第12話 魔法ゲット

 気を取り直して魔法書を。なになに――読めれば魔法を覚え、読めなければ才能がない。端的すぎる。本になってるけど、基本魔法陣を読み解ければいいみたいだ。



 提示された最初の魔法は【ファイア】、持ってます。

 ちょっと魔法陣は日本語だと崩れるので、現地語を意識しつつ記号っぽい文字の意味を一つずつたどる。さすがに全体の意味を把握するのに時間がかかった。結果が【ファイア】だったんだけれども。


 次の魔法は【ウォータ】、何かがストンと収まる感覚、よしよし。ああでもここで試すわけにもいかないから実際使えるかは後でだね。


 【ウォータ】って火属性の敵にびしゃってぶつけるイメージしかないんだけど。この世界ではどうなんだろう? 飲み水用だったりして。


 次に【ストーン】。


 ゲーム中、上位魔法には強力な攻撃魔法があったけど、水も地もどちらかというと補助魔法が多かったイメージだ。


 これで地・水・火・氷・風・光の初期魔法は使える。さすが【全魔法】! 雷もどこかにあるのかな?




「読めますか?」

「読めますよ?」

「そうですか……」


 短い会話を交わして本を読む。「魔法が覚えられるやつはほかにありますか? 魔法鞄つくれるのとか」

幼女の体力的に荷物がきついと思うんです。


「初級以外は別の書庫です。効果相応に高いですが、覚えられない場合でも返金はありません」

「読んでみたいです」

もともと持っていた魔法はレベルがあがると新しい魔法を覚えたんだけれど、さっき覚えた魔法は次の魔法が出ていない。【ストーン】の次【ストーンランス】が出てないとおかしいんだけど。


 もしかしたらゲームで覚えていた魔法のほかは、この世界の法則に則って魔法陣を読まないと覚えないのかもしれない。


「初級を覚えられないならば同系統のそれ以上は無理ですし、空間魔法は初級魔法に当たるものがなく、かなりギャンブルになりますよ?」

「お願いします」

全属性保証されてますから!


「わかりました。貴方のお金ですし、規格外なのも知っていますので止めません。一説には風魔法持ちは覚えやすいと言いますしね」


 空間魔法、チャレンジ料金クラウン金貨一枚ですってよ、奥さん! メールのソーセージ三千四百五十六本……じゃない二本セットだったからその倍か。二十年近く一日一本ってやれるね! 払うけどね!


「万が一覚えてもそこで口にしてはいけませんよ?」

「了解です」

ハティに連れられて図書室のカウンターへ。書庫は司書さんの後ろの鍵がかかった部屋だ。


 ハティが話をしてくれているが、なんかお忍びの貴族令嬢のわがまま的ニュアンス。故意に誤解されるように話を持って行っている気がする。


 結果は良好。まあ保証されてるしね、覚えた魔法は【空間拡張】。魔力の大きさで広さは変わるみたい。……重さかわらないって言ってたっけ? あんまり広げても意味がなさそう。


「だから申し上げたでしょう。こちらで我慢なさい」

なんかハティが小芝居挟んでくるんですけど。


「はーい」

空間魔法を覚えてませんよ的小芝居とともに、土魔法と水魔法の魔法書を差し出される。


 【ストーンランス】と【ウォーターアロー】を覚えた。やっぱり魔法陣を読まないと覚えないっぽい。でも最初から本になってたとは思えないし、誰かが元の魔法をつくったんだよね? 落ち着いたら色々検証するのも面白そう。


 図書室から出るともうミナがいた。


「まあまあかな。借り物だし馴染まないのはしかたない」

ミナの装備は腕につける丸い盾、皮製の部分当て、両手でも片手でも扱える剣だ。


 そういえば、迷宮に限れば女性の冒険者はそこそこいるんだって。迷宮内で「そういうこと」をすると、なぜか属性や魔力が抜けちゃうんだそう。


 魔力がない者は魔法での回復を受け付けなくなり、薬草での回復効果も弱くなっちゃうそうで、冒険者として結構致命的なことになる。その結果、荒くれ者たちもそっち方面でのお行儀は迷宮内に限りよくなるから、とのこと。


 なんでそうなるか分かってないっていうけど、あからさまにオネェの趣向だと思うよ!


 前から横から一通りミナの格好をチェックした後、幼女&ご主人様特権で抱っこを要求。


「お胸が硬い……」

皮装備は叩くとカンカンと金属質な音がしてびっくりする。


「蜜蝋と何かで硬化させるんですよ。元々硬い皮もありますが、それは縫い合わせできませんからね」

「おお?」

ハティの説明に感心して胸当をなでまわす。


「お前は何をやってるんだ、何を」

「カディ」

つまみ上げられて、二ヶ月限定の俺の胸から引き離されました。


「ミナもなんでこいつにへばりつかれてたんだ?」

「そういう契約なんでな。久しぶりだなカディモンド」

そうです、正当な権利です! 


「揉むな!」

怒りにまかせて代わりにカディの胸を揉んだら叱られた。おのれ、段差……っ! いつか俺もむきむきになってやる!


「どうでしたか?」

「目をつけてた案内人は休暇中。賞金目当てにレッサードラゴンに挑んで、亜種に遭遇して散々だったそうだ」


 ギルドの食堂に移動しながら話す。カディが加わったことで、また視線が集まってる。浮いてますよね、俺。分かってます。


「パルムだろ? 私と一緒だったんだよ」

カディとミナが選んだ案内人だ、腕がいいのだろうけど、一緒に行っても安全とは限らない様子。


 危なくなる前に様子がおかしいから逃げましょうとか提案してくれるイメージあったんだけど。


「指名依頼が出る前に自信あるやつが潜ってたせいで、戻ってきた案内人が休みとってんのが多い。何人か候補はいるが一長一短だな、その相談に戻ってきた。湧水石もけっこう割高だぜ」


「湧水石?」

「長旅や、迷宮に持ってゆく、水を得られる石です」


 湧水石に魔力を注ぐと、その分水を出して水筒を満たすんだって。その水を摂取しすぎると魔力酔いになってあまりよろしくないらしいけど、水は重いし痛むしで深い階層に潜るには必須みたい。


 ――ちなみに水魔法で出した水を飲むのは即魔力酔いになるので、かなりの非常時でない限りやめとけ、だそうです。


 食料はおいしくないけど、携帯食と現地調達でなんとかする。食べられる魔物のいるルートを通ることも大切のようです。色々たいへん!


「暗い地底で二、三日ならともかくひと月近く居るのはキツイ」

「個人差はあるのでしょうけれど、平気なのはドワーフくらいですね」

ドワーフいるんだ、ドワーフ。


 またもや薄い蜂蜜酒を飲みつつ話を聞く、みんなはビールだ。お茶が欲しい。ギルドの酒場は何か一品頼めば打ち合わせなんかで使えるスペースのようだ。


 森の迷宮なんかもあるみたいだけど、ここの迷宮は地下に潜ってゆくタイプ。浅い階層は光苔とかいうのが繁殖してて結構明るいけど、深く潜るごとに苔は少なく、暗くなってゆく。


「ですがドワーフは種族的に放出型の魔力を持ってないので、迷宮では水の確保が難しい。魔力そのものも自然回復量も多いですし、長い探索に向いているのはエルフですが、こっちは種族的に地下は好みません」


 魔力を回復する薬は高価な上、かさ張るため、迷宮内では自然回復が早いことはそれだけで大きなアドバンテージになる。魔法使いは魔力の回復のために優先的に休ませてもらえるみたいだけど、やっぱりベッドで寝るようにはいかないから迷宮では回復しづらい。


 結果、地下迷宮に潜る冒険者はどちらも程々な人間が多くなる。人口比から言っても順当みたい? 森が迷宮になってる場所とかはエルフが多いんだって。こっちの世界のエルフはぺったんなのかどうなのか、そこのところはどうですか?


「話が逸れたな。案内人はどうする? 行くのを渋って料金釣り上げられたが払えばパルムも来る。ただ、乗り気じゃねぇのを連れてって事故るのもな。次のやつは魔法鞄はあっても軽量化はねぇから持って帰れるものが制限されるのと、中層まで行ったことが数回しかねぇ」


「中層の経験がない方が大半ですからね。私は割高でも亜種との遭遇経験があるパルムを押します」

「ミナも亜種に会ってるんだろ?」

「私は行かないぞ? さすがに借り物の剣でレッサードラゴンに挑むつもりはないからな」

肩をすくめるミナ。


 カディが説明を求めるようにハティを見る。


「二ヶ月限定で吾輩の専用胸です!」

「吾輩……」

「胸……?」

ハティの代わりに俺が答えたら、困った顔をするハティと視線をミナの胸に向けるカディ。


「竜殺しの騎士ハティ様とベヒモス殺しの戦士カディが振り回されてるな」

面白そうに二人を眺めるミナ。


 なんか強そうな二つ名持ってますね!


「吾輩はおやめなさい。――竜は一人で討伐したわけではありません」

「こいつはズレてんだよ」


 一人称が定まらない!

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