第6話 騎士と戦士
「さて、君は何故こんなところに一人でいるのかな?」
「神様……? に、飛ばされたから?」
ふやけるのが待ちきれずにビスケットをスプーンでつつきながら答える。オネェが果たして神と認識されているのか謎なことに途中で気がついた。
都市の神殿とかいってムキムキマッチョなオネェの像が飾られてたらどうしよう……。大丈夫かなこの世界?
「……ご両親は?」
「覚えてない」
ステータス情報がなかったら自分の名前も危うかった。地球での生活はぼんやりしか覚えていない。家族や友達なんかの個人的な繋がりがゴッソリ抜けている。一般常識的なことは記憶にあるんだけど、自分が生活していた記憶がない。自分自身のことが抜け落ちている。
唯一の記憶がゲームなのだけど、やっぱりプレイしていたはずの俺自身のことはすっぽり抜けている。キャラの名前も実はノアール以外覚えていなかった。幼女の名前はステータスで確認できたけど――あの時騒がなかったら本当にきれいさっぱり忘れてたんだろうなあ。あぶないところだった。
なんか可哀想なものを見る目で見られてますが、本人平気ですよ? そういう感情消されてるからね!
これから得るモノには、失くしたら悲しめるような愛着が生まれるといいんだけど、どうだろう? 【精神
「家のある場所は分かるか? どっちの方から来たんだ?」
黙っていた大男が口を開く。まあ、幼女視線で見ると二人とも大男なんだけど、ハティと比べてもだいぶ大きいし、厚みもある。いいなぁ腹筋胸筋。
「場所はわからない。それに今帰っても何もないから」
食器と家具を買いたい。魔素を稼いでご飯を出したい。
「村まで――いや、町まで送ってゆこう。多分、君の容姿では村では落ち着けないだろう」
俺の頭をぽんぽんっと叩いて言うハティを見上げる。
「いいの?」
横で筋肉さんが物好きだなこいつって顔をしてるんだけど。
「連れてって大丈夫か? 怪しすぎんだろ。まあ、さすがに荷物もねぇガキ独りを置いてったら寝覚めが悪ぃけどよ」
俺もそう思う、黒髪筋肉さんに同意です。
「カバラの迷宮都市には知人もいるし、私も君もしばらく滞在することになる」
「あてにすんじゃねぇよ」
多分俺のことを監視できる期間があるってことを言外に言っているんだろうけど、それより聞き捨てならない魅惑の単語が!
「迷宮都市?」
それはあれですか、魔素を求めて殺戮自由でお金儲けができる的なあの自己責任の? 有名な? ダンジョンです?
「迷宮都市っつーのはあれだ、迷宮を経済の中心に形成された都市だ。いくつかあるが、カバラはデカイほうだな」
「依頼で中層まで潜ることになったのですが、この男も同じ依頼で呼ばれていてね」
道中、途中で一緒になったんですよとハティが続ける。
「カディモンドだ。めんどくせぇことすんなよ?」
「
「さんはいらねぇが、なんでそっちで縮める」
日本人だからです。さっきハティにも名乗ったけれど一応改めて名乗る。幼女の名前は自分で言っててあんまり馴染まないんだけどな。
「カディと呼ばれると怒るだろうに」
「てめぇとセットで扱われるからだろうが! 依頼のために呼ばれてるのか、てめぇと比べるために呼ばれてるのか分かりゃしねぇ。うっとうしい」
ああ、ハティとカディ似てるね!
「依頼? 騎士じゃないの?」
冒険者ギルド的なところからのお呼び出しですか?
「俺は魔物狩って生計立ててる戦士」
「私は騎士だけれど、まだ主を持っていないんだ。仕えるべき相手を探す途中、実績を積むために討伐依頼をこなして歩いているところかな」
え、騎士って世襲とかじゃないの? 探すの、主?
「普通の騎士は生まれ育った場所の領主やツテを辿って売り込むんだがな、コイツは選り好みしてんだよ。それができる力も名も持ってる」
騎士の就職活動……っ!
「比べられるカディも強い? ――カディモンド」
不機嫌そうにしたので言い直したのだが、言いづらい。なるべく明瞭に聞こえるように頑張ってるけど、口が小さいんだよ! お口が回らないの! カディが嫌なら主水でいいだろう主水で!
「――カディでいい」
カディの方だった。く……っ。
「カディモンドは強いよ。国から名指しで依頼が来るくらいには」
くつくつと小さく笑いながらハティが言う。
「これもやるから大人しくしてろ」
仏頂面でカディが飴玉をくれた。ニッキ味? 甘いけどちょっと辛い。
そういうわけで馬の上です。移動速度は格段に上がったが、楽かどうかは微妙。結構揺れる、ハティもカディも涼しい顔をしているので慣れれば大丈夫なのかもしれない。
「小鬼がいますね、少し速度をあげますよ」
そう言って馬の腹を軽く蹴るハティ。どこにいるのかと【気配探索】を使ったら、さっき倒してたゴブリンがちょっと離れた場所からこっちを目指して走ってくるのを見つけた。どうやらゴブリンではなく小鬼だったようだ。
よし、魔素集め再開!
「【ウィンド】、そして【ウィンド】」
二匹分の魔素ゲット。
「その歳で魔法を?」
「はい」
最初から杖持ってるじゃないか。けっこう節穴? 杖というより二十センチくらいのワンドだけど。
「一撃かよ……」
カディが信じられないとでも言うように口ごもる。
魔法特化の極振りに近いことやってたからなぁ。
ノアールは極振りなんだけど、実は幼女は極振りじゃない。何故なら極振りにすると毒を踏んだだけで死ぬから。ちょっとだけ生命を高くして安全をとった。それでも守ってくれる盾がいないと、ゲームを進めるのは無理だったはずなので親しい誰かがいたのだろう。
「魔力切れは大丈夫なのですか?」
道中【気配探索】で引っかかる小鬼を片っ端から【ウィンド】で狩っていたらハティにまた聞かれた。
「大丈夫」
馬に乗ってるからね! 移動もないし、魔法の届く範囲に次の小鬼を見つける前に全回復ですよ! 幼女がやばいのは
「そうですか……」
すごく困惑されてるんだがやっぱり才能のSは伊達じゃないのかな? 便利だしまあいいか。
「俺は何で見えない小鬼の方向が分かるかのほうが気になるんだがな」
【気配探索】であたりをつけて、目視しないまま放ってました。よく考えたら森の木々で隠れて見えないのもいたね、きっと!
馬に揺られながらハティに色々な事を聞く。
問答無用で倒した方がいい魔物は赤い目をしていること、他の色もいるけどそっちはちょっかいを出さなければ滅多に襲ってこないこと、馬や牛型の魔物は慣らして労働力として使役することもあること。
魔物の素材は利用できるものもあり、ものによっては高く売れること。
小鬼には利用できる部位はないけど、人里に近いところで増えることが多い魔物なので、駆除依頼が出ている時は倒して指定部位を持ってゆくとお金がもらえること。
魔物の強い個体は魔素が凝った魔石が体内にできることがあり、それが一番高く売れて、魔法を閉じ込めたり、魔力を回復したりするのに利用されるそうだ。
色々常識が不足していて森に一人でいた幼女なんて、あやしさ満載物件なのに親切に教えてくれる。
俺のほうもほいほいくっついて来たわけだけど、外なので神域にすぐ帰れるという保証がある。それに二人はいい人だ、ご飯くれたし。
ただ、【鑑定】は使えずにいる。何となくだが使うと離れていってしまうような気がしたので。オネェは【鑑定】というスキルも普通はないって言ってたし分かるわけないんだけど、本当になんとなく。この二人はなんか勘がよさそう。
二人が行くのはカバラのダンジョン中層、そこにいるレッサードラゴンを狩って角を持ち帰ることが依頼だそう。
レラリア王国からの依頼で、広く求めてはいるものの
で、狩って来れそうな面々に指名依頼を出した、と。目的は角を得ることなので、依頼を受けた者同士で協力も可なので今回は二人でこなす予定だそうだ。
「カバラで同じ指名依頼を受けた連中、特に魔法使いに会えりゃ万々歳だがな」
「今回他の指名は爆炎の魔女殿と大斧のバルグ殿だそうですよ」
「バルグか。じゃあ、あの事故は
「足止めでしょうね。先行して爆炎の魔女殿とパーティーを組んで、腕のいい案内人を捕まえていれば先を越されるでしょう」
なんだか依頼を受けた同士で争いがある様子。
「案内人?」
「荷物持ちと道案内、魔物の情報。戦闘には加わらないで危なくなったら逃げるのが普通ですね。腕がいい方は罠の解除や戦闘後の回復もしてくれます」
「へぇー」
ああ、ダンジョンがあるなら【水】じゃなくってマッピング能力もらえばよかったか?
戦闘能力は低いけど、逃げ足が速くって気配を殺すのが上手い。預かった回復薬なんかを運んで行って、帰りは素材を運んで帰ってくる。お金の他に、帰り着いた時に運んでいたモノの一割が報酬になるのが普通だそう。
戦況が不利なら依頼人を見捨てて逃げて、持ち帰ったモノは全部案内人のモノになる。代わりに後から依頼人が生きて戻ったら、依頼料も荷物も全部返して、評判も落ちて次から依頼料が減るって。
「中層まで行ったことあるやつは少ねぇだろうし、何より出遅れてるからなあ」
「たいへんだね〜」
ぼやくカディを横目に気のない返事をしながら小鬼を倒す。
さすがにこのレベルで中層までついて行く気はないよ!
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