第10話 カバラ到着

 その後、野宿を経てカバラの街へ。火の起こし方も無事教えてもらえた。難しいよ! いや、力があれば何とか? 後でノアールでチャレンジしよう。寒かったのでとりあえず幼女なことを利用してカディのコートに潜り込んだら、石を焼いて埋めた上に寝る方法も教わった。


 カディは薄着の上にコートを羽織っているんだけど、コートの素材が特別性で熱も冷気も通さないらしい。いつかこれも欲しいです。


 野営の場所は河原はNG、石がゴロゴロしている範囲は増水した時に水が来る。燃やすと虫除けになる草や木。食べられる草木――これは【鑑定】で分かるんだけど――地面の痕跡から獣の進んだ方向や通った時間を割り出す方法。


 とりあえず一通り習いました。実践できるかは別だけど、一応覚えた!


「ほれ、あれが迷宮のある谷だ」

カディが指す先を見れば、岩の渓谷が見えた。村から離れるほどに木々がまばらに低くなり、風景がサボテンはないけどアリゾナの砂漠みたいに変わった。


 迷宮の周りに都市があるのかと思ったらカバラは少し離れたところにあった。谷の途中に迷宮の入り口があるらしいんだけど、長雨が降ると鉄砲水で全部流されちゃうんだってっさ。


 そして今、馬を預けたところでなんか睨み合ってる。


「おう、今着いたのかよ! 俺たちゃこれから迷宮だぜ!」

ニヤニヤしながら話しかけてきたのは、デカくてヒゲでイカツイを通り越して悪人顔。体に見合ったデカイ戦斧を背負っている。

カディもガタイがいいけど、このヒゲは例えば格闘ゲームの中でもムキムキなキャラってかんじだ。筋肉、筋肉!


 その後ろには呆れ顔の巨乳のお姉さんと、身軽そうな男、盾を持った剣士、大きなリュックに肩掛け鞄を下げた男。これから迷宮に行くためか、はたまたいつもこうなのか、お姉さんの露出は残念ながら少ない。


 この人たちの誰かが指名依頼の二人なんだろう。爆炎の魔女さんは女性が一人しかいないからわかるし、絡んできた筋肉ヒゲさんがバルグなのだろう。大穴で筋肉ヒゲさんが爆炎の魔女ってことはないよね?


「ふん。なら俺たちに構わず早く行け。潜る前に角を取ってきてくれたら手間はない」

不機嫌に嫌なモノを見る目を向けるカディ。


「受けたのは同じ依頼ですが、私は邪魔はしませんよ」

ハティは意味深な感じの笑顔。


「こんにちは」

目があったのでとりあえず挨拶する俺。


「……おい? このちっこいのは何だ? 隠し子か?」

なぜか微妙にたじろぐヒゲ。


「お父さん?」

その言葉に乗って、二人を見上げて言ってみる。


「否定します」

「違う! お前も乗るな!」

カディにぐりぐりされた、痛い。


「迷宮に行くんだよね、気をつけて」

ぐりぐりされた頭を押さえて、ごまかす笑顔で三人に。


「お、おう。――嬢ちゃんは俺が怖かねぇのかい?」

「怖くないよ?」

とても格闘ゲームで見慣れた感じのフォルムなのもあるけど、中身は幼女じゃないし。手首ぶっといなあ。


「そ、そうか。おじさん、これから出かけるけど、なんか土産で欲しいものはあるかい?」

笑うとますます凶悪だな。視線が泳いでるところも怪しさ満載。


「欲しいもの?」

挙動不振な巨漢に聞き返す。


「おう、遠慮はいらねぇぞ?」

「パンツ!」

「パ……っ!?」

四、五日着替えなくても平気だと思ってたけど、パンツは替えたい! 村では下着類は自分の家で縫うらしく、売ってなかったんですよ!!!


「着替え持ってないんだ」

真っ赤になって絶句した巨漢に、ヤベェと思って補足する。


 ギギギギッと音がしそうなほど硬い動きで、俺からハティとカディに顔を向ける。


「お前ら、最低だな」


「ちょっと待て! 俺らのせいか!?」

カディが言い返すが、ハティは固まっている。


「四才? 五才? どういう関係だかは聞かないけど、ついてる大人の責任よ。分からなければバルグみたいに聞けばいいし、宿屋の女将にでも心付けを渡して頼めばいいじゃない」

少し離れたところで見ているだけだった女性が参戦してくる。


「ば、馬鹿な……。私がよりによってバルグ殿に……」

なんかハティは固まったままブツブツ言ってるし、カディはうぬぬっって顔して悔しそうだ。


 俺が普通に聞くべきだったかこれ。切実に欲しいと思った時は、もう店どころか他に人がいないところにいたもんで。


「えーと。ごめんなさい?」


 とりあえず謝っておく。


 いいか! ちゃんと世話しろよ!? などと言いながらバルグ筋肉さんたち一行は迷宮に旅立って行きました。話とは違って、いい人な気がする。


 一行を見送った後は、ハンターギルドへの登録。とりあえずこれで何か狩ったものの素材やら採取物やらを売れるようになったし、狩をしていても怒られない。貴族の領地とか規制がかかってるところもあるそうだけど、少なくとも迷宮はフリーだ。


 ドックタグみたいな金属のプレートを受け取る。名前とランク、登録した場所の名前、登録日が刻印されている。


 口座も作ってもらったので、このギルド証を見せればどこの町でも冒険者ギルド系の窓口で出し入れできる。あんまり大金はお金置いてなくて、小さな町ではできなかったりもするそうだけど、ハンターの仕事実績のある月は手数料は無料になるそうだ。


「こっちは信用コインです」

「信用コイン?」

コインというか、丸い薄い金属の端に穴が開いたのが、細い鎖にいくつかつけられてるのをハティに渡される。


「商業ギルドでそのコインに書いてある金額が受け取れます。金に換えないままそのコインでやり取りする商売人もいますね、換金するのに手数料が取られますし」

どうやらハティの話だと、コインそのものにはそんなに価値はないけど、小切手のような役割があるみたい? こっちのお金って紙じゃないから持ち運びに不便だし高額なやり取りには便利なのかね?


 冒険者ギルドがない場所でも使えるので、こっちも持っておけということらしい。なにせ魔物のいる世界だ、街の半分が破壊されて近辺に冒険者ギルドがない! なんてこともあり得る。


 金貨は預けたり信用コインにしたり手持ちのお小遣いになった。銀色のコインはまだ持っているがだいぶ軽くなった。重さはましだけど代わりにかさばるんだけどね。


 カディは迷宮に潜る準備で案内人の何人かと会っているらしい。そして俺はハティに奴隷商へ連れていかれる。


 俺が売られるんじゃないよ? ハティとカディは迷宮に行っちゃうし、これからのこともあるから契約で縛られる奴隷を買って世話してもらうことになった。


 奴隷は犯罪奴隷と借金なんかで自分を売ることになった契約奴隷がいるそうで、犯罪奴隷は刑期を終えるまで解放されることはないけど、契約奴隷は自分を買い戻すことができるし、ある程度契約でやることも決められるそうだ。


 で、高い能力を持つ奴隷でもやってくれることが限定されてたり、拘束できる期間が短かったりするとお安いそうで、とりあえずハティとカディが迷宮から出てくるまで買うことになった。


 それで独り立ちできるようならいいし、ダメだったら大人しく貴族か商人選べって。俺に金があったからできた選択への猶予だ。右も左もわからない世界だし、保護者か案内人がいないと俺だって心細い。


「こちらの条件は期間は一ヶ月、女性であること、この子供の面倒をみること、守ること、自立できる術を教えること、黙秘。――ロゼに条件はありますか?」

「お胸が大きい方がいいです」

「……」

「間違えました。迷宮に連れて行ってくれるひとがいいです」

ハティの視線に慌てて言い直す。ハティだって男なのに、なんでそんな呆れた視線をよこすんだ! 騎士、騎士だからか!?


「アーベルグ様のお連れは興味深い方ですね」

「変わった方です」

奴隷商人の愛想笑いにため息混じりで答えるハティ。


 ハティール=アーベルグというのがフルネーム、仕えるべき主家が決まったらアーベルグの後ろにもう一個名前がつくらしい。


 ちなみにカディはただのカディモンドだそうだ、家名があるのは貴族の出なんだと。フジヅキ名乗らなくってよかった。


 ハティは有名人らしく対応してくれているのは主人自らだ。そういえばハンターギルドの窓口でも大金を動かしたにも関わらず、手続きがスムーズだった。ハティもカディも俺が思っているより凄い人なのかもしれない。


 ハティが条件につけた黙秘は、契約中と契約前後に知り得たことを口外しないこと。奴隷商も黙秘の制約を神殿に立てているところが多く、中でも評判がいいところを選んだらしい。


 制約を立てると禁止事項を行おうとすると体が動かなくなるそうだ。


 奴隷に特殊な嗜好を求めたりするならそりゃあ隠しておきたいよなあ、と思ったら奴隷商に限らず、貴族の相手をする商人は黙秘の制約を立てていることが多いんだって。


「真っ当な商人なら制約がなくとも顧客の情報は漏らしませんよ、ただ貴族は疑い深い方が多いもので」

だ、そうです。


 奴隷商が真っ当というのが感覚的にちょっと疑問だけど、ここでは普通に認知されて機能している商売のようだ。


 話している間に後ろにいた店員さんが部屋から出て、すぐに何人か連れて戻って来たけど、他は扉付近で待たせて一人だけをそばに連れてくる。お店のオススメなのかな?


「ミナ殿?」

連れられてきた赤毛のいかにも冒険者という女性にハティが驚く。


「ハティ殿?」

ハンターギルドにはただのハティで登録してるそうで、一緒に仕事をしたハンター同士だとハティと呼ばれるって言っていたので、このお姉さんもハンターなのかな?


「何があったんです?」

「失敗して腕をな。元通りくっつけるのに持ち金じゃちょっと足らなかったのさ」

肩を竦めるお姉さん。野性味溢れてるけど美人さん、話し方が男らしいがそれが似合ってる。


「貴方が?」

「相手はレッサードラゴンだよ、やたら強いのが一匹いるから気をつけな。指名依頼受けたんだろ?」

おお? 普通のレッサードラゴンなら倒せる程度の実力あるんです?


「って、なんだこの子供?」

この人に決めた! とばかりに足に抱きつく。ああうん、太もも固いけどしなやかでいい抱き心地。希望通りお胸も大きいです。


「失礼」


 ハティに回収された。


「このお姉さんがいいです」

「嫌な予感しかしませんので却下で」

「おいおい、ひどいな。アンタが相手なら条件下げてもいいぞ」

却下されたけど、お姉さんからも援護の声。


「契約主はこの子になります。貴方とこの子では歯止めが効く気がしない」

混ぜるな危険扱いされてる!

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