴に頭を撫でてから迷宮に消えてゆくのを見送る。
なるほど、きゅっと上がって尻えくぼがあるのがいいんだな? カディはコートで見えないけど。どうやって鍛えるんだろ?
「さて、私たちも行くかい?」
ミナが俺を抱きあげながら言う。
「おー」
今日は四層と五層ですよ!
四層は蜂の魔物の巣があって、蜂蜜が取れる。カバラの特産品なんだって。三層に植物の魔物がたくさんいて、そこで蜜を集めているって聞いた。
蜂は蜜を吸うだけじゃなくて魔物らしく命も吸って、蜂によって間引かれるから三層の魔物狩りは不要。
むしろ減っちゃうと蜂蜜の収穫が少なくて困るから、生えてるのが他の層に広がりそうな時だけ狩りの許可が降りる。三層は基本立ち入り禁止で、許可が出ても少人数なんだって。
移動が簡単にできる魔物とかは増えると出て来ちゃうから、まめに狩るの推奨だって聞いた。ついでに迷宮の特に上層は外より魔物の増える速度が早いそう。
「階段近いんだね」
二層に降りてきた階段と三層、四層に降りる階段が近い。
「迷宮の振動で崩落した場所に降りやすいように階段を作っているんですよ。揺れの中心に近いところが崩落したんでしょうね」
説明してくれるファレルに迷宮の振動が何かと聞けば、十年にいっぺんくらい迷宮が揺れて崩落が起こることがあるんだって。これはカバラの迷宮だけじゃなくて、他のダンジョン全部。
振動の原因は謎だけど、下に楽に降りられるようになって便利くらいにしか思われてないらしい。実際、七層までは下に降りる階段が近くて面倒な遠回りがいらなくて便利みたい。
今現在、俺はファレルに抱っこされている。重くないですか? お胸も段差もないですね、お胸あったら困るけど。
魔法は少し奥に行ってから使うよう言われているため、おとなしくミナの後について行く。
まだ三層では人に会っていないけれど念のため。蜂は朝に狩りをして蜜を溜め込むらしく、蜂蜜業者と呼ばれるハンターは普通のハンターよりちょっとだけ朝が遅い。
ハンターギルドでは商業ギルドを通して依頼があった、需要のある納品物についてその需要に見やった数だけ高く買い取る。その数を越えると普通の買取価格に落ちるだけなので損はしないんだけど、大半は早朝に張り出される買取品を確認して急いで迷宮に来るんだって。
価格はどれだけ依頼元が急いでいるかで変わるから、大して普段と変わらない場合もあるけど、準備して起きたからには迷宮にそのまま行く。そういうわけでハンターは朝が早いらしい。
七層以降になると、昼夜がわからないダンジョンで不思議なことに夜の時間になると現れる魔物がいるらしく、狩りの目的によっては時間調整が入る。カディとハティたちのパーティーが少々遅い時間に出発したのは、十一層で夜に出る面倒な敵を回避する時間を計算しているらしい。
その時間の管理や進行の調整も案内人の仕事のうちなんだって。俺たちがこの時間に来たのも、見送りもあったけどファレルがハンターの少ない時間を割り出してくれたから。
自分で声かけしてたのは時間の選択間違えてたのにね。どうも普段はおっとりしていて実生活でちょっと色々抜けてる感じなのに、ちゃんと考えて割り出す答えはベストなもの。不思議な人だ。
四層に入ってなんで大人数で三層に行っちゃダメなのかわかった。あちこち天井に穴が空いている。蜂の開けた穴だそうです、そのうち三層と四層くっつくんじゃないのこれ?
ミナは穴からこんにちはした蜂を一刀の元に倒してる。斬ってるというより、胴と頭を繋ぐ細いとこを折ってるかんじだけど。
蜂は脚に蜜球という蜜の入った球をつけていて、それを回収する。中で球が割れても蜜が漏れないように防水になってる革袋を持って来た。
球はなんか飴でできてるみたい? 薄っすら黄色い透明な球の中にトロリとした蜜が揺れるのはテンション上がるね!
「そろそろいい?」
【気配探索】に人が引っかからなくなりました。
「ああ、そうだな」
「あ、今回は歩きます」
ミナが剣を収めて抱き上げようとするのを断る。
蜂はこっちを向いてお尻を上げて針を飛ばしてくる。ミナの戦い方を見てたら、その時上体が上向くのでそこに一撃入れてた。
普通に飛んでると正面からは首にあたるつなぎ目が見えないからだと思う。多分ミナなら頭を両断することもできるんだろうけど、武器に負担かけないためかな? どっちにしてもそこが弱点なことは間違いなさそう。
俺は小さいから、角度的に狙いやすい。蜂は俺より背の高いミナやファレルに警戒して高さを保ってるし。無理そうなら頭を狙うけど、なるべくね。
蜂を見つけて近づく、蜂がこっちを見つけてガチガチと口を鳴らして威嚇音をたてる。お腹をこっちに向けて上体が反ったところで【ウィンド】。
うーん。ミナが戦っていたのを見ていたのと、蜂が攻撃前に威嚇してくるからタイミングが合わせられるけど、それがなかったらきついかな。
ノアールと違ってロゼは反射神経というか反応速度というかが遅い。認識してから魔法を発動させるまでちょっと間ができる。戦闘を繰り返したらなんとかなるかな?
「空間拡張持ってらっしゃいますものね。風属性使えても何らおかしくはないですよね。【ストーン】も制御できて、反発するはずの【ウィンド】も制御できるのもおかしくは……」
なんかファレルがぶつぶつ言ってる。でもぶつぶつ言いながらフラフラと落ちた蜂に近づいて、きっちり蜜を回収してる。
今回も魔石はスルー。一匹で飛んでるのは蜜を集める働き蜂がおもで、小鬼より魔石を持ってる可能性が少ない。
代わりに巣にいる女王蜂や、時々五、六匹の群で襲ってくる中に混じる兵隊蜂は持ってる可能性が上がるのでそっちが出たら確認する方向だ。ただし、女王蜂を含む蜂の巣は十日で一人一個まで。蜂蜜が取れなくなったら困るからね。
「兵隊蜂」
ファレルの言う通り他の蜂と違うのが一匹混じってる。一回り大きくて動きも早い、お口も凶悪。
「【ウィンドカッター】!」
【ウィンドボール】飛ばして二つ上の魔法。対象に当たると強さが四分の一づつ減るけど貫通属性があるよ! 狙った兵隊蜂の首をはね、後ろにいた働き蜂を一匹落とす。
む、威力の落ちたカッターでいけるなら、【ウィンド】でも働き蜂の頭を割れる? 一応一回は試しておこう。
「【ウィンドカッター】の制御も完璧……。込める魔力が多すぎることも少なすぎることもなく、暴発もないし不発もない」
やっぱりぶつぶつ言いながら、蜜球を回収して兵隊蜂を解体するファレル。
「ミナ〜、抱っこ」
そろそろ疲れてきたし、集中力が切れてきましたよ。狙った部位に当てる訓練はまた今度、がんがん倒してレベルを上げる方にシフトしよう。
蜂は倒しすぎると叱られるんで、うろうろしないで崩落前に使われてた階段ルートで五層に行く予定。
五層はミナにもファレルにも俺の魔法ならば問題ないって太鼓判があった。おもな敵が、もも焼きになってたホロルと芋虫みたいなキャタピーっていう魔物で動きが早くないのも大きい。
ホロルのもも焼きはまあまあだったからお肉の確保もしたいところ。ミナの好物らしいし。
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