第17話 そらっとぼける

「魔法使いは見つかったの?」

「ああ、人数増やした。あんまりゾロゾロ行くのも道中考えるとよかないんだが、しかたない」


 なんか魔法使い三人、斥候一人、カディとハティ、案内人の七人パーティになったって。


 迷宮内は狭いとこも多いし、人が多いと進行が遅くなる。人の匂いが濃くなると寄ってくる敵もいるし六人以下がセオリーなんだって。外で同じ敵を倒すより迷宮は難易度が上がるみたい。


「あのハティール=アーベルグとカディモンドのお二人と食事することになるとは思いませんでした……」

「そのうちアンタも誰かにそう言われるようになるよ」

感激しているらしいファレルにミナが言って酒を口に運ぶ。


「ところで相談があるんだが、部屋で飲まないか?」

「ええ、構いません」

ハティが応じ、ミナがファレルに目配せする。



「で? 相談とやらにはそっちの兄ちゃんも関係するのか?」

カディが壁によりかかって腕を組んで言う。


 ベッド二つに荷物が置いてあるだけの部屋なんだけど、男三人含んだ大人四人子供一人は狭いね! ファレルは細いけどカディがデカイし、ハティだって背と胸板はある。


 俺とミナはベッドに座り、もう片方にはファレルが座っている。ハティとカディは壁際に立ったまま。一応酒瓶持ち込んでるけどゆっくり飲める雰囲気じゃない。


「人に聞かれたくはない話なのでしょう?」

ハティが言う。


「あー。見てもらったほうが早いな」

そう言うとミナは胸当をとって、服を大きく引っ張って胸元を見せる。


 そこにあるのは青い模様。やっぱり色は違うけど、俺の右手に消えたやつだ。


「……勇者の盟約紋」

「そっちのファレルにも出てる」

「あ、はい。そのはずです」

ミナが視線を送ると慌てて上着を脱ぎ出すファレル。真っ平らな胸は見ても楽しくないんだけど。


 服を脱いで露わになった胸には何もなくって、あれって思っているうちに浮き出た。なるほど、任意で出せるってことは任意で消せるってことでもあるよね。


「二人一度にか?」

「勇者に会ったんですか?」

口々に聞いてくる二人。


「いや、神殿に寄ったら突然」

「いつ頃だ?」

「七つどきです」

昼をだいぶ過ぎて夕方になる前の時間は七つね、覚えた。


 などと学習してたらファレルがそそくさと服を整えて、代わりにハティが脱ぎ出した。なんでやねん!


「こちらは聖者の盟友紋が」

ハティの大きくくつろげた左胸に曲線を描く青い文様。ミナとファレルについた直線的なやつより丸みがあって可愛い。


「マジか」

「同じ都市、同じ日に同時に……?」

びっくりしてしばし固まる二人。ハティもカディも複雑な顔をして考え込んでいる。


 巻き込み事故二件目。村長夫妻が三件目ってことはないよね? 二人ずつだって言ってたし、これで打止めなはず。


 なお、ハティの段差は緩やか、細マッチョ? まだ自分はそこまで行き着いていない身であれだけど、物足りない。


「何故いきなり勇者、聖者ともに盟友が選ばれたのか。まだ赤ん坊だろう?」

カディモンドが眉間にシワを作ってる。なお、普通は赤子が成長して冒険に出る頃に盟友が選ばれるそうです。俺にこっちの世界で赤子時代ないからね!


「それなのですが、今代の勇者と聖者は産まれた時に祝福を得たわけではないかもしれません」

ファレルの言葉に全員の視線が集まる。


「過去に勇者からその友へ禅譲ぜんじょうがあったことはご存知ですよね?」

禅譲……ってなんだっけ? 天皇とか皇帝が生きてるうちに地位を譲ることだっけ? 


「盟友に選ばれず、能力的に不足を囁かれても信頼され最後まで勇者と共にあった、レトですか」

「勇者スパニエルが魔王討伐の途次に亡くなった際、神の祝福が移り勇者を引き継いでいます。――勇者も、おそらく聖者も赤子とは限らない」

あー。オネェが好きそうなシチュエーションですね。


「今回は異例ずくめです。人間にわたしたちに両方の紋が出ているならば、魔王誕生の可能性はないと言っていいでしょうし、魔王に準ずる存在の噂も聞きません。通常、人々にとって何か強大な障害がある時に勇者や聖者が、文明が緩慢に停滞し始めると魔王が現れると言われていますよね? どちらの気配もない。そして何より僕が選ばれる理由が一番わかりません」


 こっちの伝説だとか歴史を知らないんで話の内容はぼんやりとしか分からないけど、ファレルが選ばれたのは巻き込み事故なことは分かってる。


「なるほど」

そう言って脱ぐカディ。


 突然の上半身裸!


「段差自慢……っ!」

「ちょっと触ってみろ」

「迫ってくる変態は管轄外です」

ノーセンキュー。鎮痛な顔でお断りする。


「違う、紋が出るか試すんだ!」

「……ああ。なるほど、確かにありえそうではあるね」

ミナがホッとしたような声で言う。


「一瞬そういう趣味が……。いえ、なんでもありません」

カディに睨まれて視線をそらすハティ。


 近くにしゃがんだカディの段差をなでまわす。――右手で。


「出ねぇな」

「出ませんね」


 ふあああ、お腹の段差……っ


「控えめに言って変態に見えます、困ったことにカディモンドの方が」

「まあ、ロゼは年端もいかない子供だからね」

ハティが困惑した顔で言えば、ミナが駄目押しをする。


「終了だっ!」

カディが立ち上がってミナの方に押しやられる俺。


「ひどい! 小生しょうせいにない段差を自慢するだけ自慢して……っ!」

どさくさ紛れにミナの腰に抱きついて不満を訴える。


「小生……」

「普通に私って言えねぇのか?」


 ぬ。一人称、小生も不評な様子。ハティとカディが吾輩の時と同じ反応だ。


「えー。ロゼさんは筋肉――段差がお好きなんですか?」

「段差は好きというより将来目指す体型? 好きなのはお胸です」

「はあ……?」

「ファレルが混乱してるじゃねぇか。目指すならミナの胸にしとけ!」

カディが服を着ながら言う。


「神殿で紋を受け取った時、私も魔法使い型の勇者なのかと思ってロゼに触ってもらったけど、反応なかったんだよね」

ああ、そう言えばミナのお胸も突かせてもらいました。


 ごめんね、やっぱりちょっと下僕とか言われると抵抗あるしさ。かと言って一人は寂しいし不安だから、普通の関係を築けるといいな。


「二人は迷宮はどうするんだい?」

「予定通り行きます」

「手付け払っちまったしな。パルムはもう迷宮に持ってゆくものを買い揃えているはずだ」

ミナの膝で手ぐしで髪を梳かれて気持ちよくなっている俺。


「紋の色からして、近くにおられるか、ここに勇者や聖者の最初の目的があるのか、どちらかで間違い無いでしょう。焦る必要はない――目的のほうならば迷宮攻略が一番ありそうですしね」


 正解! 迷宮で魔物を倒しまくるのが目的です。ハティの声を聞きながら心の中で返事をする。ミナの手と体温が気持ちよくって眠い。


「僕は少し、この都市の双子の情報を集めてみます。手がかりになりそうなのが、同じ時期ということしかないので」


 不正解。二人同時に存在できないから、二人セットで探すのは無理ですよ……。お風呂に入ってないけど、もうダメ。


 おやすみなさい。



「根拠なんてねぇけど、コイツだと思ったんだがな」

「言動と行動はどうかと思いますが、外見は天使ですね」



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