第9話 問いかけ
「どっちも困る」
村を出てしばらくすると、ハティが行くあてがないなら保護者として貴族か商人を紹介すると言い出した。
魔物倒してレベルを上げないといけないのに、貴族に付き合うのも面倒だし、商人の養女になっても困る。
「じゃあどうするんだ? 面倒見ねぇぞ?」
カディが聞き分けのない子供に少し怒ってる様子。でもこっちは存在がかかってるんですよ! 今現在馬に乗せてもらってる身で強く言えないけど! 言ったら正気疑われそうだし!
「迷宮に入ってお金稼ぐ」
「それが一番厄介ごとの種ですよ」
ハティに諌められたが、入るときはノアールになるから大丈夫、とも言えない。面倒なんで言っちゃいたいが、さすがに怪しさ爆発だろう。
どうやら十五で成人らしいのでノアールなら何とかなりそうなんだけど。でも、迷宮に入るのにまずお金がいると聞いた。
「ありがとう。とりあえず魔物は倒さないといけないんだ。手続きの仕方教えてくれたらあとは自分でなんとかする」
示された道が選べないなら独り立ちするしかないよな。魚も焼けない俺だけど、きっとなんとかなるはず。とりあえずカバラに着く前に火の起こし方を学習しよう。
「魔物になんかされたのかよ」
「魔物を相手にするのはせめて分別がついてからに……」
「あ、このお金がどれくらいの価値があるか教えて下さい。昨日、二人が村長に出したのと同じ?」
説教が始まりそうなので、かぶせ気味に聞いてポケットからお金を取り出す。分別着く前に解脱しちゃったら困るんですよ!
昨日の晩、レベルを上げるために布団をかぶってノアールになった時にポケットから取り出したものだ。重かったのでちょっとだけだけど。幼女、筋力なさすぎだろう……。
ハティとカディが村長に渡していたのは銀貨一枚。持っている中から銀色で小さいやつを出してみせる。
「はぁ!?」
「……これは」
カディがすっとんきょうな声を上げ、ハティが固まった。
「いやいやいや、偽物だろ?」
「……魔力を通すと輝きます」
「?」
なんだなんだ?
「これをどこで……? いや、聞かないでおきます。しまってください」
「だから何でポケットにそのまま入れるんだ、お前は!」
素直にしまったらカディに叱られた。こっちの世界は小銭ポケットに入れないのか?
「財布ない」
「あーもう! 使え!」
カディが小さい袋を投げてよこす。そうそう、袋があればチーズだって直でポッケには入れないんですよ、俺だって。
「紐をあげましょう」
ハティも馬の歩みを止めないまま、荷物から紐の玉を取り出して適当な長さに切ってくれた。俺を前に乗せてるのに器用だな。
「カバラに着いたらちゃんとしたのを買って差し上げます」
「首から下げとけよ!?」
下げとくには重たいんですけど。
「うわぁ」
「ちょっとこれは……」
ポケットから移すために他のも取り出したらどんびかれた。カディなんか、わざわざ馬を寄せて覗き込んできたくせに片手で目と額を覆ってるし。
「俺、レッサードラゴンキャンセルしてコイツに雇われようかな」
「気持ちはわかりますが、指名依頼ですよ」
「保護者、絶賛募集中です」
真面目に募集中です、今なら定員二名。
「冗談はともかく、コイツに一般常識を教えなきゃいけねぇ気がするんだが」
「本当に。いったいどこの隠れ里から出て来たんでしょうね……」
「冗談だったんだ……」
分かってたけど、大げさにショックを受けた顔をしてみる。
「おい……」
「あ、小鬼」
目についたら狩ります。目につかなくても【気配探索】にかかったら狩ります。【気配探索】慣れてきたら殺意? 悪意? とにかく嫌な感じと、そうじゃないのが分かるようになった!
「お前はッ!」
はっはっはっ。
「まあまあ。カディ、子供相手に大人気ないですよ」
ハティが笑いながらカディを落ちつかせてくれる。
「ロゼ、最初に見せてもらった白い硬貨は
ぶっ! オネェぇぇぇ!!! もらった
「それ魔力を貯めとけんだよ、今わかってる中では一等な。金として使うんじゃなくって、それこそ城の防衛の要に使われたりする」
「古王国時代は魔力が通貨になっていたという話ですね。貨幣はそれ一種類で込めてある魔力の多寡で価値が決まったというのが定説です。使っているうちに劣化するので、残っているものは本当に少ない」
「えーと」
これ今持ってるだけじゃなくって、家の土間に積んであるんですが。もしや適当にいろんな時代、いろんな種類のお金が……。
「とにかくそれは人目につかないように」
「はい……」
さすがの俺も子供がホイホイ出したらやばいことを理解した。
使えないお金はお金じゃないと思います。金貨のほうが価値があると思ってたのに、こっちの方が価値があるだなんて。使えなきゃ無価値だけど。
「クラウン金貨はハティに両替してもらえ」
「王冠のレリーフのある金貨も普通の取引では使わない類です。金貨自体、一般には国をまたぐ貿易で使われるんですよ」
「俺らは、入るのも出るのも大きいから金貨にも比較的馴染みがあるがな。それでもクロス貨のほうだ」
年商よりも利益が気になります。
年間一億円の取引してても、経費が九千九百万かかってたら百万円しか残らないじゃないか。そのへんどうなんです?
クロス貨は金貨の表面にあるレリーフがバッテンなやつだそうで、クラウンの12分の一の価値だって。ニュアンス的にお金というより金の延べ棒扱いっぽい。
大きさはそこまで変わらないけど、金より高価な霊石とか言うのが混じってて、その比重が大きいそうだ。
全部のお金に霊石は混じってるけど、分量が違って一番少ないのは銅貨だそう。混ぜ物っていうと、価値の落ちる金属なイメージがあったけど、違うらしい。
他にも謎のお金が何種類か。一つはハティが好事家が収集している昔のお金、とか言ってたけど、他は謎のままだ。
「その額なら両替をして持ち歩くより預けた方が。お望み通りハンターギルドに登録しましょう。身分証と口座も作らなくてはいけないでしょうしね」
ため息をつかれた。ニュアンス的にこのクラウン金貨一つでお金持ちの気配、なお袋の中だけでも五枚ある模様。
で、冒険者じゃなくてハンターなのか。
「カディみたいな人は、ハンターって言うの?」
「魔物を狩るからな」
「ハンターギルド、先ほど話に出た案内人ギルド、あまり魔物は狩らずに希少物を見つけてくる探索者ギルドなどがあって、その上に冒険者ギルドがあります」
「ハンターギルドに入れば自動的に冒険者ギルドの所属になるな。商業系のギルドと違って、入ってるギルド以外の商売すんなとかはないから、最初の所属にあんまり意味はないがな」
「ないんだ?」
「猪や鳥を狩る狩人もハンターギルド所属ですからね。ランクが上がれば別ですが、低いうちは……」
低いうちはお試し加入とか取りあえず加入とかあるんですね?
それで幼女でもハンターギルドでいいのか。
「ここはオークが出ます。小鬼のようには行きませんので戦闘を誘発する魔法は控えてください」
「はーい」
左右から気配が迫る。ハティが馬の腹を軽く蹴ると勢いよく走り出した。カディも気配の方に目を配りつつ続く。馬の足なら振り切れるだろう。
大人しくしますよ。
「いや、一匹!」
大人しくできませんでした!
カディが言うように前方に一匹いる、この森はオークのせいで人が入れず荒れている。馬で森に分け入るのは無理だ。
青い血管の透けたぶよぶよとした肉の塊、ところどころにイボまである。――小説とかでよくオーク肉が出てくるけどノーサンキュー!!!
「仕方ない、やります!」
ハティとカディが馬を走らせながら剣を抜く。
よしきたガッテン!
「【ファイアランス】」
小鬼ほど小さくないし、的は道の上。一番火力高いので行きますよ!!
「ごがああああああああ!!」
「うをっ! ランスも使えるのかよ」
「【ファイアランス】、もひとつ【ファイアランス】」
悲鳴とも雄叫びともつかない声を上げながら向かってくるオークに焦りながら叩き込む。
胸、腹、顔。
「本当に規格外ですね!」
焼かれた顔を片手で覆いながら、力任せにハンマーを振り回すオークの脇を通り抜けざまに剣を振り降ろす二人。
転がるオークの首を後に森を抜ける。
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