第18話 幼女、本気出す

ウラディミルの種族、バトルオークは戦闘に特化したオークである。


他のオーク族はでっぷりとした体型であるのに対しバトルオーク族は全身が筋肉に包まれており、且つ簡単な道具や畑を作る等他のオーク族と比べて知能が高い。然し、高い戦闘力の代償として繁殖力が低く個体数が少ないのが特徴だ。


そんな種族のとある村で族長の息子として生を受けた彼は、生まれつき他のバトルオークより知能も身体能力も優れていた。


初めての狩りでその才覚を発揮し、あれよという間に次期族長として祭り上げられ、族長である父にも認められた。


族長の座を継ぎ、その際に己の心意気を語った。するとそれ迄ウラディミルに対してあまり良く思っていない者も心打たれたのか、渋々ながらも認めてくれた様であった。


族長となったウラディミルは、村の為にその発達した知能と身体能力を存分に振るい、戦闘能力が低い者を守ったり村の脅威を排除する等貢献していった。


そんな生活を続けていると、何時しか「王種キング」と呼ばれる進化を経て「帝種ロード」になっていた。


その進化を村の者達に祝われていた時、突然村に人間の様な体躯の何者かが現れた。


その者はウラディミルに己の軍に一時的に入って戦わないか、と持ちかけた。


当初はその気は無いと断っていたが、その者は知恵を対価として提示してきた。なんでもより効率的な畑の作り方や狩りの方法を教えると言うのだ。


最近、豊かになり過ぎて村民が増えて食料に困り始めたバトルオーク達はその条件を飲んで戦争に参加した。


然し、ウラディミルはたった一人の人間の少女に仲間が次々と蹴散らされる光景を見てその選択を後悔した。


仲間を下がらせ、少女に殺気を送るとピタリと虐殺の手を止めて此方に振り向く。


少女と目が合った瞬間、全身に寒気が走った。


絶対に勝てないと感じたウラディミルは直ぐに残った仲間に撤退の指示を出し、己が時間稼ぎ徹する覚悟で少女に話しかけた。


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ウラディミルの速さに思わず蹴りを放ったハクノは、まぁいいかと本気である蹴り主体の戦法に切り替える。


本来ハクノは蹴り技を得意としていた。これ迄拳で闘っていた理由は単純、蹴りだと加減ができない。否、したところで下限が高過ぎるからだ。その判断は正しかった様で、その証拠に十分に手加減して先程の威力だ。


あの巨体で防御姿勢をとったにも関わらず、十メートル以上吹き飛んだのだ。


それだけではなく、音もだ。音速に到達したハクノの脚は、轟音とソニックブームを撒き散らした。もしシキとの組手でこれ程の大音量を放てば、獣耳を持つ彼女には相当なダメージがいくことになる。そうなれば最悪、暫く口をきいてくれない事になるかも知れない。そう考えると軽く絶望感さえ湧き上がる。


これからも気をつけようと改めて再認識し、振り上げたままだった脚を戻して相手の出方を窺う。


ダメージから立ち直ったのか、ウラディミルが立ち上がる。その瞳の奥の炎は未だ健在であった。


「『ウスコリーニ・ウクレプリーニ』ッ!ウオオォォォォォォォォォォォッ!」


ウラディミルが吼え、先程とは比較にならない程の加速で迫る。


瞬く間に距離を詰め、振り下ろされた剣は確かにハクノを捉えた。然し手応えは皆無。


「ハズレだよ」


ハクノの声がウラディミルの後ろから聞こえる。


ウラディミルが斬ったのは、ハクノが殺気を纏わせた残像であった。


ウラディミルは加速の段階を上げ、ハクノに攻撃しようとするが、トンッ、と踏み込み一瞬でウラディミルの懐に入り込んで剣を弾く。


追撃を恐れたのか、ウラディミルが大きく跳び退る。


然し逃がさない。


直ぐに追いついて連続で蹴撃を浴びせる。


ウラディミルは防御するが、ハクノの攻撃は着実に体力を削っていく。


苦悶の表情を浮かべるウラディミル。対するハクノは満面の笑み。


ハクノは昂る心に比例するかの如くギアを上げていく。


脚と大剣がぶつかり合う度に大質量の金属同士を打ち付けた様な音が響く。


最早他人からは暴風が吹き荒れているようにしか見えないだろう。


だが、そんな時も長くは続かなかった。


ウラディミルの剣が幾度もの負荷に耐えきれず、遂に根本からへし折れたのだ。


ハクノが凶器を突きつけると、「最期に、良いだろうか」とウラディミルが口を開く。


「何?」


「我はどうなろうと構わん。だが、戦う意思のない我の同胞は見逃してもらえないだろうか」


それを聞いたハクノは即答する。


「いいよ。この名とボクの信じる神に誓って無抵抗な者に手は出さない」


キッパリと言い切ると、ウラディミルが満足したように眼を瞑る。


「キミは、いい戦士だ。その名、その姿、覚えておこう」


「…………有難う」


ハクノは手を手刀の形にして、ウラディミルの心臓を貫く。苦しまないように、その戦士の姿を損なわないように。願わくば、女神様の御許へ逝けるように。


ウラディミルから腕を引き抜き、その亡骸をそっと横たえる。


己が近くに居るとウラディミルの仲間が近寄れないだろう。そう考えたハクノはウラディミルから離れる。


ウラディミルに縋り付くバトルオークを見て、悪いことをしたかと考えるが、直ぐに否定する。此処は戦場だ。ウラディミルも覚悟して来た。罪悪感を抱くということは彼の覚悟を否定するということだ。


辺りを見渡すと、他のモンスターはシキと之布岐が粗方片付けた様だ。


ハクノは身を翻して街へ戻る。


一人の勇敢な戦士の姿を脳裏に刻みつけながら。


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一方我らが狐娘といえば。


「くはは!良いのぅ!愉しいのぅ!」


嗤いながら刀を振り、大立ち回りを演じていた。

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