第14話 宿でのこと
ギルドの執務室を出たシキ達はクリスト達と別れ、外にいたギルド職員に宿まで案内された。
そこで職員が受付に何事か伝え、此方に一礼してから出ていくと、受付に呼ばれ部屋まで案内された。
シキはごく一般的な宿屋を想像していたが案内された部屋は複数の部屋に別れており、居間、寝室、風呂と豪華な仕様となっていた。
暫く寛いでいたシキ達は空腹を覚え食堂に行くが、やはりと言うべきか部屋から予想できた事だがこの宿はグレードが高い宿の様で出された料理も何処となく高級感を醸し出していた。
夕食を終えたシキ達は部屋に戻り、男女別々に風呂に入ると寝室に行く。
だが此処でとある問題に直面する事になった。そう、ベッドがひとつだけだったのだ。
そこで之布岐が自分が居間のソファで寝ることを提案するが、明日は忙しくなりそうな為却下される。そうすれば必然的に3人同じベッドで寝ることになり、話し合いの結果シキをハクノと之布岐が挟む様な形になった。
そのままベッドに倒れ込んだハクノは早速寝息を立てる。
「ワシは寝るがくれぐれも変な事はするでないぞ」
「あ、あぁ、わかってる」
シキが念を押し之布岐が答え、直ぐにシキの寝息が聞こえて来る。
之布岐はシキの前世での残念っぷりを思い出し気持ちを抑えようとするが、眼前で寝ているのは目も眩む程の美少女。之布岐の努力も虚しくなるだけだった。
そんな時、突然シキの腕が伸びてきて之布岐の頭に触れ、そのまま抱き寄せる。
すると当然柔らかな感触を顔で感じ硬直するが、シキの心臓の鼓動を聞いていると何故か心が落ち着いていき、頭を優しく撫でるシキの手に身も心も委ねていると徐々に意識が遠のいていった。
朝になり目を覚ましたシキは困惑する事になった。
何せハクノがモフモフの尻尾に抱きついているのはまだしも、之布岐の頭を己の腕で抱いているのだ。
そんな状況にあれば流石にシキも赤面しベッドから抜け出そうとするがハクノが絶妙な力加減で尻尾を掴んで離さないため力が入らず解放されたのは之布岐とハクノが起きた30分後であった。
「むぅ……」
「ごめんって、わざとじゃないから許してよ」
「シキ、そこまでにしてやれ。悪気があった訳では無いと言ってるんだ、許してやれ」
「むぅ……仕方ないのぅ……飯に行くか」
拗ねた様にそっぽを向くシキにハクノが何度目かわからない謝罪をし、之布岐が窘める。
漸く機嫌を直し食堂へ向かうシキを追い、ハクノが之布岐にナイスフォローとでも言う様にウィンクし、シキの方へ駆けて行く。
そして突然の不意打ちを喰らった之布岐は顔を赤くし、「前世は男、前世は男」と自分に言い聞かせる様に呟きながら2人を追いかけて行った。
朝食を食べ終わると之布岐が意を決した様に口を開いた。
「シキ、俺に剣を教えてくれ」
その言葉にピクリと眉を動かしたシキが問いかける。
「ほう……ものぐさなお主にどのような心境の変化があったかは知らぬが、いいじゃろう」
「え……いいのか?」
意外とあっさり承諾されて拍子抜けした之布岐にシキがただし、と付け加える。
「教えを乞うたのはお主じゃからな、半端は許さんぞ?」
「……!あぁ!勿論!」
その返事に満足そうに頷いたシキは椅子から立ち上がる。
「良し、ギルドに鍛錬場がある筈故、そこで約束の時間まで稽古をつけてやろう」
こうしてシキ達は宿を出てギルドまで歩いて行った。
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