第八話 同じ仲間


 8


 十二月十八日。夕方。


「諏訪くんも誰かの身代わりになっていたなんて驚いたよ」


「それはこっちの台詞だ」


 この日も放課後に川原へ足を運び、幸野と会っていた。


 昨日は互いに身代わりになったことを打ち明けて帰宅。本当はもっと踏み込んだ話をしたかったのだが、幸野がなかなか信用してくれず、身代わりになったことを証明するのに手間取った。


 最初は身代わり石のことや走れなくなったことを話しても疑い続ける幸野だったが、夢から覚めたら一年前にタイムリープしていた点は彼女も同じだったようで、その話をしてようやく信じてもらえた。それと巫女らしくない巫女さんの話も信憑性を高めてくれたようだ。


 そういうわけで、今日は幸野に色々と訊こうと思って来たのだが……。


「諏訪くんは誰の身代わりになったの? どうして身代わりになったの? 走れなくなるってどういう感じなの? 急にトイレ行きたくなった時、間に合うの?」


 一方的に質問攻めされている。


「千秋だよ。身代わりになってまで助ける人物なんて恋人しかいないだろ」


 訊かなくても分かるだろうと思いきや、幸野は「え、千秋って片岡さんのこと? 付き合っていたの?」と驚いていた。その反応に僕が驚く。


「知らなかったのか?」


「知らないよ」


「…………」


 僕と千秋はクラスの中で目立っていたし、同じクラスメイトなら嫌でも耳に入ると思っていた。身代わりになる前の、学校に通っていた頃の幸野なら僕と千秋が付き合っていたことを知っていてもおかしくないはずだった。もしかしたら、僕がサッカー部にいたことも自信なさげに答えていたし、身代わりになる前から不登校だったのかもしれない。


「千秋が交通事故に遭って、意識不明になった彼女を助ける為に身代わりになった」


 幸野は「それで足が……」と車に轢かれた猫を憐れむような目で僕の足を見る。


「逆に幸野は誰の身代わりになったんだよ」


 僕がそう訊くと、幸野は「うぇえ!?」と奇声を上げた。


「私? 私は教える必要なくない?」


「なんでだよ。こっちだけ教えて不公平だろ」


「うぅ……」と呻く幸野だったが、ジッと顔を見ているうちに観念したらしく、ボソッと小さな声で口にする。


「……葛本くん」


「なに? 聞こえない」


「葛本大地くんだよ!」


 幸野は羞恥心を誤魔化そうと大きな声で、叫ぶように言った。


 大地? あの大地が幸野と付き合っていたのか?


 まぁ、この世界線では千秋と付き合っているのだから、ありえなくはない。別にルックスが悪いわけでもないし、どちらかと言えば大地もモテる方だった。サッカー部でも活躍していたし……。


 でも、想像できない。僕の記憶にある大地は活発で元気な姿しかない。


「身代わりになった代償で心臓の病気になったのなら、幸野が身代わりになる前の大地はどういう状況だったんだ?」


 千秋が交通事故で意識を取り戻さなかったように、大地の身にも何か起きていたはずだ。それも身代わりの代償として命を差し出さなければいけないほどの何かが。


「今の私と同じだよ。元々、葛本くんは心臓の病気で、学校にはあまり来なくてね。身代わりになった時は驚いたよ。夢が覚めたら病院のベッドの上で、しかも一年前にタイムリープしているんだもん」


 笑いながら話す幸野は、とても命を差し出して身代わりになった人間とは思えない。


「大地の病気がそのままうつったようなものか」


 身代わりになる相手の状態によって代償も様々なようだ。


「それで……諏訪くんはこんなところにいて大丈夫なの?」


「今更、どうしたんだよ」


「だって片岡さんと付き合っているのなら、ここにいるのまずいんじゃ……」


 居心地が悪そうに話す幸野は「あっ、私が諏訪くんとそういう関係になれるとは思っていないよ! 私、全然魅力ないし! でも、誰かが勘違いして噂になる可能性もあるかも……的な?」とあたふたしながら話す。


 魅力ないと卑下するような言い方をしているが、千秋と恋人のままだったら確かに二人でいるのはまずかっただろう。今はそんな心配する必要もないわけだが。


「もう千秋とは付き合っていないから心配しなくていい」


「え? 別れちゃったの? どうして?」


 言葉を詰まらせる。もう千秋のことも思い出したくないし、一から説明するのはなかなか辛いものがある。


「それが身代わりになった代償だから」


 濁した回答。正確にはニュアンスが若干違うが、さほど変わらない。


 しかし、幸野はそこを突いてくる。


「走れなくなったのが代償じゃなかったの?」


 夢見がちな自分を捨てた、なんてもっと言いたくない。


 幸野には適当に「僕に訊かれたって分かるわけないだろ」と誤魔化しておいた。


「というか幸野だって似たようなもんじゃないのか」


 この世界線では千秋と大地が付き合っている。身代わりになる前の世界線でも大地は幸野と付き合っていなかった。きっと走れなかったことで過去が変わった僕のように、幸野も病弱になったことで過去が変わり、大地とは他人になってしまったのだろう。


 と、思っていたのだが――。


「同じ? どういうこと?」


 首を傾げる幸野に肩を竦める。


「幸野も身代わりになって、大地の恋人じゃなくなったんだろ?」


「元から葛本くんとは付き合ってないよ」


「は?」


 最初、幸野が何を言ったのか理解できなかった。


「付き合ってもいないのに身代わりになった……のか?」


「そうだよ」


 幸野は「何当たり前のこと訊いているの」といった顔で答える。


「だったら、どういう関係だったんだよ。恋人じゃないのに身代わりになる関係って」


「どういう関係も、私が一方的に想いを寄せていただけで会話したこともないよ。……あ、授業でなら何回か話したことあるよ」


 笑いながら話す幸野を見て、僕はゾッとした。


 好きだから、と言って――恋人や家族でもないのに命を捨てられるのか?


 僕が言葉を失っていると、幸野は「おかしいかな」と微笑みながら訊いてくる。


「おかしい。絶対におかしい」


「やっぱりそうかな。でも、自分が生きるより彼が生きてくれた方が、私は嬉しい」


 白い歯を見せて満足げに笑う幸野の前で、僕は頭を抑える。ついていけない。夢見がちだった僕よりも壊れている人間が目の前にいる。


「……後悔してないのか?」


「してないよ。後悔しようがないもん」


 僕から顔を逸らして、川の流れを見ながら幸野は話す。


「私、友達はいないし、家族とも仲悪いし、将来の夢とかもないし、意味のない人生を過ごしてきたの。だから、私の命を他の人の為に使えたらいいなって昔から思っていたんだ」


 幸野の言っていることは分かる。


 だけど、彼女と全く結びつかない。


 外見だけ見れば、友達は多そうだし、箱入り娘のように大切に扱われてきたような気品がある。見た目の割に言動はちょっとズレているが、どちらかと言えば楽観的な性格に見えるし、少なくともあんな自分を卑下するようなことを言い出すタイプではないと思っていた。


「どうしたの? 変な顔をして」


 黙り込んでいる僕の顔をまじまじと見る幸野。


「いくら自暴自棄になっていたからって、会話もろくにしたことがない友達未満の人間を助ける為に命を差し出すなんて理解できない」


「諏訪くんは理解できなくても私の命なんだから私の自由でしょ」


 呑気な口調で反論する幸野は、棘のある言葉にもノーダメージの様子。


「私はむしろ諏訪くんの方が心配なんだけれど」


 そして、この余裕である。


「心配? 何が?」


「片岡さんを助けようと身代わりになったのに恋人じゃなくなって……大丈夫なの?」


 身代わりになってから初めて人に心配された。誰にも打ち明けられず、誰にも理解されないまま一人で抱えていかなければいけないと思っていたのに。だから本音を言えば、嬉しかったし、同情もしてほしかった。


 だけど、僕は「大丈夫」と答えた。


「千秋が助かるのなら命だって惜しくなかった。これくらい覚悟していたさ」


 誰かに打ち明けるくらいなら、一人で抱え込んでいるべきだと思った。慰めの言葉を貰ってしまったら、それで終わってしまう気がする。


 幸野に打ち明けたところで、千秋と縒りを戻せるわけでも、再びサッカーができるようになるわけではない。僕は慰めの言葉が欲しくて身代わりになったわけではないのだ。


 相談できる相手がいる不幸でも何でもない人間になってしまうより、一人で悩みを抱え込んだまま「いつか報われるかもしれない」と自分に言い聞かせていた方が精神的に楽なように思える。本気で報われるなんて期待しているわけではないが。


 それに同い年の女子に弱音を吐くのも男としてプライドが許さない。自己嫌悪に陥る可能性だってある。身代わりになったことを後悔していない幸野に打ち明けるとなれば尚更だ。


「じゃあ、私達は仲間だね。好きな人の身代わりになった者同士、仲良くしようよ」


 無邪気な笑顔を見せる幸野のことを仲間と呼び合えるほど僕は純粋ではない。


 彼女に対して、不快感を覚えたのはこの時が初めてだった。


 僕と幸野は違う。


 仲間じゃない。


 後悔していないと言い切れる幸野が羨ましくて――、


 僕は、幸野綾香に嫉妬していたのだ。



 それからも川原へ足を運び続けた。


 幸野は相変わらず身代わりになったことを後悔する素振りを見せない。僕が「生きていたら、大地より良いと思える相手が見つかったかもしれないのに」と遠回しに後悔させようとすると、異常なほど卑屈になる。「私は何も取り柄がない」だとか、「音痴でカラオケにも行けないし、料理すらできない私を好きになる人なんていないよ」など。


 どうやら幸野は自己肯定が低いようだ。顔は可愛いし、普通に話している分には性格も明るい。男子から言い寄られてもおかしくないのに、何故こんなに卑屈なのか不思議である。


「彼が幸せなら」と割り切って男に金を貢ぐ女がこの世にいるらしい……というか家族にいるが、それに近いのかもしれない。僕はどうしても彼女に「後悔している」と言わせたくて何度も誘導し続けるが、彼女の口からは僕の感情を逆なでするような言葉ばかり出てくる。


「私の分まで長生きしてくれたら、それでいいの」


「彼が助かるなら他に何もいらない。だから見返りなんていらないよ」


 綺麗ごとばかり言う幸野に僕の嫉妬心が渦巻く。なんでお前はそんなことを平然と言えるんだ。死ぬのが怖くないのか。本当にこのまま死んでもいいのか。


 身代わりになる前の自分を見ているようで、自己嫌悪に陥る。自己犠牲を漫画やアニメと同じように美化して考えていた頃の自分と幸野が重なってしまう。メルヘンチックというか現実が見れてない彼女に苛立ちを覚えて、少しだけ姉の気持ちが分かったような気がする。


 幸野が身代わりになってなければ、今も大地は難病を患わっていた。幸野の話から考えれば、サッカーなんて出来るはずがない。大地からサッカーを取り除いたら何が残る? きっと今の僕と同じように落ちこぼれになっているはずだ。そんな大地が千秋の恋人として務まるとは考えにくい。つまり幸野が身代わりにならなければ、千秋と大地が付き合うことはなかった。


 幸野に対する黒い感情がどんどん募っていく。ほとんど会話をしたことのない人間を助ける為に命を差し出すなんて、そんなの恋でも自己犠牲でもない。ただの自己満足だ。


 自己犠牲を恋だと勘違いしている馬鹿のせいで、千秋を大地に取られた。


 そう考え始めたら、もう止まらない。


 心の中でひたすら八つ当たりの言葉を叫ぶ。


 お前さえいなければ、こんなことにはならなかった。人の恋を邪魔して、お前だけ自己満足に浸って死ぬなんて卑怯だ。


 このまま幸野が死んだら、夢を捨てた僕は永遠に彼女を妬み続けることになる。


 それだけは――絶対に嫌だ。



 十二月二十六日。昼間。


 この日は幸野に連れられて遊園地に来ていた。


「クリスマスにどこか行こうよ」と前からしつこいぐらい誘われていたが、クリスマスである二十五日は終業式だったこともあり、今日になった。


 川原以外で会うのは今日が初めてで、待ち合わせ場所に現れた幸野は少しだけ新鮮に見えた気がする。


「人生最後の遊園地になるかもしれないけど、今日はよろしくね」


「……謎のプレッシャーをかけんなよ」


 こうやって遊びに誘ってくる辺り、本当に友達がいないようだ。あれだけ理解に苦しむ価値観を持つ幸野でも寂しさはあるらしい。


 だから、きっと後悔する余地も残されているはずだ。


 遊園地の入場ゲートを通り、手招きしながら一人突き進む幸野の後を追った。


 幸野はジェットコースター等の絶叫系が苦手らしく、どこにでもあるようなメリーゴーランドや気球をモチーフにした上下にゆっくり動く乗り物といったアトラクションばかり選ぶ。絶叫系が好きな僕にはどれも物足りず、心の中で不満を漏らしながら彼女の後ろをついていく。


 コーヒーカップから降りたところで、幸野が「ちょっと休憩しよう」と言って近くにあったベンチに座った。


「やっぱり家にいた方が良かったんじゃないか?」


 彼女は病人。落ち着いていると言っても普通の人と比べたら体力が落ちている。


「大丈夫だよ。十月に死ぬんだし、それまでは死なないよ。多分」


 軽く笑う幸野は無理しているようにも見えた。


 幸野がベンチで休んでいる間、僕は周りにあるアトラクションを眺めていた。


 どの列にもカップルが並んでいて、皆幸せそうに笑っている。まるで「自分達の恋は周りとは違う」とでも言いたげで、苛立ちが募る。


 この世に特別な恋なんてない。ただ、たまたま近くにいて、運命の相手だと錯覚しているだけである。僕と千秋がそうだったように。


 身代わりになってから、カップルを見る度にそう思うようになっていた。走れなくなったように、考えまでも変えられているのかもしれない。幸野の考えを否定することに固執しているのも、それが原因かもしれない。


「片岡さんと来たかった?」


 不意に幸野が訊いてきた。カップルを目で追いかけているのをバレていたらしい。


「別に。幸野こそ大地と来たかったんじゃないのか?」


 幸野の顔を見ずに言い放った。


 しかし、優しい声が返ってくる。


「ううん。そんなことないよ」


 その声につい彼女の方へ顔を向けてしまう。


「私は諏訪くんと来れて良かったって思っているよ」


 純粋な笑みを向けられた僕はなんて返せばいいのか困り、「あ、そう」と顔を背けながら言った。


 幸野は自分の状況を理解しているとは思えない。つい数週間前に出会った男子と遊園地に来ている場合ではないだろう。


 その後も休憩を挟みながらアトラクションに乗っているうちに閉園時間が迫っていた。


 最後に幸野の提案で観覧車に乗ることになり、二人を乗せたゴンドラが上がっていく。


「諏訪くん、今日は来てくれてありがとう」


 にっこり微笑む幸野を見て、否定したい気持ちが強くなる。


「なぁ、本当にこんなのでいいのか?」


「いいのかって何が?」


「あと一年も生きられないのに僕なんかと過ごしていていいのかって。葛本のことが好きなら、死ぬ前に告白したら?」


 そしてフラれて後悔しろ、と心の中で付け足す。


「いいよ。死にかけの私が告白したって迷惑なだけだし」


 俯きながら、それでも小さく笑う幸野。


「命を救ったのに告白もしないなんて……あとで後悔しても知らないぞ」


「前にも言ったけど、後悔はしないよ」


 幸野は僕の顔を見ながら言い切る。一瞬、本心がバレているんじゃないかと焦るほど眼力のある表情。


「……なんで後悔しないって言い切れるんだよ」


 僕が弱々しい声を出すと、幸野は「うーん」と数秒考えてから、こう言った。


「私ね、サガリバナに憧れているんだ」


「サガリバナ?」


「サガリバナはね、一夜しか咲かない花で、幻の花と呼ばれているんだよ」


 花に憧れた? 言っている意味が分からない。


 幸野と会話すればするほど、彼女の考えを否定したくなる。


 これが身代わりになった代償のせいなのか、単に幸野に八つ当たりをしたいだけなのか分からない。でも、幸野という夢見がちのまま人生を全うする成功例を知ってしまったら、僕は前を向けなくなる。同じ身代わりになった人間なのに、僕は報われず、命を差し出した幸野はこれでいいと言う。それでは、一人傷ついている僕が滑稽ではないか。


「無意味な人生を過ごして一生を終えるぐらいなら、好きな人の為に死んだ方がいいでしょ」


 自分のことを不幸だと思っている人間の前に、自分より不幸な人間が現れて「私は幸せです」なんて言われたら、その人の不幸は不幸でなくなるのではないか。


 夢を捨てた僕の苦しみが不幸ですらなくなるのなら、この苦しみは一体何になるんだ。どうせ不幸なら中途半端な救いなんていらない。不幸なら不幸と自信満々に言わせてほしい。幸野が後悔していると言ってくれれば、僕だって素直に後悔していると言える。


「私が死ぬことで彼が助かる。無価値だった私の人生が死ぬことで価値のあるものに変わる……そう考えると、私の人生ってサガリバナみたいだよね」


 頼むから――これ以上、狂った綺麗ごとを言わないでくれ。


 でも、幸野は穏やかな顔で、僕の顔を見据えながら言い切る。


「だから、絶対に身代わりになったことを後悔しないよ」


 あぁ、駄目だ。


 このまま幸野綾香が死んでしまったら、僕はいつまでも彼女を妬み続けて生きていくことになるだろう。


 もう、身代わりになったことを後悔してほしい、なんて話ではない。幸野綾香には現実を叩きこまなければならない。八つ当たりだろうと、どうせ一年後には生きていないんだ。


 僕は、自分の為に幸野綾香を潰す。


 ――彼女が抱いた馬鹿らしいほど純粋な願いを踏み潰してやる。



 観覧車から降りた後、僕達は無言のまま遊園地から出た。


 駅までの道をしばらく歩いていると、後ろから幸野の声が飛んできた。


「今日は人生で一番楽しい一日だったよ。本当にありがとう」


 僕は歩きながら、「大袈裟だな」と心を殺して言う。


「大袈裟じゃないよ。……私、今まで友達いなかったから……」


「……じゃあ、死ぬまで一緒にいてやろうか」


「え?」


 振り返り、幸野の目を見つめながら、言った。



「僕と付き合わないか」



 そこまで他人の為に死ねることに憧れているのなら、試させてもらおうか。


 今日から僕が幸野にとって一番大切な人間になってみせる。


 大丈夫、幸野の知っている僕は身代わりになる前の順風満帆だった頃の僕だ。


 幸野だって孤独に耐えられなかったから、こうやって誘ってきたんだ。この機会を逃せば、誰にも愛されないまま死ぬ。彼女にとってはラストチャンス。


 今の僕でも幸野を落とすことは不可能ではないはずだ。


 本当に幸野綾香がサガリバナに憧れていると言うのなら、


 来年の十月までに、僕が彼女の人生で最も大切な人間になって、



 今度は僕の夢を取り戻す為に――もう一度、身代わりになってもらおう。

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