第14話 迷宮
案内人は確保したものの、ハティとカディの魔法使いの確保はまだだ。理由は案内人と同じ。案内人は戦わないし、いざとなったら逃げるけど、魔法使いは後衛とはいえ戦っているわけで。
ある程度
迷宮の中では何が起こるか分からず、出会う魔物によっては状況が簡単にひっくり返る。だからハティとカディは外での準備に焦らず時間をかけている。
「行って来ます」
「おう、うろちょろしねぇでミナについてけよ」
「無茶をしてはいけませんよ」
保護者二人に送り出されて一足先に迷宮へ。町を出る前にお弁当の調達、水筒にはすでに酒屋で蜂蜜酒を詰めてもらっている。
「迷宮の入り口にも露店は出てるが、割高だからな」
ミナはでっかいパンに肉を挟んだやつ、俺は謎肉の厚切りベーコンと固くないビスケット。二人でりんごを一つ。
野菜と果物高い! 肉は魔物肉がね……。美味しいのなんて魔物肉の中でもごく一部だって。豚と牛の肉が高くてびっくりした。まあ、草食獣の方が肉は美味しいものだし、きっと魔物は肉食よりの雑食ですね! とりあえず肉は出回ってるので安いです……。
迷宮に行くまでは崖の間の石がゴロゴロしている道を行く。鉄砲水で流されて来たやつみたい? 一応大きな石は脇に避けられ通路らしきものは作られてる。
谷は奥に行くほど日陰で寒い。なんでみんな平気なんだ? 俺がおかしいの? 足元も悪いし、ミナに片手で抱えられて胸にはりついてる。胸当装備が邪魔だと思うのは贅沢だろうか。
「あの……」
入り口で守衛さんに入場料を支払い、中に入ろうとしたら話しかけられた。まあ、幼児抱えて迷宮に入るヤツはいないよね!
「案内人はご入用でしょうか?」
まさかの売り込みだった!
「案内人の実績を積んでるところなんです、お代は要りません。――よかったら無料で軽量の魔法をかけますよ、半刻ほどしか効果がありませんが」
半刻って約一時間くらい? いまいちピンとこない。そして軽量化!
「日帰りだよ」
ミナが端的に答える、迷宮
観光客でもさすがに幼女はいないが、親らしい騎士に連れられた少年はたまにいるみたい。実際ここにくるまでも何人かハンターらしくない人を見かけた。
守衛さんが変な顔したけど止めたりしなかったのは、ミナがけっこう強くて顔が知られていたことと、観光だと思われたことの二点が理由だと思う。いや、お金払えばいいだけかもしれないけど。
「そうですか……」
すごすごと引き下がろうとするヒゲ男に【鑑定】実行。
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ファレル=ランベル (31)
生命*110/110 魔力*240/240
属性*地
魔法学者
最近嵌められて没落した
================
おい、最後。
関係ないけどさ。名前からして貴族か、没落してるけど。無精髭のヒョロイおっさんだと思ったら学者だった。しかも魔法学者! ローブとなんかズルズルしたのを着込んでる。寒がり仲間? そういえば爆炎の魔女さんも結構着込んでたな。筋力、筋力の差か!
男は見かけはそうでもないけど、村長より生命も魔力も高い。強いんだろうか?
そして軽量の魔法って地属性なのかな? だとしたらレベルを上げてるだけじゃ覚えられない。
「二層にはいくけど?」
「え、ではぜひ!」
ミナが渋い顔してるけど、軽量化の魔法が俺の目にはぶら下げられた餌に見える。
「どうでしょうか?」
不機嫌なミナを見て、嬉しそうだった顔を不安に染めて聞く魔法学者。
「今日は二層の見学だけど、道中に軽量化の魔法どうやって覚えたか教えてくれたらいいよ」
「……まずは案内人のタグだして名乗りな」
ミナはやっぱりちょっと不機嫌そう、どうやら反対はしないけど俺の出した答えは気に入らなかったみたいだ。
「あ、失礼しました。ファレルと申します、よろしくお願いします」
「ロゼです」
よろしくってことは軽量化魔法の入手方法教えてくれるんだ?
「ミナだ。戻って同行者の手続きをするぞ。アンタもちゃんと鑑札持ってんなら、受付前に声かけな」
「え、はい。すみません?」
俺と同じくわかってないらしいファレルに、ミナがため息とともに説明を始めた。
どうやら案内人と偽って戦闘に参加せずについてくる
ハンターで何度か迷宮に入ったことがあって魔法鞄を持ってるヤツとか、持ってなくても口がうまいヤツとか。入場料を支払うところでタグを見せることになるんでそういうヤツは受付後に声かけてくるんだって。
「知りませんでした……。ここで声をかけた方がみなさん必ず迷宮に行く方ですし、お金も払い済みなことがわかるのでいいかと思ってたんです。どうりで断られる……」
良かれと思ってやっていたことが、怪しさ満載だったことにショックを受けてるファレル。
観光目的の人には案内人いらないし、ハンターはミナが言った知識があるので引っかかる人は少ない。断られまくって、半ばヤケ気味に俺とミナの変なコンビにも声をかけたみたい。
「守衛もあれで受付したヤツが無事帰ってくるか見てるし、案内人だけで出ると評価下げられるよ。ちゃんと受付で一緒に手続きして揃って出るよう気をつけな」
一緒にお金を払うと自動で同行者カウントしてくれるけど、バラバラに受付したんで同行者の申し出を戻ってするらしい。書類とか面倒なことはないけど、安全や信頼、実績のための顔見せってことのようだ。
さて、入るのにちょっともたついたけど、初迷宮。
「おお!」
崖にぽっかりと縦に開いた裂け目に入ると、
「二層でいいんだな?」
「はい」
もちろんです。一層は結構広くてこの入り口ですでにルートが別れる。右が観光用の長い一層ルート、左は二層に降りる場所へすぐに出られるルート。
迷宮に入れば自己責任だけど、ここは珍しく観光地化してる。一層に出る敵が小鬼とファットラット、鬼火しか出ない上に数が少ないんだって。鬼火に至ってはただ飛んでるだけ。そして最初のルートでハンターと住み分けができるのも大きな要因。
「……大丈夫ですか?」
俺を見て改めて不安を感じたのかファレルが心配そう。
「観光とかわらないよ。私にとってはね」
ミナが答える。
二層も数が多いだけで魔物の種類は一層と変わらないというので、俺にとってもボーナスステージの予想。
「いざという時はロゼさんを連れて逃げますからね」
隣にいる俺の手をぎゅっと握ってくる。
「ああ、頼む。――あんた案内人らしくないな」
ミナが笑って言葉を返して、迷宮を進む。さすがに二層にゆくルートには人がいない、ハンターなら普通はもっと早い時間に出てるからだ。
なお、ファレルは朝が弱くて――声かけするタイミングも間違えていたってことが判明した。
迷宮の中は事前に調べた通り、光苔という発光する苔が繁殖し、壁や天井を覆っているため薄明るい。
「あ、小鬼。【ストーン】と、【ストーン】」
「え?」
吹き飛ぶ小鬼にミナが短く声を上げた。
「うん?」
「その年で一撃ですか」
何故か感激してる風なファレル。地味に地属性持ちアピールもしてみる俺です。
「魔法使えたのか」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてない! しかも見つけるの私より早い!」
じゃっかんパニック気味なミナ。
どうやら普通よりスリルを求めた感じの、でも観光だと思われていたことが判明。
「迷宮は魔物を倒すことが目的です。さくさく行こう、さくさく」
目的は明確に伝えておかないといけないな、と反省。
「さくさく行くのはいいけど、魔石はどうする? 調べるか?」
「えーと、魔石って魔物のどこにあるの?」
「小鬼だと心臓」
……抉り出すの?
「僕の仕事の領分ですのでやりますよ」
そう言ってファレルがナイフで小鬼の胸を開ける。心臓えぐるのかと思ったら骨があるので鎖骨からY字に開けて――だった。うをう。
「思ったより手際いいな」
ミナが感心して見ている。確かに動いている手は迷って止まることもなく、力づくという雰囲気もない。
「魔物には時々、魔素が体内で凝る個体がいます。本当にほんのわずかですが。それが魔石と呼ばれるものですね。強い魔物ほど魔石がある確率が上がるようで、小鬼から魔石が出る確率は低いです。ですが、狩られる数も多いことから出回ってる魔石の中では珍しくはないです」
「それでも高いがな」
ファレルがすごく嬉しそうにしゃべっている。魔法学者は好きでなったかんじなのかな?
「魔石は主に薬や魔道具に使われます。種類によって魔法の明かりや属性を高める杖、魔力の回復。小鬼の魔石ですと金属への魔法耐性付加、魔素を消耗するタイプの魔道具の動力ですね」
俺の持ってる【魔具扱い】と【薬扱い】の出番か? 出番なのか?
「ないですね」
そう言って二体目。
「あれです、今回は解体はいいです。サクサク行こう、サクサク」
魔石は見てみたい気がするけど、一々これをやっていたら数をこなせない。もっと倒し終えた後に休憩したくなるような敵の時にしよう、そうしよう。
二層の敵は数が多い。三層あたりまでの敵は特に利用部位がないし、鉱物もあまり出ない。ハンターは二層を無視する傾向があるんだって。観光客も来ないし、おかげさまでウハウハです。
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