第7話 模擬戦 弐

「いや、寧ろ攻撃スキルは隙になる故撃たなくて正解かもじゃな」


「そうだよ、殴り合いの最中の技後硬直なんてただ殴ってくれって言ってるもんだよ」


「それもそうか……」


まるで言い訳しているかの様に捲し立てるシキとハクノにそういうものかと納得する之布岐。


「しかし之布岐の言うことも一理あるのぅ」


「じゃああの木に軽くスキル撃ってみるね」

そう言いながらハクノが森の木に近づいてスキルの構えを取る。


「『スマッシュ』」


ハクノが木に向かってマーシャルの初期スキルを放つとバキバキと音を立てて大きく抉れた木が倒れていく。


「うわぁ……」


「想像以上に高い威力じゃな」


「ヨソウガイデース」


「何故片言……」


ともあれ、とシキが仕切り直す。


「ワシらのスキルは無闇に撃つものではないな」


「初期スキルでこれだもんね」


「うむ、誤って人にでも当たれば大惨事待ったなしじゃな」


「上位スキルなんて撃った暁にはテロリスト扱いされるだろうな。それより俺も戦ってみたいんだが……」


若干遠慮気味に提案する之布岐にシキが快諾する。


「よいぞ、さぁ、刀を取れ」


そう言いつつ腰の刀を抜き、また腕を垂らす構えのシキに対して抜刀した刀を八相に構える之布岐。


それを見たシキがほう、と言葉を漏らす。


「なんじゃ、なかなか様になっておるの」


「身体が勝手に動いたんだよ」


「ふむ……武士道スキルのパッシブ効果の影響かの?」


「恐らくな」


「では、借り物の剣とワシの剣、試してみるか」


それだけ言って最早言葉は無用とばかりに闘気を迸らせるシキにこの戦闘狂めと呆れる之布岐。


先に仕掛けたのは之布岐だった。


スキル『縮地』で接近する之布岐を目の前に眉をピクリとも動かさないシキに最低限の動作で振り下ろされる刀をあっさりと己の刀を添えていなす。攻撃をいなされて体制が崩れた之布岐の腹部に容赦なく膝を入れる。


「ぐぅっ!」


十数メートル程吹っ飛んだ之布岐は受け身をとり、追撃を躱そうと身構える。


シキはそんな之布岐に獣の様な笑みを浮かべ言葉を投げかける。


「そんな縮地擬きでは勝てんぞ?ワシが本物の縮地を見せてやろう」


そう言ったシキはスキルではなく技術としての縮地を繰り出す。


突如シキが視界から消え、身を強ばらせた之布岐は目の前に前触れも無く現れたシキに腹を蹴飛ばされ、後方の木をへし折りながら吹っ飛ばされる。


何本か木をへし折って漸く止まった之布岐はいつの間にか接近していたシキに刀を突きつけられ、両手を上げて降参の意を示す。

そんな之布岐を見てつまらないとばかりに唇を尖らせる。


「もう終わりか?つまらんのぅ……」


「はぁ……これ以上やっても勝てんよ」

溜息を吐いて立ち上がった之布岐を物足りなさそうな眼で見てから声を掛ける。


「ほれ、そろそろ昼飯にしよう。ハクノも待っておる」


「……あぁ」


切り替えの早いシキに白い目を向けつつ美味い飯の誘惑には勝てず、歩き始めたシキの後を追う之布岐であった。



────────────────────────────────────────

「スマッシュ」

消費MP:30

威力:500

備考:少し強めに殴る攻撃スキル。低コスト中威力かつ高確率でスタンを取れる為、初期スキルながらその使い勝手の良さで多くのプレイヤーから親しまれている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る