第7話 村

 ごーはんごはん。


 大抵の村に宿はなくって、旅人は小銭を払って農家の納屋なんかを借りて一夜を明かすことが普通らしい。俺たち一行というか、ハティとカディは小銭じゃないお金を払って、村長の家に泊まることになった。当然便乗させてもらってる。


 なんか、オネェからもらったのとお金の模様が違う? 国が違うのかな? 後で聞いてみよう。なお、俺のお金はノアールにならないと取り出せない模様。


 さて、村長宅へのお泊りはご飯付きです。まず椅子によじ登るという試練はハティが持ち上げてくれて解決。次に机に届かない試練は村長の奥さんが毛布っぽいものを尻の下に設置してくれました。


 なんで幼女のほうで会っちゃったかな。ノアールだったらもう少しなんとかなったのに。いや、ノアールだったら森で放置されたかもしれない。


「……うぐっ」

固い、パン固いよ! ここは必殺スープにぼちゃんですね! なんか保存が効くようにすると固くなるんだと。昼間、ハティにもらったビスケットも二度焼きしてあるって。


 噛み付いても引っ張っても幼女の力ではどうにもならず、丸ごとぼちゃんする寸前でカディがパンを奪ってちぎり分けてくれた。


 ありがとう、次回からも絶対カディの隣に座るよ! なんかまたハティが笑っていてカディは渋面だけど。


「存外、面倒見のいい男だったのですね」

「うるせぇよ」


 ちぎってもらったのをスープにつけて食べる。豆と少しの肉――ベーコン? のシンプルなスープ。長時間煮込まれているのかベーコンからは味が抜けていたけど、かわりにスープは美味しかった。


 他に鶏肉を焼いたのとチーズ。ハティとカディはマイナイフとフォーク持参。俺に木のフォークしかないところを見ると持参が普通なのか?


 どっちにしろ食い切れない予測。体相応に胃が小さいです、先生! どおりで昼間、ビスケットで足りたはず。


 泣く泣くカディの皿に鶏肉を移す。口つけてないし、体デカイから平気だよな? お残しは許しませんでぇ。


 チーズはどうしようかな。


「おいこら、そのままポケットに入れようとするな」

「後でそれも包んでもらいましょう」

カディに叱られ、ハティはまた笑っている。とりあえずこのチーズは手に入るようだ。


 食事の途中、村長が二人にお酒のお代わりを注いで「周辺の様子はいかがですかな?」とかなんとか聞いてくる。


 この村には外の話がなかなか入ってこないらしく、ハディとカディ相手によく喋る。二人もその辺は心得ているのか、国のあちこちの様子を話している。特に周辺の争いの火種、天候による作物の様子は詳しく。どうやらこの情報提供も村に泊まる代金の一部みたいなもののようだ。


 この村があるのはレーン王国だけど、レラリア王国の国境に近くって両方を気にしている。一番近い都市はカバラだけど、間に強めの魔物が出る地帯があってレラリア王国側の都市のほうが馴染みがあるらしい。


 山や川だけじゃなくって魔物にも開発や発展が左右させるのか〜とか思いながら、黙って程よく柔らかくなったパンをすくって食べる。


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ジョン (51)

生命*57/58 魔力*1/1

属性*なし

レーン王国辺境の村 村長

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アン (44)

生命*55/56 魔力*2/2

属性*なし

レーン王国辺境の村 村長の妻

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 食べ終えて暇なので【鑑定】してみた。才能もスキルもでないのは、省略されているのか、もともとないのかどっちだろう。オネェの話を聞いた限り後者だろうなあ。代わりに簡単な説明が出ている。

 51って年齢? 村長はもっと年上に見えるんだけど。環境か、環境なのか。そして燦然と輝く魔力1/1、ノアール大丈夫かこれ?


 村長と奥さん、生命がちょっと減ってるけどお疲れなんだろうか。


「この子にお風呂をお願いできますか?」

「ええ。綺麗な子ねぇ〜」

暇そうに見えたのか、ハティが俺の風呂を頼んでくれた。あるのか風呂!


 着いた時にあちこち見せてもらったんだけど、その中になかったぞ? トイレは外にあったけど。


 トイレは地面に埋めたデカイかめかなんかの上に間を開けて板を二枚通しただけっていう……。板と板の間を跨いでこう。


トイレットペーパーなんか当然なくて、なんか木の皮っぽいパリパリしたものが置いてあった。


 カディからは落ちたら三日以内に死ぬかもしれないとか脅されたし。幽霊が怖いわけじゃないけど、絶対夜は一人で来たくない。上に置いてあるだけの板は踏むとガタガタ言うし、不安定すぎるし臭い!!!


 ――風呂は桶だった。まあ俺が小さいから風呂と言っても差し支えないような気もする。沸かしたお湯を部屋に運び込んだ桶に注いでもらってざぶんとね。カディとハティは面倒なので井戸端で豪快に水浴びして済ますらしい。寒いと思います。


 なお、脱いでも女児でした。当たり前だけど。


 村長の家は俺がもらった家よりも造りはいい加減なんだけど、部屋数が多くって客間があった。この世界、少なくとも村では個室の概念があやしいらしく、一部屋に三人だ。さすがに俺というか成人女性がいたら別部屋だったらしいけど。家族も寝室はまとめて一部屋らしい。


 ベッドは木の台に藁束が並べられてシーツがかけられてた。色々衝撃なんだが俺はここでやっていけるんだろうか……。辺境の小さな農家では納屋の藁の中で全員寝てるとか普通にあるらしいぞ。そっちの方があったかそうではあるし、ハ◯ジのベッドだと思えば!


 ……。


 とりあえずあれです、ベッド二つなんですが、どこで寝れば? いいや、二人が戻ってくる前にベッドに入って寝たふりしとこう。


 基本的な生活の仕方を聞かなきゃいけない気がしてきた。一応、土間とか台所とか見せてもらって何に使う部屋なのか聞いたんだけど、なんかほとんどが食料貯蔵のための部屋だった。台所の突き当たりは、乾燥したり発酵したり加工食品つくる部屋だった。


 屋根裏には燻製肉つくるために暖炉の煙突が出てるらしい。そういえばもらった家も、居間に暖炉があったけど外から見た屋根には煙突がなかった気がするので、屋根裏で止まってる可能性大だ。


 着替えなんかないから、ブーツだけ脱いだ格好で布団に潜り込む。狸寝入りのつもりだったけど、入ったらちょっと眠い。隣から声が聞こえてくるけど、まだ村長と飲んでるのかな? 

 

 神域に戻るには外に行かなきゃいけないし、着替えは諦めてる。四、五日着替えなくっても死なないし。


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ロゼ=フジヅキ

存在レベル5(魔素*9/50)

生命*22/29 魔力*88/117

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ノアール=フジヅキ

存在レベル4(魔素*15/40)

生命*108/131 魔力*1/1

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 寝てしまう前にごそごそと。

 ノアール、ノアールの魔力がこう……不安になるんだが。上がるよね? 1のままじゃないよね?


 考えた末、とりあえず二人と一緒にいる間はレベル上げを優先することにした。地球のご飯は恋しいけど、街に着いたらダンジョンに入れなかった場合、魔物が狩れないんじゃないかという心配があるから。


 都市の近所に魔物出てたら駆除されてるよね? されてなかったらそれはそれで怖い。


 とりあえず、二人とも上げてって、レベルが上げられない状態で、魔素が余ったらご飯を出そうというマイルール。撤回するかもしれないけど。


 小鬼を殲滅する勢いで狩ったのにノアールはレベル4か〜。二人分のレベル上げはなかなかきつそうだな。あ、でも幼女は次の魔法が使えるようになってる。


 移動方法と安全が保証されるなら、幼女を優先して上げてもいいんだけどな。接近戦になったら簡単に死ぬぞこれ。なにせレベル5とはいえ、生命の数値が村長夫婦にも負けてる。


 俺の魔物狩りに二人ついて来てくれないかな? 


 幼女よ、今こそ【魅了】の力を発揮する時だ! ……、いや待て。ベッドでそれはまずい、色々アウトすぎる。明日の朝一でとりあえず恋愛対象は女性です宣言をしておくべきだろうか。




 

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