第4話

 鍛錬の場は寝床と定めた洞窟付近の広場である。

 ゴツゴツとした岩山の中央に開いただだっ広い空間。この場は最初からこうだったわけではなく自作の鍛錬場だったりする。


 前置きが長くなってしまったが、そろそろ始めるとしよう。


 まずは準備運動としての柔軟体操である。

 関節の可動域を確認しつつ、全身の筋肉に『魔法』をかけながらゆっくりと伸ばしていく。


 弛緩と緊張を繰り返して身体を解し、魔力で強化しながら負荷をかけるのだ。

 それが終われば、その場で飛んで跳ねてと体を暖める動きに移行する。


 十分に暖まったら突きや蹴りなど格闘の基本動作だ。


 竜の肉体は格闘戦に向いているのだろうと思う。

 力任せに殴る、蹴る、掴み、投げるだけで相当なものだろう。

 更に鋭い爪や牙、強靭な尻尾という人にない武器も備わっている。この使い方を研究しているがまだまだ先がある。人間の武術とは違う『竜の武術』が創れそうだ。



 ただ爪を振るうのではなく、弛緩と緊張の瞬間的な切り替えを意識し角度を選んで切り裂くように放つ。

 イメージはナイフ。突きは刺すように、引っ掻く際は鎌を連想する。


 牙も有効活用する。噛みつくだけでなく投げ技をしたり、ワニのデスロールなどをイメージしてみた。


 尻尾を鞭のように振るう。尾の筋肉をフル活用させ、蹴りと突きのイメージを切り替えて使いこなす。

 いつか手足と変わらぬくらい動くようになれば良いのだが。


 このようにドラゴン特有の動きも可能になった。

 きっと前世より幅のある戦い方ができるはずだ……使うような相手がいるかどうかは別として。



 次に身体負荷と身体強化の魔法を同時に使う。

 強化は掛けている部分をより強靭に成長させる。生まれてまだ十年もない俺にはかなり有用であり、成長期の今しか効果がないらしい。

 また負荷はより強靭な肉体に成長するための魔法でもある。これをかけることで身体が負けじと強く成長するらしい。

 そして、これは同時に魔法の訓練にもなる。


 最初は同時に2つの魔法を使うことが出来なかった。

 無理に2つを同時に使おうとすると、どちらかが上手くいかず、無理やり使おうとすれば魔法が失敗してしまった。

 どうやら俺は不器用な竜らしい。それぞれを程々にやって両立させるといったことが出来ない性分らしい。……まあ、それだけではないのだが。


 最初は一つだけを行い、その維持に努めた。肉体の鍛錬を並行したのは維持が完璧になってからだ。

 それから訓練を重ねて同時使用出来るようになり、最近は肉体弱体化を新たに重ねた状態で魔法の維持に努めるようになった。


「き……キツイ!」


 しかし今でもこの状態を維持しながら動くのはキツイ。

 いつもならば一日中ぶっ通しで動き回っても平気なのに、これを使うとすぐに倒れたくなる。


「ま……負けるか!」


 疲労感に耐えながら先ほどのトレーニングを行う。

 時間はざっと一時間ほど。疲労がピークになると同時に倒れ、いったん寝床に戻って回復。その一時間後、もう一度訓練を行った。

 それを繰り返すこと5回。もうこれ以上出来ないと体が悲鳴をあげたところで切り上げた。


「こ、これで……今日も……今日もぐっすり……ね、寝られる」


 マグマに浸かって今日もまた惰眠を貪る。

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