第8話 side ハティ

「あの子供はなんなんだ?」

カディモンドが酒を飲みながら聞いてくる。


「私に聞かれても困ります。出会ったのは一緒でしょうに」

村長に出された酒は、田舎独特の穀物の粒が残るどろりとした酒で、私はあまり得意ではない。


 レラリア王国から受けた指名依頼は、レッサードラゴンの角の入手。カディモンドは私を嫌うまではいかないまでも、避けているようだが討伐の仲間としてはお互い不足はない。


 同じ依頼を受けた大斧のバルグ殿も実力はあるが、性格に難がある。実際、呼び出しに応じて城に行く時、首都を出る時と二回妨害にあっている。


 私もカディモンドも少し離れた場所にいて、依頼を受けたのは爆炎の魔女殿、バルグ殿、私たちの順だ。

ちょっとした事故がバルグ殿の足止めだと気付いたのは、依頼を受けた後にまた同じ事故に遭遇した時だ。人を頼んでやったのであろうそれは、最初から嫌がらせだと隠す気がなかったように思う。


 事故は大したことではなかったが、半日ほどの遅れは野宿や宿を取れる場所の関係で、カバラに着く頃にはもっと大きくなる。数日先行したバルグ殿は爆炎の魔女と合流し、腕の良い案内人を押さえてしまうだろう。


 焦ってもしょうがないが、してやられた。


「あの歳であの魔力量は異常だ。それにあの容姿」


 カディモンドの言葉に、依頼のことから昼間拾った子どものことに思考を戻す。足止めでカディモンドに合流できたのだからよしとしよう。


「初級魔法しか使っていませんでしたが、あの威力。それに魔法の連発は補給の難しい迷宮で重宝しそうですね……」

唯でさえ良からぬ考えを持った者たちに目をつけられそうな見目みめだというのに、あれでは目端の利く貴族も囲いたがるだろう。


「嘘を言っている風はなかったですし、特殊な能力持ちで隠れ里の育ち、そしてなんらかの理由で里が崩壊した、あたりですかね」


「もしくは、どこかの王宮か神殿に秘匿されていた」

カディモンドの言うように、あの子の言動からは親の存在だけでなく、親しい保護者や年配者の気配を感じさせない。


「少なくともこの村より生活水準が高いところで暮らしていたのでしょう」

ため息をついてカディモンドに同意する。


 まさか私もトイレの使い方を聞かれるとは思わなかった。それでいて一人で着替えができる、 全ての世話を誰かにしてもらっていたわけではないようだ。知識も行動も少しアンバランスだ。


「で、本人は何故隠れてたかも知らねぇ、もしくは覚えてねぇ」

「その可能性が高いですね」

知り人に預けてしまう予定だったのだが、安易にそれもできなくなった。


「村を出たら本人と話して、それなりの貴族に囲われるのがいいか、能力を隠して商家の養子になるのがいいか聞きます」

前者は安全が買えるが、手駒にされる。後者は能力が発覚した時に危険にさらされる可能性が跳ね上がる。どちらにしろあの容姿ではそのうち問題が起こる、ある程度力のある家を選ばねばならない。


「とりあえず本人にはあまり人前で魔法を連発するなって伝えとくか。お前、とっととどっか仕官してあの子供連れてけよ」

「無茶を言わないでください」


 方針とも言えない方針を立てたところで割り当てられた部屋に戻る。問題を抱えているのはわかるが、今日会ったばかりの子供だ、私もカディモンドも責任意識は薄い。


「で? どっちが一緒に寝る?」

「昼間馬に乗せましたのでお譲りしますよ」

笑顔で伝えるとさっさと子供のいないベッドに入る。




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