第3話

 ドラゴンの身体能力はとてつもなく高い。


 人間と比べるのが烏滸がましいスペック。だからずっと寝てると体力があり余ってしまい。こうして発散させる必要があるのだ。

 具体的には勉強したりトレーニングして疲れさる。

 どうやら俺は生前凝り性だったらしい。普段は惰眠を貪っているだけだが、活動する時は倒れるまでやった。

 何よりも疲れた後の睡眠は最高だ。時間を忘れてぐっすりと快眠することが出来る。


 現在の訓練メニューとしては柔軟体操、筋トレ、シャドーボクシングといったところである。


 万象を感知する能力と感覚器官、どんな敵でも屠れそうな魔力と身体能力を有するドラゴンに訓練など必要ないように見える、


 実際、鍛えなくてもこの肉体は十分な力を秘めている。では、なぜこんなことをしているのか?

 先ほど述べた通りに肉体を疲れさせるというのもあるが、もう一つ切実な理由がある。それは今の身体を上手く使うためだ。


 なにしろ私は元人間である、その為身体を動かす際にどうしてもそちらのイメージに引き摺られてしまう。

 ましてや今の身体はドラゴンだ。人間のソレとは大きく違う。故に大きな齟齬が生じている。


 特に酷かったのは生まれたばかりの頃。俺は禄に動くことすら出来ずに地面を蛇のように這いずり回った。

 赤ん坊からリスタートした気分だ。生まれた頃から立ち歩くほどの筋力が揃っているというのにうまく扱えなかった。


 そして、何とか身体が使えるようになった今も不便な点は存在する。

 例えば、宝石があったので掴もうとすると体温で溶かしてしまったり、走ろうと思ってクラウチングスタートした途端に地面が陥没したりなど、色々な失敗をした。


 この様に慣れ親しんだ自身の体以外を完全に扱うのは意外と難しい。

 しかしまだドラゴンなだけマシというものだろう、これがもし虫や魚だとしたら……想像もできない。

 とまあ、今世ではそれなりに不便な点もある。


 まあ、そうは言ってもいまのところ日常に不便を感じる程度だ。相手がいれば笑い話のネタにもなるだろう。

 だが、戦闘になればそうはいかない。


 今のところトレーニングする程度だ。戦闘なんて一度も経験していない。正直、この肉体で負けるイメージすら沸かない。

 だが、それは俺が外に出たことがないからだ。もしかしたら俺を超えるような上位の生物がいるかもしれない。

 

 別に俺は少年漫画の主人公みたいに最強を目指しているわけではない。むしろ、そんなものは御免だ。


 俺が求めるのは平穏。誰にも脅かされず、誰にも侵されず、誰にも汚されない俺だけの世界。それだけを俺は求めている。

 そのためには力が必要だ、俺に触れようとするものは何者であろうとも叩き潰す力が。そのために俺は強くなろうとしている。


 かくして今日も鍛錬に精を出す。

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