第17話 幼女、うずうずする
シキとハクノを見送った之布岐は本格的に攻撃の準備を整える。
「『エンチャント:エクスプロードアロー』」
この状況において効果的であろう、弓で射出した物に爆破属性を付与させ、着弾点で爆発させるスキルを発動する。
「『ファントムシューター』、多重発動、追加詠唱」
更に手数を増やす為に追加でスキルを発動させる。
ファントムシューターは半透明な自分の分身を一時的に生み出すスキルである。それを多重発動で最大15体、追加詠唱で倍にする。
スキルが発動したそこには、半透明の之布岐が30体程並んでモンスターの大群に弓を向けていた。
之布岐は 、大群に不自然に穴が空いている場所以外を満遍なく狙い、弦を引き絞る。
「『弾幕展開』、『スナイピング』、一斉射。──撃て」
之布岐の命令で一斉に無数の矢弾が放たれる。
着弾した矢が大きく爆ぜ、何体ものモンスターを吹き飛ばすのを確認した之布岐は再度斉射の為に用意を始める。
「これは、俺の勝ちかな……」
────────────────────────
ハクノは前方の大群を見て、漸く戦える。と笑みを深める。
如何せんシキや之布岐と違い、これまで実戦を経験していなかったからだ。
スキップをしたくなる程に気分が高揚したハクノは、並走していたシキを追い越し昂ったその心の様に大きく飛び上がって群れの、特にモンスターが密集している場所にスキルを使って突っ込んで行く。
「『メテオフォール』」
スキルの名前通り隕石の様に降下したハクノは下敷きになったモンスターを轢き潰し、衝撃波で周囲を挽肉にする。
着地し、辺りを見渡すと、どうやら此処はオークの様な豚頭人型の魔物を中心に構成されているようだ。
「
唐突に仲間を殺されて怯んだのか、攻めてくる気配の無いオーク共に笑いかけ、一番近くに居たオークに接近し、腕を振り抜く。
肉が弾け飛ぶ感触を拳に感じて顔を顰めるハクノだったが、馴れたらいいか、と気を取り直して拳を振るい続ける。
十数体程追加で討伐した頃に漸くオークらが再起した様で、棍棒や大槌を持って襲いかかって来る。
振り下ろされる凶器を躱し 、受け流し、時には砕きながら蹂躙を続けていく。
合計で百体程殺した時だろうか、有象無象とは明らかに違う質の殺気を感じ、若干飽きつつあったハクノは再び心が昂っていくのを感じる。
その殺気が放たれたと思しき方向に振り向くと、他のオークよりも一回り大きく、ハクノの身の丈以上もある大剣を担いだオークが立っていた。
ハクノは、そのオークを一目見て他よりも強いと確信した。体格や殺気は勿論だが、何よりも剣を持っているというのが最もハクノを高揚させる要因になった。
剣を持っているという事はつまり剣を使う知能があるという事だ。もしかしたら剣術を扱うかもしれない。そう考えると、より己が昂っていくのが分かる。
無意識に唇を舐め、構えをとると大きなオークが流暢に話しかけてきた。
「我が
まさか話しかけられるとは思わなかったので、驚きながらも答える。
「そうだよ。ボクが殺った。で?如何するの?仇討ち?」
「否、同胞も覚悟を持って此処に居た。故に我と貴方は只、敵同士として死合うのみよ」
軽く挑発してみたが、まるで武人の如く返され、やはり有象無象とは違うと再認識する。
「我はバトルオークロード、名をウラディミル!此の身朽ち果てる迄、貴殿と相対さん!」
ウラディミルの戦場に響き渡るかの様な名乗りに、ハクノの実力を理解しそれでも武人として闘う意志を感じ取り、応えるようにハクノも名乗る。
「ボクの名はハクノ!貴殿の覚悟に答え、全力で御相手
目の前の少女の名乗りに己が死ぬ覚悟がある事を見破られていると悟ったウラディミルだが、眼前の少女に恐怖する心を力ずくで押さえつけ、吼える。
「往くぞ!ハクノ!」
「来い!ウラディミル!」
ウラディミルは、その巨体に似合わぬ速さで滑らかに接近する。
その速さはそこらの獣や冒険者では目で追うのもやっとであろう。……然しシキと比べると遅過ぎて逆にハクノに懐に入られる。
それに対しウラディミルは冷静に剣の柄でハクノを殴りつける。ハクノはそれを予想していたかの様に躱す。
それからもウラディミルは目にも留まらぬ連撃を繰り出す。それでもハクノには掠りもしない。ウラディミルの攻撃の全てが避けられるか流されるのだ。
幾度も攻撃を躱され、疲労が溜まってきた時、振り下ろした剣の腹がハクノに殴られ、ウラディミルの上体が泳ぐ。
その隙をハクノが見逃す訳もなく、ウラディミルの鳩尾にハクノの拳が刺さる。
「ぐぅ……ッ!」
数メートル弾き飛ばされたウラディミルは、地面に轍を刻み、口内の血塊を吐き出す。
ゆったりと此方に歩を進める小さくも大きな敵を睨み、バトルオーク族に伝わる『武技』を発動する。
「『ウスコリーニ』!」
すると、先程の何倍もの速さでウラディミルが加速する。
一秒の半分にも満たない時間でハクノとの距離を縮め、全力で剣を振り下ろさんと振りかぶる。
『それ』を防げたのは武技のお蔭だろうか、はたまた奇跡だろうか。
嫌な予感がしたウラディミルは咄嗟に剣を戻し、踏ん張って防御姿勢をとる。
──瞬間、雷鳴にも似た音が周囲に鳴り響き、ウラディミルは何が起きたかもわからずに強い衝撃を手に感じ、弾かれる。
未だに痺れる手と若干罅が入った剣、そして蹴り技を放った後の様な姿勢のハクノを見て理解する。
『蹴りを放った様』ではなく、実際に蹴りを放ったのだ。雷鳴の様な音はハクノの脚が空気の壁を破った音であった。
ゆったりと姿勢を戻すハクノは、邂逅した時とは比べ物にならない程の威圧を放っていた。
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「エンチャント:エクスプロードアロー」
消費MP:50
備考:数あるエンチャント:アロー系の一種。弓等の遠距離武器に爆破属性を付与する。射出された物が着弾すると爆発する。
「ファントムシューター」
消費MP:100
備考:半透明な自分の分身を生み出し攻撃させるスキル。ある程度使用者の命令を聞く。
「スナイピング」
消費MP:90
威力:1600
備考:全スキル中最長の射程距離を誇る攻撃スキル。発動し、狙っている間に非実体の大きい照準器のようなものが現れる。
「メテオフォール」
消費MP:100
威力:1500/300
備考:高く飛び上がり、落下する攻撃スキル。直撃ダメージと衝撃波ダメージに判定が別れている。形はスーパーヒーロー着地。
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