第15話 主人公sオンステージ
ギルドの訓錬場に着いたシキと之布岐はそれぞれの得物を持って向かい合っていた。
得物と言っても刃を潰した訓練用の模擬刀だ。
シキは動きやすいように帽子を脱いでアイテムボックスに放り込み、手に馴染ませる様に幾度か刀を振り之布岐の方を向く。
「やはり手っ取り早く強くなるには実戦が一番じゃ。だがただ闘うのではなく、ワシの動きを見て技術を盗め。そしてそれを以てワシに攻撃を当ててみよ」
そう言うなり之布岐に接近して上段から振り下ろす。正面から受け止めるのは悪手と判断した之布岐が受け流そうとするが、シキの刀はまるで通る道が決まっているかの様に一切軌道を変えずに迫る。しかし刀が之布岐に当たる寸前にピタリと止まった。
「ふむ、状況判断はまずまずといったところじゃろうか。次、往くぞ」
そう言って飛び退ったシキは之布岐が構え直すのを確認してから再度接近する。
シキの突きの様な予備動作を確認し横に避けようとした之布岐の目に写ったのは、突きではなく横に薙ぐ動作になっていたシキの身体だった。的確に之布岐の頸を狙い振るわれる刀を身を屈めてやり過ごそうとするが、之布岐の頭上でピタリと止まった刀が何時の間にか刃を下にして振り下ろさてれいた。
咄嗟に転がって避けた先に待っていたシキの蹴りを受けて数メートル転がされ、よろりと立ち上がった之布岐の耳にシキの叱咤の声が聞こえて来る。
「如何した。攻撃して来い 、打ち込んで来い。逃げの一手では倒せるモノも倒せぬぞ」
その声を聞いた之布岐はシキに接近し攻撃する。
袈裟、逆袈裟、薙ぎ、突き、振り下ろしと連続で振るうが全ていなされ、反撃とばかりに連撃を浴びせられる。
そんなこんなで修行が続き、菓子を片手に観戦していたハクノが飽きてきた頃、何時の間にか大量に居た観戦者で出来た人垣を割ってブレージが近付いて来た。
「騒がしいと思って来てみればこれはどういう事だい?」
ハクノを見つけたブレージが未だに切り結んでいるシキと之布岐を指しながら聞いて来る。
「朝に之布岐が剣を教えてくれって言ったの。それでシキさんが実戦形式で稽古をつけてるって訳」
「な、成程……因みに彼女等はどの程度加減しているのかな?」
「之布岐はほぼ全力に近いね、でもシキさんは全力の3割も出して無いと思うよ」
さらりと答えたハクノにブレージが口元を引き攣らせる。ハクノの耳に「あれで3割……」という声が聴こえてくるが、一々反応するのも億劫なので聞こえないふりをする。
暫く呆然とシキ達の方を見ていたブレージだったが、思い出した様に口を開く。
「そうだ、そろそろ時間なので待っていたら訓練場の方に人が集まっていたから何事かと思って来たんだ」
「なら2人も呼ばないとね」
「頼めるかな?私じゃあとてもあの中には入れそうにない」
ブレージが未だに激しい攻防を繰り広げているシキと之布岐を指して言う。
こくりと頷いたハクノは盾を取り出して2人に近づく。
何をする気だとざわめく観戦者をよそに、気軽な様子で歩を進める。
そして今まさに振り下ろされんとした2人の刀の間に入り、シキの刀を盾で、之布岐の刀を素手でいなした。
「
「もう約束の時間だってさ、ギルドマスターも迎えに来たし……そんなに睨まないでよ」
ギロリと睨み殺気を放つシキに事情を説明する。
「む……済まぬ……つい興が乗ってはしゃいでしもうた。許せ」
ハクノから一通り聞いたシキは先程の己を思い返し、はしたなかったと赤面する。
「じゃあギルドマスターのとこ行こうか」
「そうじゃな」
ブレージの方まで歩いて行き、遅れたことを謝ってから執務室まで行く流れになった。
ブレージはシキ、ハクノ、之布岐の3人の前を歩きながら先程の光景を思い出す。
かつてA級冒険者として名を馳せていたブレージからしても何が起こっているのか判らない、そんな戦いだった。剣はともかく、その身体さえもブレて見えた。
それにその2人の間に入って剣を捌いたのだ。それに片方は素手でそれを行った。
ブレージにとっては異次元のやり取りだった。
極めつけはあの殺気だ。ハクノと之布岐には遊びを邪魔された子供のように写ったがブレージにとっては嘗て相対した竜など目ではない、言い伝えに聞く龍の姿を幻視する程の威圧感であった。
実際に倒れている冒険者も居た。他の冒険者達も顔を青ざめさせ、脚を震わせていた。
とんでもない人達を連れてきたな、とクリスト達に心の中で怨念を送りながら執務室まで己の心情を隠しながら歩いて行った。
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