第21話 魔石

 踏み込み、袈裟懸けさがけに斬る。


 肩から斜めに脇腹までを斬る時代劇なんかでよく見る形だけど、なかなか優秀。ちゃんと当たれば、鎖骨は折れやすくその下にある大きな血脈を斬って致命傷を与える。上手く当たらなくても、頸動脈が近いためそっちを傷つけることも狙えるし、敵が避ける行動をとってもそのまま太ももに当てて動きを奪いやすい。


 特に小鬼は俺より小さいので斬り下ろすのは楽だ。でも時々、強い個体なのか避けようとする奴がいて予想から数センチずれる。レベルが上がって、思った軌道を外れなくなるまでは慎重にいこう。


 相手が気づく前に素早く。

 それができるようになったら、今度はわざと気づかせて、個体の強さを測って相手の動きを予想し、読み通りに動くか確かめながら状況に応じて袈裟懸け以外も使って倒す。


 遠くから当てる魔法と違って近接は怪我もしやすいし、怪我をしたらソロは助けてくれる人がいない。気楽だけどハイリスク。


 楽に倒せる小鬼で今のうちに色々練習しとくことにした。レベルが上がって、うっかり両断できるようになっちゃったけど。


 武器の耐性や、集団を相手にすることを考えたら、柔らかい首の動脈を狙うか、手足の筋を斬って動きを奪うかがいいんだろうけど、それもまあ後で練習しよう。


 両断できるようになってからはなるべく心臓の上を狙って。

 流れる血を踏まないよう注意して近づき、赤黒い断面をさらして倒れる小鬼の胸を踏む。すると、ゴボっとさらに血が噴き出す。


 倫理的にどうなのかとも思うけど、魔石を探すのにこれが一番時間がかからない。慎重にやれば、自分につく血の匂いも少ないし。


あまり濃い匂いをさせていると魔物が寄ってくる、血の匂いは一番だめだ。次に汗の匂い。汗をかかない程度の動きで、返り血を浴びずに戦う練習中だ。


 今回初めて当たりだったらしく、石炭を少し滑らかにしたような石が、ぬるりとした血だまりに転がり出た。


 ……。

 出るとは思ってなかったので回収の方法を考えてなかった。触るの嫌なんだが。


 そうか、先に進んだら魔物の部位を持ち帰ることもあるし、色々用意しないといけないんだ。そう考えつつ、とりあえず夜食に食べたパンが包んであった皮を持ち出し、覆うようにつまんでそのままクシャッと丸める。


持っててよかった包装紙、 俺はポイ捨てしない日本人ですよ! 魔物の死体は放置ですけどね!


 魔物の死体は一日でダンジョンに吸収されるらしく、そのままにしてもそんなに害はないらしい。

 

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ノアール=フジヅキ

存在レベル11(魔素*101/120)

生命*255/256  魔力*1/2

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 さすがにオークやらを相手にしているロゼには追いつけないが、一人で黙々と敵を倒していたためか結構レベルが上がった。

 

 レベル8まで魔力が不動の1でちょっと泣きそうだったけど、ちゃんと上がりました。増えたの1だけど。やったね! 鑑定が二回できるよ! 


 ……大丈夫なんだろうか。生命は自然回復でさっさとほぼマックスまでいったのに、魔力の回復は遅いのも気になるところ。まあ、歩くだけで生命が減るロゼよりはマシかな? ロゼも魔力の回復は早いけど、生命の回復は遅いし。


 ちょっと早いけど、これで終わりにして箱庭で水場用の穴を掘ろう。


 戻るのが大変なんだけどね! 帰還のアイテムとか帰還の呪文とかないのかな? 


迷宮の道が交差するところで壁に彫られた模様を見つけ、地図と照らし合わせて現在位置を把握。来た道を逆にたどるより、新しい道を進んだ方が上への階段に早く着けるようだ。


 箱庭に戻れる「広いところ」はどの程度広い場所なんだろうかと考えつつ、光苔に照らされる洞窟を進む。少なくとも今まであった、ちょっと広い場所では発動しなかった。これも早く把握したいところ。


 

 箱庭に戻って来た、当たり前だが何にもないままだ。必要なものを確認して次の機会に色々持ち込もう。魔道具のランタンを出して夜の家の前に立つ。さわさわと葉ずれの音がして真っ黒な枝が揺れている。迷宮より怖いかもしれない、明かりをたくさん買うのは決定だ。


 井戸の水を【鑑定】、――ここの水はちゃんと飲める。どうやら水を貯めるための穴掘りをしなくてすみそう。


 次に能力【水】の確認。水が湧くのは把握したけど、温度とか飲めるのかとか。ノアールでは【鑑定】があと一回しか使えないので、湧かせる度にロゼに変わって【鑑定】実行。結果、温度から水質までオールマイティーですよ! 真水オンリーじゃなくて良かった!


 井戸端で顔と手足を洗い、靴を洗う。風呂に入りたいが、高い宿でないと体を拭くのは基本井戸端か盥だ。ここに早いところ露天風呂を作らねば。能力のおかげで普通の風呂より簡単そうだよね? どこに作ろう? 


 色々考えるのは楽しいけど、とりあえず活動しやすいように整えるのが先かな。居間に机、部屋にベッド、食器、工具類。トイレと風呂は場所をよく考えて作ろう。特にトイレは遠くてもダメだし、近すぎても臭う気がする……。下に水を通して水洗にしようかな? 最終的にどこに流れてくのか謎だけど。


 建築関連の本とか売ってるんだろうか。部屋をもう一度見て回りながら必要なものを確認するつもりだったんだけど、途中で怖くなりました。明かりを持ち歩くと自分の影がですね……、床板もしなるし。


 まだ自分の家って感じじゃないからだと思うんだけど。村長の家よりはいい建材を使ってるっぽい、でも日本と比べるとね。古民家レベルにも達してないよ! 隙間空いてるし!


 ちょっとこれは費用がけっこうかかりそうだし、土間のお金をもうちょっと持ってこうかな? いや、さっき手に入れた魔石を売り払ったほうが怪しまれないね。鞄とかにつける魔石を、例のあの魔力が貯めとけるコインに替えれば売り払っても無問題だし。


 まだ少人数しか知らないし、制約もあるけどロゼが派手にやらかしてるから、せめてノアールは慎重にいこう。


 でもお金の問題をクリアしても、ファレルの家に宅配を頼んだようにはいかないから、ベッドフレームとかも自力で持ち込むしかないんだ。フレームやマットが入る容量の【空間拡張】ができるようになるまでは、布団直置きかな? 


 その前にタペストリー買わなきゃ。村長んちの壁にかかってたんだけど、ここに来てあれは隙間風防止のためのものなんだって初めて気づいたよ。長居できるような部屋を確保してからちょっとずつ改造してこう。


 装備はまだこのまま。レベル10から装備可能なものもあるけど、今のものが一番能力が高くて見た目も無難。だいたいイベントで手に入れたアイテムはレベル1から装備できて、けっこう能力が高い。見た目がネタに走ってるのも多いけど。


 最後にロゼでノアールの水筒に【軽量化】と【空間拡張】。無事に八倍&8分の一軽減がついたところで、井戸の水をいっぱいまで入れる。もう蜂蜜酒、嫌なんですよ! 


 ちょっと早いけど戻ろう、次回は昼間に来たい。それに今からならファレルの家の庭じゃなくって、迷宮側に出て普通に街に戻って魔石が売れる。ギルドも夜は昼間ほど混んでいないみたいだし。ちゃんと魔石も洗いましたよ! 包み紙汚れたままだけど。


 箱庭から出るポイントとして登録したのは、迷宮のある谷の入り口付近の岩陰。あんまり近いと迷宮に来た観光客が岩陰で一休み、なんてとこに遭遇しかねないのでちょっと離れたところ。今は夜だし、岩陰なんか関係ないけどね。


 虫の音が聞こえて来て、箱庭が怖かったのは生き物の気配がしないことも原因なことに気がついた。ちょっと害虫じゃないやつ捕まえて持ち込むことを検討しよう。というか、生態系つくらないと作物育たないんじゃ……。


 オネェの「この世界の植物や魚も持ち込んで好きなように整えて」って言葉を甘く見てたかもしれない。持ち込むものを慎重に考えなきゃ、害虫とか害獣持ち込んじゃいそうだ。


 果物を育てるには受粉させる虫、虫が増えすぎないように、何だろう? 小鳥? いや、鶏放し飼いの方向で。鶏なら増えたら俺が食えばいいしね。たくさん小鬼倒したし、さばくのは何とかなると思う。


 ああ、豚肉食べたいな〜。


 などと思ってたらもう街の入り口だ。タグを見せて通用門を通る、もう荷馬車が通れるような大門は閉まっている。


 タグには発行された街の名前も入っていて、無料で街に出入りできる。違う街のタグだと出入りの度に小銭を取られる、商人が払うお金よりハンターのそれはだいぶ安いそうだけど。


 その街のギルドでお金払って臨時のタグを貰えば出入りの度に支払うことはしなくていいみたいで、ミナはふた月分のタグを買ってるんだそうだ。なお、ハティとカディはハンターランクが高いのでタダの模様。


「これを売りたいんだけど」

ハンターギルドの買取窓口は幸い並んでおらず、ギルド員に話しかけて査定を頼む。


「お? 小鬼か、坊主運がいいな」

熊のようなヒゲのおっさんだがさすが、一目で小鬼の魔石だとわかったようだ。けっこうな数倒しているので、冷静に考えると運がいいのか普通なのか微妙なんだけれども。


 青銀貨十枚也、クロス金貨に二枚足らないのか。価値がよくわからないけど、金貨は普通の生活してたら日常ではまず使わないって言ってたし、屋台の料金も高くて青銀より低い朱銀の半貨だったし、けっこうな大金のような気がしないでもない。


 礼を言ってギルドを後にし、なに食わぬ顔で歩きながら物陰を探す。ギルド周辺の建物は一階が店舗で、横から馬車が入れるようになっているところもあるけど、そこも柵が閉じられている。隣と壁を共有してるところまであって建物の影を見つけるのが難しい。


 無事帰るまでが遠足です!

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