第22話 トイレと保護者
ようやく人目のない場所を見つけて、箱庭経由でファレルの家の庭へ。ついでにトイレ……。
好奇心でトイレを【鑑定】しました。
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トイレ
迷宮都市カバラにおける一般的なトイレ
状態:病原菌の
身体に傷がある状態で落ちると
後日感染症で命に関わる場合がある
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オカルト的な意味でも怖かったのに普通に怖いよ!!!
いかん、ロゼに変わってさっさと布団に入ろう。幼女になって勝手口に向かう……、向かう……。
トイレに行きたい! アーデルで行ったあとなのに、生理現象は別!? トイレの足場が幼女には離れすぎだし、板がちょっと動く気がするんですよ!
誰かトイレについて来てください、切実に。そして【精神耐性】仕事してください!
ビクビクしながら用を足して、部屋に戻る。布団にくるまったけど眠くないので、ノアールで動いている間のロゼの体は睡眠状態なのかもしれない。夕方減ってた生命も全回復してるし、きっとそう。決してトイレが怖かったから目が冴えてるわけじゃないはず。
ああそうだ、薬作るつもりだったんだ。ノアールに変わって、荷物からシャベルとかと一緒に買った、乳鉢やらなにやら調薬セットを出す。
まずは帰りがけに買った薬草を乳鉢でごりごりしてペーストにする。
普通は煎じて飲んだり、傷口にちょっと揉んでそのまま貼り付けるみたいなんだけど、蜜蝋と練り合わせて軟膏にしてみた。
ゲームではノアールがHP回復薬、MP回復薬とか作ってたけど、この辺は魔力なくてもできるのかな? なんかこっちは一瞬で回復するような薬は魔法の領分な気配がして、ちょっと不安。
できあがった軟膏を、缶の用意なんかないし、例の薄い皮に包んで小分けにした。四つできたから、二つは明日ハティとカディにお守りがわりに渡そう。
作業を終えて再び布団に潜り込む。大丈夫、トイレの記憶は薄くなった。薄くなったはず。
「ロゼ、そろそろ起きないと見送り行けないぞ」
ミナの声とノックの音に意識がはっきりしてくる。ぬくぬくと布団でまるまっていたらいつの間にか寝ていたようだ。
本日はカディとハティの見送りをして、そのまま迷宮に自分たちも行く予定なのだった。
「ん、起きる」
返事をしてのそのそと起きだし、着替えて外へ。寒いけど顔を洗うのは井戸なんですよ! お手伝いさんがいると室内に汲み置きをしてくれたりするみたいだけど。
ミナに水を汲んでもらいながら、井戸の水が何で飲めないのか不思議に思って【鑑定】してみた。
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水
飲料には向かない
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ロゼの【鑑定】は簡潔です。魔道具系の鑑定は見ようと思えば詳細に出るんだけど、水とかトイレはあんまり詳しく出ない。ノアールの方で見ると詳しく出るんだけど。やっぱり水は飲食に関係するものだからかな? トイレはなんだろ? 薬というか健康関係?
とりあえず後でノアールで見てみよう、魔力2を早く何とかしたいです。
「ありがとう」
「どういたしまして」
朝の簡単準備を終えたら外へ。ファレルの家にもチーズとか塩漬け肉とか保存食はあるみたいだけど、料理はしないというかできないそうなので冷たい食事になるから、外に出るなら朝ごはんも屋台。
迷宮の中で食べるごはんも買って、待ち合わせ場所というか必ず通る門のそばで朝ごはんを食べながら待つことしばし、通りにカディたちが姿を見せる。カディでかいからすぐわかるね。
「パルムはともかく他はどんな人間かわからないから、言動気をつけたほうがいいぞ?」
近づいてくるのはカディとハティ、杖を持った魔法使い三人、ひょろりとした斥候、案内人――パルムの七人。パルムさん、荷物も含めてフォルムが丸い。
「魔法使いのうち一人は普段は常識的な方ですが、力を得るのに貪欲な方です」
正面を向いたまま小声で付け加えてくるファレル。
普段は、っておい。もしかしてW魔法とかバレたとたんやばい人に変わるの? 怖いからおとなしくしてよう。
「おう、わざわざ来たのか?」
「どっちにしろ迷宮に行くからね、時間を合わせただけだよ」
声をかけてきたカディにミナが笑って答える。
「今日は迷宮の見学です。どうせ行くならとこの子が」
ファレルもにこやかに。
ファレルに「この子」なんて呼ばれたことなかったんだけど。もしかして名前を出すの避けてるんだろうか。よくわからないから黙っとこう。
「迷宮までは一緒ですか」
微笑むハティ、一歩下がった場所にいるハティたちのパーティメンバーと会釈し合うミナとファレル。
さっきミナとファレルに注意されたせいか、なんかパーティーの雰囲気が硬い気がする。ハティとカディに一歩引いてる感じ?
「そっちの予定を変える気はないよ、歩きながら話そう」
「おう」
そしてミナのお胸からはがされて、カディの肩に担がれる俺。俺の尻の隣がカディの顔だ。
俺は荷物か! 待遇の改善を要求する!
「何か怒っているようですが……」
気の良さそうなパルムが、カディの背中をべしべしと叩く俺を気にして言う。そうです、こんなに主張してるのにスルーはいけませんよ!
「気にすんな、ミナの胸からはがされて怒ってるだけだ」
「子供ですからね」
ハティが同意して追い打ちをかける。おのれ……っ!
「えらく綺麗な子供だな」
抱えられている俺にしかわからないくらい、少しだけカディの腕に力がこもる。
声をかけたのはひょろりとした斥候さん。
「将来うちの坊主の嫁に欲しいぜ」
続いた明るい笑いを含んだ声にカディの力が抜ける。
なんとなくぞんざいな荷物扱いは、俺を目立たなくさせる手段かと思いカディを叩くのをやめる。
道中、俺がおとなしく荷物をやっている中、ミナがパルムと迷宮の攻略について話している。そこに時々ファレルが質問を挟む感じ。
「どれくらいの予定なんだい?」
「行きに十日、帰りに十日、レッサードラゴンの捜索に一日、戦闘に一日、解体に一日、予備日に五日ですね」
「そんなに簡単に見つかるか?」
「一日いれば向こうから寄ってきますよ、あの変異種は。他の対象と戦闘中に来られることを心配しています」
僧帽筋〜
「二頭を相手にするのはぞっとしないな」
棘下筋〜
「普通は縄張りが決まってるんですがねぇ」
大円筋〜
「やめんか!」
楽しくカディの背中の、筋肉の境を指先でなぞっていたら叱られた。
カディが横にいるハティを見て、ハティが笑顔で後ろに下がったのを目撃。さては押し付け合ってるな? ミナのお胸に戻してくれていいのよ?
願い虚しく抱え直されて、今度は小脇に。ずっと横なのも疲れたのでもぞもぞと動いて縦になる、カディの脇腹から胸のあたりに張り付いている俺。しかたないからこの胸の段差で我慢しますよ。
それにしても、ミナのお胸からカディに二回も離されてるけど、もしかしてカディはミナのお胸にラブなんだろうか。ミナは奴隷商にいた時、ハティに――まああれは断られるの分かってて、からかってたっぽいけど。
「また妙なこと考えてやがるな?」
「ふた月は拙者の胸ですよ?」
お胸の共有はしない主義なんで、迫るならその後にしてください。
「拙者……」
また一人称がハティに不評な模様。困ったな、そんなに一人称知らないんだけど。
「お前は胸のことしか考えてねぇのか」
「健全な思考です。どんな紳士だって考えるものなんです」
真面目な顔して答える俺。
「割合の問題だ」
「一緒にしないでいただきたい」
カディとハティからそれぞれ答えが返って来る。
「ハティは段差派、っと」
ミナのお胸に興味がないなんて。
「段差……?」
問うような視線をよこしたので、カディの胸をもむことでそれに答える。くそう、俺の段差はいつ戻るんだ。筋トレは背が伸びきるまで控えたいしなあ。
「な……っ。どうしてそうなるんですか! 胸以外にも脚とか――」
途中ではっとして黙るハティ。
「ハティは脚派、新派閥の樹立……っ!」
「昔からあるだろ」
驚愕してたらカディに呆れた目を向けられた。
「男どもの会話は称号持ちでも馬鹿なんだね」
「僕にとってはけっこう雲の上の二人だったのですが」
ミナの呆れた声とファレルの戸惑う声。
「これから迷宮中層へ向かうというのに、さすがの余裕ですな」
「視線がそれてるよ」
フォローを入れたパルムにミナの容赦ない指摘。
「勝手に二人がギスギスしてるのかと気を揉んでたんだが、仲が良さそうで安心したぜ」
「いやぁ、噂とはあてにならんもんですな」
「ほっとしました」
なんかミナたちの会話が聞こえてきて、カディとハティが黙った。ついでに魔法使いさんたちと斥候さんの会話が聞こえてくる。カディ、ハティと比べられるからやだって言ってたもんね。
パーティーが和やかになってよかったです。カディは憮然としてるし、ハティは額を抑えてるけど。
で?
カディは胸派ですか? 脚派ですか? もちろんお胸が一番ですよね?
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