第13話 街に到着

シキ達は大きな門の前にいた。


「ほぇ〜でっかいねー」


門を見上げたハクノが間の抜けた声を出す。


「ふふん、そうでしょ?この周辺のモンスターは他の場所よりも強いからその分壁も頑強にされてるの」


何故か誇らしげな顔のミリアムが説明する。


「む?こんなに頑強にする程のモンスターなぞおったかの?」


ふと疑問に思い聞いてみるとクリストが呆れた様に答えた。


「いや、シキちゃん達が瞬殺したグレーハウンドも結構強いからな?」


成程、灰狼は狼ではなく犬であったかと納得しながら答える。


「そうなのかえ?あれから十数体程追加で倒したが手応え無かったぞ?」


「な!?十体以上も!?いやそれ以前に何時!?」


「なに、道中狙われておった故、魔術でちょいとな」


「何?剣士じゃなかったのか?」


「あくまで刀と拳が得意なだけで魔術も使えるのじゃ」


「でも、シキちゃんの術式構築は綺麗でした。あの魔術はそのために使っていたんですね」


クリストと話しているとオティーリエも参加してきた。


「そうかの?まぁ褒められて悪い気はせんのぅ」


「ふふ、シキちゃんかわいいです」


褒められて耳をピコピコさせて照れるシキにオティーリエが素直な気持ちを口にすると、シキが耳と尻尾をピンと立てて顔を赤く染めた。


「むやっ!?なんじゃ急に……かわいい等と……」


そんなシキをこれは良いものを見たとハクノがニヤニヤと見ていた。



そんなこんなで門を潜り、シキ達は街に着いた。


「おぉ〜街だ〜」


「街じゃな〜」


「綺麗な街だな」


街に入った途端に周りから注目されているが、改めて異世界に来た事を感じている3人はそれに気付いていなかったのだった。


それから美味そうな匂いに釣られて買い食いしたり、見たこともない物を売っている露店を冷やかしたりと寄り道したがクリスト達の案内でギルドに到着した。


「スマンがシキちゃん達は報告に着いてきてくれ」


クリストにそう言われ、執務室であろう部屋に通されるシキ達が駄弁りながら待っているとドアがノックされ、入ってきたのは柔らかい笑顔を浮かべるエルフの青年だった。


その青年を見て立ち上がろうとするクリスト達を手で制しシキ達の向かい側に座り口を開く。


「調査ご苦労様。そこのお嬢さん方は?」


「あぁ、この人たちには危ないところを助けてくれたんだ。そのことも含めて報告に来た。」


それを聞いた青年はシキ達に身体を向けて自己紹介をする。


「へぇ……私はここ、冒険者ギルド、アーシライア支部のギルドマスターのブレージ・クロップだ、この度は私の部下達を助けてくれてありがとう。」


「良い、偶然居合わせただけじゃ、それに此奴等の案内が無ければ此処には今日中に辿り着けなかっただろうしの」


「それなら良かった。ところで名前を聞かせて貰えないかな?」


「うむ、ワシはシキじゃ」


「ボクはハクノ」


「……俺は之布岐だ」


「3人で旅をしておる。今宵は身分を証明するものがあった方が楽だと思い冒険者になろうと此処へ来た」


ブレージにここに来た目的を告げると驚いた様な反応をする。


「冒険者じゃ無かったのかい?君達程の使い手を他のギルドマスター達が見逃すなんて思えないけど」


「ほう、ワシらを子供と侮らないのか?」


「はは、ギルドマスターにもなるとある程度目が効く様になるものさ」


冗談交じりに答えるがそこには経験に裏付けされた自信が伺えた。


「さて、自己紹介も終わったところで、クリスト、報告を聞こうじゃないか」


ブレージがクリストの方を向き仕切り直す。


「わかった。調査の結果だが特別強い奴はいなかった。ただ、十五体ものグレーハウンドの群れに襲われた」


「何!?良く生き残れたね」


「実際、アーデルベルトが死にかけた。そこでこの3人に救われたんだ。一瞬で4体の首が飛んで気付いたらシキちゃんが居た」


そこまで聞いたブレージが声を潜めてクリストに聞く。


「君達でも感知出来なかったのかい?」

その問いに頷く事で肯定するクリスト。


「あぁ、正直納刀音がするまで存在すら気付けなかった」


「それ程迄か…」


ふむ、と少しの間顎に手を当てて思考するブレージが思い付いた様に切り出す。


「そうだ、シキちゃん達は森から出てきたんだろう?なら森の異変に心当たりはないかい?」


突然話を振られ、驚いて菓子を喉に詰まらせたハクノの背を擦りながらシキが答える。


「む?あぁ、その事じゃがの、恐らくワシらのせいじゃ」


「どういう事なんだい?」


「いやな?ワシらクリスト達に会う迄威圧殺気垂れ流しでの?多分じゃがそれが原因だと思われる故、今後はいつもどうりに戻るじゃろう」


そうシキが締めくくるとブレージが部下らしき男を呼び、何事か囁きシキ達に向き直ると口を開く。


「よし、とりあえず様子見というのが我々の今後の方針だ。でも長い間この状態が続くようだったら君達にも協力して貰うけどいいかな?」


そう言われたシキはまぁ良いかと特に考えずに承諾する。


「うむ、良いじゃろう。2人はどうじゃ?」


「いいよー」


「同じく」


ハクノ、之布岐の同意が得られた所で話を終わらせる流れとなった。


「さて、君達は冒険者登録に来たんだろう?もう遅いけどどうする?」


「そうじゃな……ハクノもおねむの様じゃし、登録は明日にしようかの」


目を擦っているハクノを見て判断するシキ。その言葉を聞いたブレージは控えていた男に宿の手配を頼みシキ達に云う。


「宿は手配したからまた明日此処に来てね。宿代もこっちが負担するよ」


「ほう、随分と気前がよいのぅ。……何が狙いじゃ?」


少し睨んで軽く殺気を放ってみるが効いた様子はなく、軽い調子で流される。


「嫌だな、そんなに身構えないでよ。これはいわば先行投資だよ。君達がいずれ大物に成ると思ってのね」


「ふむ……ではそういう事にしておこう。往くぞハクノ、之布岐」


そう言ってシキ達は立ち上がる。


それを見たブレージが呼び止める。


「そうだ、宿の事だけど扉を開けてすぐの所に居る職員に聞いてくれ」


「うむ、感謝する」


今度こそ立ち上がり退出するシキ達であった。



シキ達を見送ったブレージは深い溜息を吐く。それを見ていた秘書の男が声をかける。


「とんでもない方でしたね」


「あぁ、常に冷や汗が止まらなかった。殺気を浴びた時なんて気絶しなかった私を褒めて欲しいね」


「えぇ、隣にいただけの私ですら鳥肌が立ちっぱなしでした」


男の腕を見てみると未だに鳥肌が収まっていなかった。


「それに、他の2人もとんでもない実力者だろう。明日から忙しくなるぞ。全職員に通達しておけ」


「畏まりました」


頭を下げ男が退出し、ブレージ1人になった部屋に深い溜息が響いた。

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